82 / 88
続章_80
しおりを挟む
チカラなくうなだれ、事実の全てを語った加津佐。
「東ハヤテ……いつから私が怪しいと思っていたんだ……」
「確信を持ったのは、ツバサが襲撃を受けた後、新津屋先輩と俺達の教室に来た日ですよ」
「……?」
「女性の細腕で硬いパソコンにナイフを突き立てて、利き手の手首を痛めてたんですよね?」
「!」
「あの日だけ、千穂先輩を左手で叩いて痛がらせてましたから。仲の良い友達を、加減の難しい手で突っ込んでいたのが気になりましてね」
「…………」
「漫才で、ボケとツッコミの立ち位置はいつも一緒。まぁそれはともかく……違和感ダケは初めから感じてましたよ」
「それはどう言う、」
「サクラの家の周りをウロついていたストーカーが、学校の制服を着ていた事ですよ。わざわざ学校の制服を着て、身元バレのリスクを冒すのは無意味な行為っスからねぇ。私服でやってれば、ストーカー規制法違反で捕まったあの男に、放火の罪を着せられていたかも知れないっスから」
「なるほどな……私はやり過ぎてしまっていたと言う訳か……」
「心理を捻じ曲げた犯罪行為に完璧は無いんスよ、南先輩。まぁ、その綻びを見出せるかは別の話ですけど」
ハヤテは口元に微かな笑みを浮かべ、
「ですよねぇ、新津屋先輩」
「…………」
いつも通りの作り笑顔のまま、何も答えずハヤトを見つめる新津屋。
(ハヤテくん……? どう言う意味なんだろ……)
二人の間に漂う微妙な空気に、サクラが違和感を感じていると、
「ねぇ、ハーくん。どうでも良いけど、大事な彼女に、いつまで余所の男を押し倒させておくんだい?」
ハヤトを押さえつけた格好のまま、皮肉るヒカリ。
ハヤテは申し訳なさげな笑みを浮かべ、
「悪い悪い、ヒカリ。ほらぁ、お出迎えが来たから」
飛ばした視線の先、廊下の暗がりの奥から警察官達が姿を現した。
「連絡のあった生徒二人と言うのは?」
毅然とした表情の警察官の一人に、ハヤテはハンカチに包んだナイフを渡しつつ、
「あの子が取り押さえている男子生徒と……」
「私です……」
抜け殻の様にうつむいた加津佐が歩み出た。
「うむ。では行こうか」
警察官達はハヤトと加津佐を連れ立ち、
「後で君達にも事情を聞くので、理解はしておいてくれたまえ」
その場を去ろうとすると、
「ハッハッハッ。すみません、少々よろしいでしょうかな?」
新津屋が警察官達を立ち止まらせ、
「彼女は私の右腕として働いてくれた功労者なのです。一言だけ、話をさせていただいてよろしいかな?」
「「「「…………」」」」
警察官達は顔を見合わせ、
「良いだろう」
「ハッハッハッ。感謝します」
新津屋はうつむく加津佐に歩み寄り、彼女の耳元に、
『…………』
何かを囁いた。
加津佐が、魂の抜け殻の様であった表情から一転、
「ありがとうございました」
目元に薄っすら涙を浮かべて微笑むと、
「では、行こうか」
「……はい」
警察官の声に小さく頷き、無言のハヤトと共に暗闇の奥へ消えて行った。
立ち尽くすハヤテ達を前に、
「ハッハッハッ。残念ではあるが、これも彼女の選択。やむを得まい」
新津屋が、憂いも、陰りも感じさせない口調で振り返り、
「では、私達はこれで失礼するよ」
いつも通り、上着をマントの様にたなびかせて背を向けると、千穂もいつも通りの無表情のまま、同じように上着をたなびかせて背を向け、新津屋と共に暗がりへ消えて行った。
「「「「…………」」」」
何とも言葉に出来ない、複雑な表情で見送るハヤテ達。
するとミズホが、おもむろに深々と頭を下げ、
「皆皆様には、大変ご迷惑をお掛け致しました……この謝罪は日を改めて……」
上げた顔は、あまりに沈痛。ハヤテ達は何も言う事が出来なかった。
気休めの薄い言葉をいくら並べても、今の彼女を傷つけるだけとしか思えなかったから。
足取り重く、暗がりへと消えていくミズホの小さな背を、ただ見送った。
自分たちの手で犯人を捕まえる事が出来たハヤテ達。
「なんか……釈然としないでありますね……」
