ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-8

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 リンドウは闊達であったドロプウォートの姿を想い、こぼれ落ちそうになる涙を懸命に堪えながら、

「今は英雄の彼女が持つ、自己修復能力の高さに賭けるより他、回復を祈るしか無いのし」
「「「「「「…………」」」」」」

 ヒレンたちはドロプウォートの「決意の固さ」に押し切られ、首を縦に振ってしまった事に、今更ながらの後悔を覚えた。

 その苦悶の表情から、
(僕が……僕が不甲斐無いばかりに皆にまで……)
 仲間たちに背負わせてしまった十字架の重さを知るラディッシュ。

(何をやっていたんだ僕はァ!)

 覚えた感情は激しい憤り。
 密かに握られた両の拳が、自身への怒りで固くフルフル震えると、

『パパ……ダイジョブ……なぉ……?』
(!)

 不安げな幼き声が耳に。

 瞬間的に、意識を現在に引き戻されるラディッシュ。
 今の彼は澄み切った青空の下、認識を取り戻さないドロプウォートが座る椅子車を押している。

 傍らには、今にも泣き出しそうな顔で父親(仮)ラディッシュを見上げ服の裾を掴む愛娘チィックウィードの姿が。

(僕は同じ事を繰り返す気なのか!)

 心の内で自らを厳しく叱責、

(仮であるとは言え、父親の僕が娘の不安を煽ってどうする!)

 猛省は顔には出さず、精一杯の笑顔で、
『大丈夫だよぉ♪ ごめんね♪』
 多少引きつりながらも微笑み掛けながら、

「お休みの日なのに、お仕事の事を考えちゃってた♪」

 すると幼きチィックウィードは、父親の言葉が「その場しのぎの取り繕い」と知ってか知らずかムッとして、

『ママとデートちゅうに、オシゴトのことかんがえるなんてぇ、パパはサイテーなぉ』
「あははは……」

 笑ってお茶を濁すしかないラディッシュ。
 しかし、

(んん?)

 年齢に釣り合わぬ「娘のおませな物言い」が甚だ気に掛かり、いびつな笑顔で、
「そぉ、そぉ~んなムズカシイ言葉ぁよく知ってるねぇ~チィちゃん♪ いったい誰から教わったのかなぁ~?」
 すると幼女は満面の笑顔で、

『カディおねぇちゃん、なぉ♪』
(ヤッパリかぁい!)

 心の中で即座に激しくツッコミ。
 犯人は常習犯のカドウィードであり、女の子を持つ父親の心情として、

(いつもいつも余計な知恵ばかり!)

 顔には出せない苛立ちを覚えていると、
「チィちゃん!?」
 愛娘が突然駆け出し、

『ついた、なぉ♪』

 キラキラと天使の笑顔で笑う彼女の背後には、目指していた小川が。
 温かい日差しの下、大人の膝より低い深さの川では村の子供たちが水遊びをしていて、穏やかな日常を思わせる景色を前に苛立ちも浄化され、

「そうだね♪」

 笑顔で頷く父親(仮)ラディッシュ。
 平坦な所を探して椅子車を止め、

「そっと降ろすからね、ドロプ♪」

 外界に対して認識の戻らぬ彼女を優しく抱きかかえ、チィックウィードが一本の木の根元に敷いた三畳ほどの布地に、幹を背もたれ代わりにそっと降ろして座らせた。
 仮ではあるが母親ドロプウォートを中心に親子三人、幹を背もたれ代わりに座って、

「「「………」」」

 自分たちが守って来た平穏をしばし眺めた。
 危険の無い小川で屈託無く笑い、歓声を上げ、はしゃぐ村の子供たち。
 すると父親ラディッシュがおもむろに、

「ねぇチィちゃん♪」
「なぉ?」
「みんなと遊んで来たら?」

 母親越しに愛らしい顔をのぞかせた娘に、同年代と思しき子供たちとの交友を促したが、

『イヤなぉ』

 即答で拒否の愛娘。
 不機嫌にプイッと横を向き、子供のコミュニティーに加わろうとしない彼女の姿勢に父親として「娘の将来の社会性」に一抹の不安を抱き、

「どぉ、どうしてぇ?」

 自身のコミュ障は棚に上げ。

 すると彼女はソッポを向いたまま不機嫌にボソッと、
「チィはオトナなぉ。コドモとぉカンカクがアワナイなぉ」
(またコムズカイことをぉ……)
 幼子の言い分に、内心で思わず苦笑するラディッシュ。

 カドウィードかニプルウォート辺りの「余分な入れ知恵だろう」とは思ったが。
(その割には気にしてる素振りがあるんだよねぇ~)
 事実、彼女はソッポを向きながらも、小川で遊ぶ子供たちを横目でチラチラ窺う様子を見せていた。

 しかしながらその一方で、彼女の小さな手は「遊びたい心」とは裏腹に、認識の戻らない母ドロプウォートの服の裾の端をしっかり掴んでいて、
(離れるのが嫌なのか……それとも……)
 小さな体に抱えた、大きな不安に気が付いた。

《手を放すと消えてしまいそうで怖い》

 とは言え、彼にも強要できない弱みも。

(ドロプの看病をお願いしちゃった手前、「気にしなくて良いから遊んでおいで」とは、説得力が無いしなぁ……)

 チィックウィードは七草の一人であり、地世の魔王軍幹部クラスと単身で渡り合える実力者である。
 それ故に、彼女にドロプウォートを守ってもらえるなら「安心して最前線で戦える」と伝えた気持ちに嘘や偽りはなかったが、どれほど戦闘力が高くとも彼女は「まだ幼子」である。
 自身が口にした言葉を今更ながら、

(言い方ぁ、間違えちゃったなぁ……)

 困惑顔で青空を見上げながら、言葉足らずを、チョイスミスを自省しつつ、母親(仮)から離れる気配さえ見せない愛娘をチラ見。

(チィちゃんが子供らしい時間を過ごせて、ドロプの看病も安心できる、そんな妙案を何か考えないとなぁ……)

 なんの気なしに再び青空を見上げたが、更なる心の内では、
(…………)
 ドロプウォートとの悲しき一戦の後に赴いた、ドロプウォートの実家であるオエナンサ家で行った謝罪と釈明の、ひたすらな「緊迫の時間」を思い返していた。
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