ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十章

10-11

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 それから数日が経過したある朝――

 その日は討伐依頼も無く、ラディッシュは親子(仮)三人で穏やかな朝食の時間を過ごしていた。
 外界に対する認識の戻らぬ、座ったままのドロプウォートの前にも二人と同じ料理が置かれ。

 彼女が「いつ認識を取り戻しても良いように」との意味合いと、彼女の好物であったラディッシュの手料理の香りによる刺激で「認識を取り戻すきっかけになれば」との意味合いから。
 因みにではあるが今の彼女は人間として当たり前の生理現象が無く、入浴も必要としない。

 生命維持に栄養は不可欠であるのに点滴などによる補給を行わず、細胞の新陳代謝を常に行っている人間が何故に体の内外の洗浄まで必要としないのか。

 それは彼女が天世によって造られた英雄であり《自己修復中》であるから。

 百人の天世人であるリンドウとヒレンの共通見立ていわく、
「ドロプは今、「天世の英雄」、「人造勇者」の機能の一つ、無自覚天技による自己修復が発動してるみたいなのしぃ」
「そうね。だから全ては「天世からの恩恵」で賄われ、栄養の摂取も必要なく、自動で天技が発動している間は体の代謝も行われないし、天法を纏っているから体に汚れが付く事も無いわ」
 ドロプウォートがいつの日か認識を取り戻すであろう、願望にも近い根拠ともなっていた。

 やがて朝食を食べ終わり、彼女が今日も料理に手を付けなかったのを内心で残念に思いつつ、父ラディッシュと娘チィックウィードはあえてとも言える明るい笑顔で両手を合わせ、
『『ごちそうさまでした♪』』
 立ち上がる二人。

 幼きチィックウィードは使用済みの皿の片付け、ラディッシュは憂いを極力感じさせない笑顔で、
「お皿を一旦下げるね、ドロプ♪」
 手を付けてもらえなかった料理たちをテーブルから下げた。

 下げた料理は破棄しない。
 彼女がいつ認識を取り戻しても良いように次の食事の時間まで保管し、食されなかった時は次の料理の材料として使いまわした。

 踏み台に乗り、ラディッシュと皿洗いのチィックウィードの傍らには、椅子車に座ったドロプウォート。
 彼女を一人で放置するような事はせず、誰かが常にソバに感じられるよう心掛けていた。

 天技による自己修復中により、極論として「介護が不要」な彼女ではあったが、人の温もりと言う刺激が近くにある事で「回復が早まる」との期待から。
 そこには見守る側の「寂しい思いをさせたくない」との想いも。
 外界に対する認識を失った今の彼女に、そのような感情があるのか甚だ疑問ではあるが。

 親子(仮)が三人並んで和気あいあい、洗い物をしていると、

 コンコンコン♪

 部屋の玄関扉が小刻みなリズムで軽くノックされ、
(来た♪)
 一人、密かにほくそ笑むはラディッシュ。

 訪問者が何者であるのか知っているのを匂わせた一方で、一般的な訪問客が来るには早すぎる時間であり、また急を知らせる緊急討伐依頼とも思えぬ叩き方に、
「ダレなぁお?」
 愛らしく小首を傾げるチィックウィード。

 すると何かしらの企てを持った「ニヤケ顔のラディッシュ」が、下手な演技の素知らぬフリで、
「誰だろうぅねチィちゃん♪ ちょっと出て来てもらえるぅ?」
「…………」
 幼いながらも「何かしらの企み」があるのを態度から敏感に感じ取ったが、彼を父親として信頼する彼女は、

「ハイなぉ♪」

 踏み台からピョンと飛び降り、
「ちょっとぉまつぅなぉ~♪」
 玄関扉にトテトテ駆け寄り、

『おまたせぇなぉ♪』

 天使の笑顔で開けた。
 するとそこには、
「!」
 やんちゃな笑顔を筆頭にした、見慣れた三つの笑顔が。

 それは村の発展に伴い移住して来た子供たちではなく、古参の子供たちであるトロペオラム、オキザリス、フリージア。
 村で起きた数々の経験を経て以前より少し逞しく、成長した顔が並んで居た。

『よぅチィ、ひさしぶりぃ♪』
「オラムぅ、ザリスぅ、フリジぃ、どぉしたなぉぅ?」

 想定外の来訪者に面を喰らいつつも、
(!)
 思考は「ラディッシュの企み顔」と直結。
 彼の手引きであると直感するチィックウィードであったが、トロペオラムは彼女の気付きと関係無しに、

『あそぼうぜぇ♪』

 後ろの二人と共に屈託無く「ニカッ」と笑って見せた。
 頻繁に会っていた頃と、なんら変わらぬ三つの笑顔で。

 しかし、
「なぉ……」
 珍しく躊躇いを見せるチィックウィード。

 気心の知れた三人と遊ぶのに抵抗は無く、幼いながらも父親(仮)の「気遣いから生まれた企て」なのも理解は出来た。
 とは言え、

(チィがいないあいだにぃパパがトウバツによばれてぇ、そんでぇママがヒトリになってぇなにかあったらぁ……)

 大好きな母親(仮)の下から一分一秒離れる事に、言い知れぬ怖さのような物を感じていた。
 幼くとも家族愛ゆえの、任された責任感も。
 それらが二の足を踏ませていると、まるで彼女の心中を察したようなタイミングで、

『心配は御無用であります、チィックウィード殿ぉ!』

 堅苦しく暑苦しい、距離感を著しく欠いた物言いで登場したのは、大柄で、白装束を身纏い、一枚布で素顔を隠した、

『『『『フクタイチョウ♪』』』』

 親衛隊隊長スパイダマグではなく。
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