胸の内に、モヤモヤを抱えた顔をするツバサ。
「うん……」
(なんで……こんなにスッキリしないんだろ……)
サクラも心に曇りを抱えたまま、ミズホ達が姿を消した暗がりを見つめていると、ヒカリが沈む空気を一変させる明るい口調で、
「ハーくん、一つ嘘をついたね」
イタズラっぽい声を上げた。
「ん? 何の事だ?」
しらばっくれるハヤテに、
「加津佐先輩が犯人なの、盗聴器の時点で気付いてたんだよねぇ?」
「「え!?」」
驚いて振り向くサクラとツバサ。
ハヤテは観念したように頭を掻き、
「まぁな」
「「!」」
サクラとツバサの胸の内に、「その時何か出来たのでは」との思いがよぎったが、ハヤテは二人の心の内を察し、
「あの時点では、世間的に認められる証拠が無かった。俺とサクラの能力を晒す訳にもいかないしな。俺にとっての最優先事項は……」
ヒカリ、サクラ、ツバサの三人を見つめた。
「ニヒヒヒヒィ」
嬉しそうに笑うヒカリ。
「…………」
恥ずかしそうに、無言ではにかむサクラ。
「いやぁ~あはははは」
照れ臭そうに笑って誤魔化すツバサ。
三人娘の三者三葉の反応に、少し赤い顔したハヤテが、
「俺達も帰るかぁ」
背を向けると、ヒカリ達は顔を見合わせ、
「そうだね!」
「そうしよ!」
「そうしましょう!」
四人は歩き始めた。
「ツバサちゃん、夜遅いから、うちに泊まって行きなよ」
「そうですかぁ? じゃあ、お泊りさせていただこうかなぁ~」
笑い合うヒカリとツバサ。ふと、無言でうつむき歩くサクラが気に掛かり、
「サクラちゃん、どうかした?」
「サクラさん、浮かない顔して、どうかしましたか?」
サクラはハッとした顔を上げ、
「う、ううん、何でもないよ! お泊り、楽しみだねぇ!」
「だねぇ~」
「ハイでぇす!」
心配させまいと二人に笑顔を向けたが、
(新津屋先輩が南先輩に何か囁いたあの時……奥に一瞬見えた「あの色」は何だったんだろ……)
心に微かな騒めきを残すサクラであった。
「東ハヤテ……いつから私が怪しいと思っていたんだ……」
「確信を持ったのは、ツバサが襲撃を受けた後、新津屋先輩と俺達の教室に来た日ですよ」
「……?」
「女性の細腕で硬いパソコンにナイフを突き立てて、利き手の手首を痛めてたんですよね?」
「!」
「あの日だけ、千穂先輩を左手で叩いて痛がらせてましたから。仲の良い友達を、加減の難しい手で突っ込んでいたのが気になりましてね」
「…………」
「漫才で、ボケとツッコミの立ち位置はいつも一緒。まぁそれはともかく……違和感ダケは初めから感じてましたよ」
「それはどう言う、」
「サクラの家の周りをウロついていたストーカーが、学校の制服を着ていた事ですよ。わざわざ学校の制服を着て、身元バレのリスクを冒すのは無意味な行為っスからねぇ。私服でやってれば、ストーカー規制法違反で捕まったあの男に、放火の罪を着せられていたかも知れないっスから」
「なるほどな……私はやり過ぎてしまっていたと言う訳か……」
「心理を捻じ曲げた犯罪行為に完璧は無いんスよ、南先輩。まぁ、その綻びを見出せるかは別の話ですけど」
ハヤテは口元に微かな笑みを浮かべ、
「ですよねぇ、新津屋先輩」
「…………」
いつも通りの作り笑顔のまま、何も答えずハヤトを見つめる新津屋。
(ハヤテくん……? どう言う意味なんだろ……)
二人の間に漂う微妙な空気に、サクラが違和感を感じていると、
「ねぇ、ハーくん。どうでも良いけど、大事な彼女に、いつまで余所の男を押し倒させておくんだい?」
ハヤトを押さえつけた格好のまま、皮肉るヒカリ。
ハヤテは申し訳なさげな笑みを浮かべ、
「悪い悪い、ヒカリ。ほらぁ、お出迎えが来たから」
飛ばした視線の先、廊下の暗がりの奥から警察官達が姿を現した。
「連絡のあった生徒二人と言うのは?」
毅然とした表情の警察官の一人に、ハヤテはハンカチに包んだナイフを渡しつつ、
「あの子が取り押さえている男子生徒と……」
「私です……」
抜け殻の様にうつむいた加津佐が歩み出た。
