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青木 森

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3.旅立ちの章-50

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 点呼を取る為、着の身着のまま水着姿で後部格納庫に集まるA班。
危機的状況であったにもかかわらず負傷したクルーはおらず、本来なら互いの無事を喜び合うタイミングであったが、格納庫内は微妙な、重苦しい空気に包まれていた。
 理由は一目瞭然、ヤマトとジゼである。
 遠巻きに二人を窺うクルー達。
 中には、恐怖の色を滲ませる者さえいた。
 一方、そんな空気を物ともしない強者も。
 マシューとルークは人混みを掻き分け、
「「いやがった!」」
 満面の笑みで駆け寄り、
「いやぁ~さっきは助かったぜぇ!」
「タダ者じゃねぇ~のは分かってけどよぉ、オマエ等ほんとスゲェーーーなぁ!」
 しかし微妙な笑顔を返すヤマトとジゼに、
「「ん? どうした?」」
 首を傾げると、
「あっ! ヤマトとジゼみぃつけたぁ!」
 イサミ、トシゾウ、ソウシも人混みを掻き分け駆け寄ろうとしたが、突如オリビアに背後から抱き止められた。
「え? なに? オリビア? どうして……「こわいかお」してるのぉ?」
 不思議そうに見上げるも、オリビアは何も言わず、苦悶の表情で首を横に振った。
 全てを悟ったマシューとルーク。
 苛立ち露わに床を蹴り、
「テメェ等、またそう言う事かよォ!」
「俺達が初めて乗艦した時もこうだった! 自分の常識から外れるとすぐコレだ!」
 距離を置くクルー達を睨み回すと、ブレイクが人込みの中から姿を現し、
「そうムクれんな、ガキどもぉ。こんな時代だ、みんな自分と家族を守るのに必死なのさ」
 二人の頭を「冷やせ」と言わんばかり、ポンポン優しく叩いた。
 するとダニエルが、まるで怯えるクルー達を代弁するかの様に、
「姐さんは平気なんですかァ!? あんな異常な、人知を超えた力を見せつけられてぇ!」
 すかさずマシューが、ダニエルのパーカーの胸倉を掴み上げ、
「オメェまで何言いやがる!」
 ルークも責め寄り、
「ダニエルゥ! テメェ、それが(命を救ってくれた)仲間に吐くセリフかァ!」
「平気な顔してるオマエ達の方がマトモじゃないんだよォ!」
「「テメェッ! もっぺん言ってみろやァ!!」」
 二人が拳を振り上げ殴り飛ばそうとした瞬間、ヤマトが手を掴み、
「良いんだマシューッ! ルークッ!」
「「良かァねぇーーー!」」
 怒りの治まらない二人であったが、
「マシューッ! ルークッ! お止めぇ!」
 ブレイクの強い命令口調に、二人は苦虫を噛み潰した様な悔しさを滲ませつつ、ダニエルの胸元から手を離し、
「「ケッ!」」
 不穏な空気が漂い静まる格納庫内。
 すると艦長が静寂を打ち破る様に、
「現在本艦は作戦行動中である! 各班急ぎ点呼を済ませ、持ち場につけぇ!」
 しかし思い惑うクルー達は、互いに顔を見合わせ動かない。
 その命令不順とも取れる態度にソフィアが激昂、
「早くなさいッ! 艦長命令ですよォ!」
 あまりの剣幕にクルー達は慌てふためき、持ち場へ四散して行った。
「すまない副長、損な役回りをさせてしまった」
「いえ……」
 頭を下げる艦長に、ソフィアが苦悶の表情で静かに首を横に振ると、
「副長、すまないが指揮をしばらく頼む。ヤマト君とジゼ君は、私に付いて来なさい」
 二人を連れ立ち、格納庫を後にしようとした。
「……艦長ォ!」
 我慢しきれず呼び止めるソフィア。
「…………」
 無言で振り返る艦長。
「本音は……私もクルー達と同じです……」
「……分かった……後で話す」
 不安げな表情を浮かべるソフィアをその場に残し、格納庫を後にした。

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