ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第九章

9-49

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 とある晴れた日の早朝――

 窓から穏やかな朝陽が差し込む、私室として用意された部屋のベッドの上で、
「…………」
 すやすやとした寝息を立てるのは、勇者ラディッシュ。

 仲間たちが抱える不安をどの程度まで理解していのるか、いないのか。
 呑気な寝顔で寝ていると、

 ダァンダァンダァン!

 部屋の扉を激しく連打する音が。
 しかし「健やかな眠り」から叩き起こされたにも拘らず、当人はマッタリ大あくび。
「ふぅっあぁ~~~なぁんだぁ~~~」
 未だ夢現(ゆめうつつ)。

 それほどに平穏な日々が続いていた表れでもあり、起き上がりはしたもののベッドの上で、
「ふぃいぃ~~~」
 寝ぼけ眼(まなこ)でユラユラ揺れていると、

『ラディーーーッ!』

 叩いていたと思われるニプルウォートが彼の返事も待たずに扉を跳ね開け、血相変えて駆け寄り、

『惚けてる場合じゃないさァラディイ!』
「ふぃ~いぃ~~~」

 未だ眠りの世界に片足を突っ込んでいる彼の両肩を、ガシリと掴んで激しく揺さぶりながら、

『ドロプがぁ! ドロプウォートが出奔(しゅっぽん)したさぁあ!!!』

 青ざめた表情で懸命に訴えた。
 出奔、それは大戦を前に逃亡したのを意味したが、ラディッシュは現実味の無い話と、目覚めていない頭とが相まって、

「あははははニプルぅ、エイプリルフールにはまだ早いよぉ~って「えいぷりるふーる」って何だっけぇ~~~」
「何を言ってるか知らんけど早く目を覚ますさァラディ!」

 責める彼女はまくし立て、

『アイツがラミィを拉致して逃げたのさァア!』
「へぇ?」
「しかも一緒に居たパストリスとチィックウィードを傷付けてぇ! 止めに入った親衛隊まで蹴散らしてぇえ!」
『なっ?!』

 寝起きの彼にとって、真偽は不透明。
 しかし「二人が傷付けられた」と聴かされては、悪い冗談の可能性があっても眠気は一瞬に吹き飛び、

『怪我の程度は!』
「重症だけど命に別条は無いさァ! ターナップ主導で治療にあたってる!」

 命に別状(べつじょう)はないと知らされ、ほんの少し胸を撫で下ろしたが、話は真実味を帯び、
「ど、どうしてドロプが……」
 疑問が首をもたげる。

 傷付けられた二人の姿が胸をよぎり、取り留めのない自問自答が頭の中をグルグルと駆け回ると同時、泣いたり、笑ったり、怒ったり、仲間たちの中で最も長く共に過ごした彼女との日々が走馬灯のように甦る。
(ドロプ……)
 打ち拉がれる心へ、更に追い打ちを掛けるが如く、

「ラミィを「チカラごと取り込む」って言ったそうさァ!」
『ラミィっお!?』

 ギョッとした。
 信じられなかった。
 それ以上に、妖精ラミウムは地世の七草パトリニアと死闘を演じたラミウムが、ラディッシュに最期に託したチカラから生まれた存在であるが故に、

『ドロプは何処へ向かったァア!』

 ベッドから飛び降りた顔には、堪え切れぬ怒りがありありと。
 着の身着のまま壁に掛けてあった上着だけ羽織る彼に、

『行き先までは分からないさ! でも南に向かったと!』
『それだけ分かれば十分だよォ!』

 焦りを多分に含んだ彼女の声を背に、ラディッシュは部屋から飛び出した。
 仲間のあとを追う者とは思えぬ、処刑人のような眼をして。

 そんな彼の背を、
「…………」
 悲し気な眼差しで見送るニプルウォート。

 足早な靴音が遠ざかり、静かになった開けっ放しの部屋で視線を落とすと、廊下から彼女の下に近づく幾つかの気配が。
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