「うむ。では行こうか」
警察官達はハヤトと加津佐を連れ立ち、
「後で君達にも事情を聞くので、理解はしておいてくれたまえ」
その場を去ろうとすると、
「ハッハッハッ。すみません、少々よろしいでしょうかな?」
新津屋が警察官達を立ち止まらせ、
「彼女は私の右腕として働いてくれた功労者なのです。一言だけ、話をさせていただいてよろしいかな?」
「「「「…………」」」」
警察官達は顔を見合わせ、
「良いだろう」
「ハッハッハッ。感謝します」
新津屋はうつむく加津佐に歩み寄り、彼女の耳元に、
『…………』
何かを囁いた。
加津佐が、魂の抜け殻の様であった表情から一転、
「ありがとうございました」
目元に薄っすら涙を浮かべて微笑むと、
「では、行こうか」
「……はい」
警察官の声に小さく頷き、無言のハヤトと共に暗闇の奥へ消えて行った。
立ち尽くすハヤテ達を前に、
「ハッハッハッ。残念ではあるが、これも彼女の選択。やむを得まい」
新津屋が、憂いも、陰りも感じさせない口調で振り返り、
「では、私達はこれで失礼するよ」
いつも通り、上着をマントの様にたなびかせて背を向けると、千穂もいつも通りの無表情のまま、同じように上着をたなびかせて背を向け、新津屋と共に暗がりへ消えて行った。
「「「「…………」」」」
何とも言葉に出来ない、複雑な表情で見送るハヤテ達。
するとミズホが、おもむろに深々と頭を下げ、
「皆皆様には、大変ご迷惑をお掛け致しました……この謝罪は日を改めて……」
上げた顔は、あまりに沈痛。ハヤテ達は何も言う事が出来なかった。
気休めの薄い言葉をいくら並べても、今の彼女を傷つけるだけとしか思えなかったから。
足取り重く、暗がりへと消えていくミズホの小さな背を、ただ見送った。
自分たちの手で犯人を捕まえる事が出来たハヤテ達。
「なんか……釈然としないでありますね……」
胸の内に、モヤモヤを抱えた顔をするツバサ。
「うん……」
(なんで……こんなにスッキリしないんだろ……)
サクラも心に曇りを抱えたまま、ミズホ達が姿を消した暗がりを見つめていると、ヒカリが沈む空気を一変させる明るい口調で、
「ハーくん、一つ嘘をついたね」
イタズラっぽい声を上げた。
「ん? 何の事だ?」
しらばっくれるハヤテに、
「加津佐先輩が犯人なの、盗聴器の時点で気付いてたんだよねぇ?」
「「え!?」」
驚いて振り向くサクラとツバサ。
ハヤテは観念したように頭を掻き、
「まぁな」
「「!」」
サクラとツバサの胸の内に、「その時何か出来たのでは」との思いがよぎったが、ハヤテは二人の心の内を察し、
「あの時点では、世間的に認められる証拠が無かった。俺とサクラの能力を晒す訳にもいかないしな。俺にとっての最優先事項は……」
ヒカリ、サクラ、ツバサの三人を見つめた。
「ニヒヒヒヒィ」
嬉しそうに笑うヒカリ。
「…………」
恥ずかしそうに、無言ではにかむサクラ。
「いやぁ~あはははは」
照れ臭そうに笑って誤魔化すツバサ。
三人娘の三者三葉の反応に、少し赤い顔したハヤテが、
「俺達も帰るかぁ」
背を向けると、ヒカリ達は顔を見合わせ、
「そうだね!」
「そうしよ!」
「そうしましょう!」
四人は歩き始めた。
「ツバサちゃん、夜遅いから、うちに泊まって行きなよ」
「そうですかぁ? じゃあ、お泊りさせていただこうかなぁ~」
笑い合うヒカリとツバサ。ふと、無言でうつむき歩くサクラが気に掛かり、
「サクラちゃん、どうかした?」
「サクラさん、浮かない顔して、どうかしましたか?」
サクラはハッとした顔を上げ、
「う、ううん、何でもないよ! お泊り、楽しみだねぇ!」
「だねぇ~」
「ハイでぇす!」
心配させまいと二人に笑顔を向けたが、
(新津屋先輩が南先輩に何か囁いたあの時……奥に一瞬見えた「あの色」は何だったんだろ……)
心に微かな騒めきを残すサクラであった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる