ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第七章

7-52

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 喜んでくれていると思っていたサロワートが、悔し気に唇を噛み締め、涙まで浮かべていたのである。
(((((((どうしてぇ?!)))))))
 彼女の悔しさ、悲しみを、理解出来ずに居ると、魔王プエラリアは「あはは」と無邪気に笑いながら、

「叙事詩で語られる時代から生きて来たボク達が、キミ達には、いったい幾つに見えるのかなぁ♪」
「「「「「「「!」」」」」」」

 とある事実に気付くラディッシュたち勇者組。
 衝撃を受ける傍ら、魔王プエラリアは悦に入った笑顔で以て、

「気付いたみたいだねぇ♪ そうだよぉん♪ ボクが彼女たち預かっているのは「時間」だよぉ♪ それを返したらどうなるかぁ……言わずもがなだよねぇ♪」

 待ち受けているのは「老衰」すら超越した、不可避の死。
 サロワートは涙ながらに精一杯の笑顔で、

「ありがとうラディ、みんなぁ。その気持ちだけでアタシは十分。そもそもアタシ達は(プエラリアの)呪縛から逃れる事は出来ないの」
(((((((そんな……)))))))

 ラディッシュたち勇者組が無力感に苛まれるさ中、魔王プエラリアは異様にも陰りを感じさせない満面の笑顔で「アハハハ」と笑い、

「コレこそがぁ地世を創った先代魔王から「その全て」を受け継いだぁボクのチカラの片鱗♪ このボクが、この世界における『絶対』なんだよぉラディ♪」

 扉の無い食堂の入り口から、仲睦まじく手を繋ぎ歩く親子三人に「見えていない筈の眼」を留め、
「だからねぇ♪」
 愛らしい笑顔の右手の指が「音を打ち鳴らす」が先か、

『止めなさァいぃプエラリアぁあ!!!』
「「「「「「「?!」」」」」」」

 落ち込んでいた筈のサロワートが何故か突然血相を変え、声を荒げ、

 パチン!

 それでも指は打ち鳴らされ、
「「「「「「「?」」」」」」」
 戸惑いを覚えていたラディッシュ達の眼前で、

『『『『『『『なっ!』』』』』』』

 その家族の父親が、一瞬にして膝から崩れるように息絶えた。
 仲の良い親子の下に突然、容赦なく訪れた、永遠の別れ。
 放心する妻。
 声が嗄れんばかりに泣きじゃくる子。
 規模の小さな村の一つと言う事もあり、集まった野次馬たちも顔見知りばかりであったのか、不意に訪れた不幸に見舞われた二人を懸命に気遣い、その姿を目の当たりにサロワートは、

『プエラリアぁあぁぁっぁぁあぁぁ!!!』

 血を吐きそうな怒りを以て激昂。
 ラディッシュ達も掴み掛からんばかりの怒りを露わにしたが、

『大丈夫大丈夫だからぁん♪』

 魔王プエラリアは屈託無く笑って、

「そんなに怒らないでよぉ♪」
 パチン!

 左指を打ち鳴らし、

「これで問題無いよぉ♪」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 怒り収まらぬサロワートとラディッシュたち勇者組。
 外の静まりに、

