ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第十一章

11-4

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 話は現在に戻り、地世に繋がるゲートを守る遺跡の階段を、一段一段確実に、一階の光に向かって上りながら、
(…………)
 一人、小さく笑みを浮かべるラディッシュ。

 あらぬ疑いを掛けられたターナップの、パストリスの顔色を窺う必死を思い出し、思わず浮かんだ笑みであったが、それも勇者組としての袂を分かった今となっては懐かしき思い出。

 仲間たちの選んだ新たな門出に、寂しくもあった。

 しかし、下を向いてばかりも居られない。
 中世と天世がどの様な有り様にあるのか、連絡手段の無い地世からでは知る事が出来なかったから。

 想定される最悪のシナリオは、前「地世王のラミウム」の復讐が実りを成し、中世にバラ撒かれた黒球から天世に一斉攻撃がなされ、天罰して中世が報復攻撃を受けること。

 考えたくもない惨劇ではあったが「太陽代わりの雲が盾」となっている地世と違い、中世は天世に対し剥き出しで、起きた可能性がゼロではなかったから。
 先に起きたパラジット国の件もあり、予てより危惧されていた状態ではあったが、迂闊な防御姿勢は「天世に対する敵対行動」として取られ兼ねず。

 やがてラディッシュは仲間たちと、遺跡の外へ。

 明るい陽の差す、中世の世界。

 久々眼にした「不帰の森」の木々は以前と変わらず鬱蒼(うっそう)と、遺跡を、帰還を果たした勇者組を、丸ごと飲み込みそうな存在感で茂っていたが、

『『『『『!?』』』』』

 見上げた空の様子が以前と異なっていた。

 半透明な八角形の、蜂の巣状の幾何学的模様で覆われた空。
 呆然と見上げる勇者組ではあったが、

《覚えがある》

 それはフルール国主導で四大国協力の下、密かに、内々で研究、開発が進められていた天世からの攻撃に備えた防衛システム。
 パラジット国に起きた悲劇は中世の人々に、良くも悪くも教訓を与えていたのである。

《自分の身は自分で守れ》

 そして導き出された答えの一つが、簡単に言うなら「天技を用いた盾」であった。
 しかし、

「これって……いつ完成してたの?!」
「「「「…………」」」」

 疑問形の勇者に、誰も答えを提示できない。
 魔王討伐の為、地世に向かう直前でさえ「完成した」と言う話は、誰の耳にも届いていなかったから。

 とは言え、開発途中であった中世を守る防衛システムの一つが実際に、目の前で、稼働しているのは事実であり、高い木々に覆われた森の奥からでは村の様子さえ窺えず、完成を聴かされていない天技の発動には「急ごしらえな感」が否めず、光の当たり方で見えては消える幾何学的模様が見える「青くは見える空」を見つめながら、

(みんなは、村は、町は、国は、世界は、大丈夫なのかな……)

 その気持ちは仲間たちも同じ。
 不安ばかりが募る中、

『お戻りになられたのですか勇者殿方!!!』
(((((!?)))))

 聞き覚えのある、距離感を著しく欠いた唐突な驚き声が。
 虚を突かれる形で放たれた大声に、ラディッシュたちは耳鳴りを伴いながらも声の主に向かって、

『『『『『フクタイチョウただいマ♪』』』』』
「!」

 元気な苦笑の挨拶を返され少々面を喰らった様子を見せる、素顔を一枚布で隠した親衛隊副隊長であったが、数名の隊員を従えた彼は即座の困惑声で、
「ですから何度も申しております通り、当方の名前は「フクタイチョウ」ではなく、」
 以前と変わらぬ、ある意味で安心と安定を与えるやり取りではあったが、訂正を促そうとした矢先、

「?!」

 彼は違和感を覚える。
 勇者組を見回す動きを見せながら、摩訶不思議そうな声で、

「パストリス殿とターナップ殿は、いずこに?」

 素朴な疑問に、
「「「「…………」」」」
 ニプルウォート達は思わず口をつぐんだが、

『パストとタープは地世の残ったよ』

 口を開いたのは、ラディッシュ。
 悲しみを堪え、パーティーリーダーの責として。

 そして起きた事の顛末を、包み隠さず語って聴かせ、
「なるほど……」
 深く頷き、しばし黙する副隊長。

 やがて重々しく、
「四大様へ御報告せねばなりませんね」
 受けた衝撃がよほど大きかったのか、勇者組を気遣ってか、リアクションに困っている様子を見せつつ、

「早速で申し訳ないのですが内容が内容なだけに、村のギルドハウス内に作った仮想会議室から御報告いただけますでしょうか? 因みに仮想会議室の妨害を企てた国は判明し、防壁強化や修繕は済んでおりますので、いつでも問題なく使用可能です」

 立て板に水が如く早急なる報告を促し、
「…………」
 了承を示す頷きを見せる、硬い表情のラディッシュ。
 
 そんな一方的なやり取りに痺れを切らし、リーダーである彼を差し置いて、

『それよりアレはどう言う事なのさぁ!』

 空に展開されている「天技の盾」を指差したのはニプルウォート。
 開発には、天技のスペシャリストである彼女も携わっていたから。

 それ故に分かる、技術が目指していたレベルに到達していない現実に。

 実戦投入レベルではない筈の代物を目の当たりに、
「半端な技術の使用は手痛いしっぺ返しを食うさ!」
 叱責するような苦言を放った。

 フルール国の騎士だった頃、苛烈な戦場の数々から、常に、一人だけ、無事な帰還を果たした苦い経験から出た言葉であり、それを分かっていながら使用を許した主導的な立場のフルール国にも苛立ちを覚えた。

 愛ある祖国だからこそ抱いた苛立ち。

 圧の強さに、
「そぉ、それは……」
 思わずたじろぐ副隊長や隊員たちではあったが、そもそも指揮権限など責任を持ち合わせていない彼らを詰問しても無意味な話。

 八つ当たりに等しく、憐れと思ったラディッシュが答えを急く彼女を「まぁまぁ」と宥めながら、
「フクタイチョウの話し方から切迫した様子は感じないし、とりあえず落ち着いて話を聴こうよぉ」
(!)
 促しに、ハッとするニプルウォート。

 他の仲間たちからの「同意の眼」に平静を取り戻し、いつになく前のめりになってしまっていた自身を嘲笑した。

 浅い見積もりによる「味方の全滅」を、かつて幾度となく目にして来たからの焦りであったのだが、それは「個人の過去の話」であって、今の仲間たちにとっては教訓でしかない話。

 斜に構えるが常であり、他人の焦りを「からかいでイジル」が常であった彼女は、珍しく感情を露にしてしまった自身が気恥ずかしくもあり、
「わぁ、わるいフクタイチョウ……そのぉ……」
 少し赤面した顔で謝罪を口籠ると、

「可愛よき一面もぉありぃんすなぁ~♪」

 妖艶な笑みを浮かべるカドウィード。
 ここぞとばかりに彼女の頭を優しく撫で撫でなでまくり、からかいの相棒からのからかいに、ニプルウォートは羞恥で赤面顔をより赤く、

『ナデでぇるぅなぁあぁあぁ!』

 意外な一面に笑いが起こり、緊迫の場はひと時の安らぎを得た。

 すると緩みに合わせて副隊長の口も堅さが取れ、
「実は……」
 未完成の技術を使うに至った経緯を語り始めた。
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