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1.始まりの章-5
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数日後―――
廃墟と化した施設の割れた窓から、風と共に雪が吹き込み始める。
世界中の学者達が懸念し恐れた、「核の冬」が現実に到来したのである。
コンピュータシミュレーションにより数ヶ月続くであろうと算出されていた核の冬は、実際には一年以上に渡り人々を苦しめる事となった。
使用された核兵器の量と威力が、想像を遥かに超えていた為である。
正に、人間の愚行の末路。
やがて核の冬も告げ終わり、同じ季節が何度か巡った頃、廃墟と言うより遺跡と化した薄暗い施設内に、懐中電灯を手にした四つの人影があった。
全身宇宙服の様な黄色い防護服に身を包む四人は、透明になっている目元しか見えず、性別や年齢を判別する事は出来ない。
まるで超重力化か深海でも歩く様に、足元を照らしながらのそりのそりと歩いていたが、最後尾の人物がおもむろに、
「兄貴ぃ~~~薄っ気味悪い所ッスねぇ……なぁ~んか出て来そう……」
怯え切った男の声。
無視する様に、前をのしのし歩き続ける兄貴と呼ばれた人物。
「ねぇねぇ兄貴ぃ~~~オイラ、もう暑いッス。この服、脱いで良いッスかぁ~?」
防護服を脱ごうとし出すと、無視していた兄貴分が慌てて腕を掴み、
「バ、バカァ、止めねぇか! 何してやがるッ! コレ見ろ死にてぇのかッ!」
防護服の腕に装着された赤い明滅を繰り返す「簡易型放射能測定器」を見せつけた。
「赤色は防護服必須だ! 被爆以前に即死だぞッ!」
「す、すんませぇ~ん兄貴ぃ。オイラ暑くて、つい……」
事の重大さを理解出来ているのかいないのか、一応ショボくれた様子を見せる子分であったが、怒られて数分経たないうち、
「ねぇ兄貴ぃ~オイラもう帰りてッス……」
「だぁ~ッ! もう、うっせぇ~な! 前金貰ってんだ、帰れる訳ねえだろ!」
苛立つ兄貴分は再び振り返り、
「借金してまで作った居酒屋が核戦争でパァー! 利子で増える一方の返済に、金が要るんよ、金がぁ!」
「兄貴が見栄張って、必要以上に店をデカくしたからっしょ? だから小料理屋にすれば良かったのに」
「俺のせいかよ!」
激昂すると、兄貴分の前を歩いていた何者かが、苛立ち露わに振り返り、
「うるさいッ! 黙って付いて来い「何でも屋」ッ!」
聞き覚えのある女性の声。
それは戦前、数名の兵士と共にこの施設を襲撃した、あの白人女性であった。
声に若さを残しつつも流れた歳月からなのか、積み上げた経験からなのか、声からは自信と風格が感じられた。
「何でも屋」の二人は、声の雰囲気から女性兵士より一回りか二回り上の筈であるが、
「「へぇ~~~い」」
だらけた返事を返し、スゴスゴと後に続いた。
しかし「黙れ」と言われて返事を返し、その舌の根も乾かぬうちに子分は再び、
「ねぇ兄貴~あのおっかない女、軍曹でしょ? 何で部下を連れて行かないんスかねぇ?」
「うるせぇな。ここは下調べもままならねぇ、何が起きるかも分からねぇ一発勝負の現場だ。テメェで先陣切って危ない橋渡る、部下 想いなんだろさ。まぁそんな上官、命預ける下のモンにとっちゃ自慢だろうけどなぁ」
妙に、嬉しそうに語ると、
「じゃあ、俺らは?」
「…………」
一瞬黙り、
「弾除け……捨て駒、使い捨て……」
「アハハハハ。まさかぁ冗談、兄貴ぃ~そこまでは酷くはぁ~」
ケラケラ笑うと、軍曹が再び振り返り、
「早く来い『捨て駒』どもッ!」
「「言い切った……」」
三人が、客がいない漫才を繰り広げている間にも、先頭の人物はズンズン奥へ進み、やがて一つの扉の前に立った。
廃墟と化した施設の割れた窓から、風と共に雪が吹き込み始める。
世界中の学者達が懸念し恐れた、「核の冬」が現実に到来したのである。
コンピュータシミュレーションにより数ヶ月続くであろうと算出されていた核の冬は、実際には一年以上に渡り人々を苦しめる事となった。
使用された核兵器の量と威力が、想像を遥かに超えていた為である。
正に、人間の愚行の末路。
やがて核の冬も告げ終わり、同じ季節が何度か巡った頃、廃墟と言うより遺跡と化した薄暗い施設内に、懐中電灯を手にした四つの人影があった。
全身宇宙服の様な黄色い防護服に身を包む四人は、透明になっている目元しか見えず、性別や年齢を判別する事は出来ない。
まるで超重力化か深海でも歩く様に、足元を照らしながらのそりのそりと歩いていたが、最後尾の人物がおもむろに、
「兄貴ぃ~~~薄っ気味悪い所ッスねぇ……なぁ~んか出て来そう……」
怯え切った男の声。
無視する様に、前をのしのし歩き続ける兄貴と呼ばれた人物。
「ねぇねぇ兄貴ぃ~~~オイラ、もう暑いッス。この服、脱いで良いッスかぁ~?」
防護服を脱ごうとし出すと、無視していた兄貴分が慌てて腕を掴み、
「バ、バカァ、止めねぇか! 何してやがるッ! コレ見ろ死にてぇのかッ!」
防護服の腕に装着された赤い明滅を繰り返す「簡易型放射能測定器」を見せつけた。
「赤色は防護服必須だ! 被爆以前に即死だぞッ!」
「す、すんませぇ~ん兄貴ぃ。オイラ暑くて、つい……」
事の重大さを理解出来ているのかいないのか、一応ショボくれた様子を見せる子分であったが、怒られて数分経たないうち、
「ねぇ兄貴ぃ~オイラもう帰りてッス……」
「だぁ~ッ! もう、うっせぇ~な! 前金貰ってんだ、帰れる訳ねえだろ!」
苛立つ兄貴分は再び振り返り、
「借金してまで作った居酒屋が核戦争でパァー! 利子で増える一方の返済に、金が要るんよ、金がぁ!」
「兄貴が見栄張って、必要以上に店をデカくしたからっしょ? だから小料理屋にすれば良かったのに」
「俺のせいかよ!」
激昂すると、兄貴分の前を歩いていた何者かが、苛立ち露わに振り返り、
「うるさいッ! 黙って付いて来い「何でも屋」ッ!」
聞き覚えのある女性の声。
それは戦前、数名の兵士と共にこの施設を襲撃した、あの白人女性であった。
声に若さを残しつつも流れた歳月からなのか、積み上げた経験からなのか、声からは自信と風格が感じられた。
「何でも屋」の二人は、声の雰囲気から女性兵士より一回りか二回り上の筈であるが、
「「へぇ~~~い」」
だらけた返事を返し、スゴスゴと後に続いた。
しかし「黙れ」と言われて返事を返し、その舌の根も乾かぬうちに子分は再び、
「ねぇ兄貴~あのおっかない女、軍曹でしょ? 何で部下を連れて行かないんスかねぇ?」
「うるせぇな。ここは下調べもままならねぇ、何が起きるかも分からねぇ一発勝負の現場だ。テメェで先陣切って危ない橋渡る、部下 想いなんだろさ。まぁそんな上官、命預ける下のモンにとっちゃ自慢だろうけどなぁ」
妙に、嬉しそうに語ると、
「じゃあ、俺らは?」
「…………」
一瞬黙り、
「弾除け……捨て駒、使い捨て……」
「アハハハハ。まさかぁ冗談、兄貴ぃ~そこまでは酷くはぁ~」
ケラケラ笑うと、軍曹が再び振り返り、
「早く来い『捨て駒』どもッ!」
「「言い切った……」」
三人が、客がいない漫才を繰り広げている間にも、先頭の人物はズンズン奥へ進み、やがて一つの扉の前に立った。
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