「「「「「「「「?!」」」」」」」」

 振り向くと、先程まで「この世の終わり」のように泣き崩れていた母子が、

「え?」
「あれぇれぇ?」

 何故に泣いていたのか、自分たちの置かれた状況が理解不能な様子を見せ、眼前で息絶えた姿を晒す男性に気付くと、

「ママ、このヒトだれ?」
「ひぃやぁ!」

 母親は子供を即座に庇って後ずさり、顔見知りと思われた村人たちも一様に、

「行き倒れの旅人なんじゃねぇのか?」
「警備隊を早く呼んで、さっさと片付けてもらぉぜぇ」

 迷惑そうに三々五々散ってき、

『ホラねぇ♪』

 魔王プエラリアは天使の笑顔を以て、

「悲しみは、これで消えたよぉん♪」

 人の命を、人生を、軽々しく弄ぶ暴挙。
((((((((ッ!!!))))))))
 怒りに打ち震えるサロワートと勇者組。
 
 爆発寸前の八人を前に、しかしプエラリアは平然と、
「この世界の全ては『ボクの物』なんだ♪ だからね……」
 ゆっくり開き始めた笑顔の瞼の奥に、

『『『『『『『!』』』』』』』

 ラディッシュ達が驚愕を覚える中、魔王プエラリアはさも当然の事の如く、

「フリンジくんにも触らせないよ♪ これは先代魔王から「その全て」を受け継いだ、このボクにだけ「許される行為」なんだからぁ♪」

 異様な満面の笑顔で語って見せる笑顔に開かれた両目は、燃え盛る炎、恐ろしいほどに混じりけの無い、真紅。
「「「「「「「!?」」」」」」」
 気付けば、いつの間に周囲の時間が止められていて、全ての人々が、物が、動きを失い、まるで静止画の中のような世界で、

『さぁこのボクを、どぅするぅん?♪ どぅしたぁいん?♪♪ 先代魔王すら倒したこのボクに答えて見せてよぉん♪♪♪』

 魔王は高揚感に満ち溢れた天使の笑顔でラディッシュを見据え両腕を広げ、

《このボクを差し置いて「ラミィのチカラ」を受け継いだぁ今の時代のクソ勇者がぁあぁああッ!》

 そこにあったのは世界崩壊をもいとわぬ深い闇であり、底知れぬ、嫉妬の心。
 無防備を晒すラスボスから、予期せず決断を迫られるラディッシュと仲間たち。
 部下を伴わぬ魔王を倒す、絶好の機会。
 しかし、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 七人は躊躇いを覚えていた。
 初代である先代魔王からその全てを受け継いだプエラリアを倒すと言う事は、地世の民が生きる為に構築された「地法の全てが失われる」のを意味し、それによって訪れるであろう弊害は計り知れず、そもそも地世に来ようとしていた目的は「敵対」ではなく「理解」する為であったから。

(いったい僕はぁどうしたら良いんだ!? って言うより僕は理解して何がしたいんだぁ?!)

 ラディッシュの惑いは仲間たちも同じ。
「「「「「「…………」」」」」」
 問われた問いに、誰一人返すことが出来ずに居ると、
「…………」
 プエラリアから笑顔が消え、たった一言、

「興が醒めたよ」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 両眼は再び閉じられ周囲の時間は戻り、飲食店の雑踏の中、

『もぅ帰ったら?』
「「「「「「「!」」」」」」」

「意志無き者に興味は無いよ」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 突き放しに、言い訳すら見つけられなかった。
 思い返してみれば、地世に来て「何を成した」でもなく物見遊山の日々。
 ただただ無言でうつむくと、プエラリアは淡々と、

「こちらに就くか、敵対するか、それとも堕とされた者達と同様に、この世界を維持する養分になるか、自分たちの世界で考えておいで」

『『『『『『『ようぶん!?』』』』』』』

 予期せぬキーワードにギョッと顔を上げたが、それ以上に「別れの言葉」に、

『ちょ、ソレってぇ、』

 真意を問うより先、

 パチン!

 プエラリアの右指は再び音を打ち鳴らし、
「「「「「「「!」」」」」」」
 サロワート以外の勇者組は一瞬にして黒い靄に包まれ視界を失い、

『まっ、待ってプエラぁまだ話はぁ!』

 例の「飛ばされる感覚」が。

『サロワぁあぁぁ!!!』

 咄嗟に手を伸ばすラディッシュ。
 しかし闇の中で懸命に伸ばした手は宙を泳ぐばかりで、代わりに聞こえて来たのは、

≪何をしたいか決まったら、またおいでぇ♪≫
「「「「「「「!?」」」」」」」

 プエラリアの確かな笑い声であった。
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