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青木 森

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5.愁嘆の大地の章-53

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 数日後―――
 改修工事を終えたガルシア改は、浮きドックと分離、一路南極を目指すと思いきや、浮きドックはガルシア改を内包したまま全ての開口部と隔壁を閉鎖。密閉形状に変形すると、巨大な潜水艦に早や変わり。
 そのまま潜航し、南極へと移動を開始した。
 そして予てより話に出ていた配置転換も実施された。
 ジゼが正式にブリッジ要員から外れ、交替でナクアが担当する事になったのだが、南極大陸の女王であり、ダイバーズの要人でもある彼女の身辺警護役としてマシューとルークも、新たにブリッジ要員として加わる事になった。
 生身の人間が、戦闘兵器の塊の様なスティーラーの護衛に就くとは何とも奇妙な話ではあるが、ありていに言えばナクアの通訳、お守り、話し相手、クルー達との緩衝材的役割である。
 普段は待機任務中でも他愛ない雑談が飛び交うブリッジ内であったが、感情表現の希薄なナクアにどう対処すれば良いのか分からず、何とも言えない微妙な空気が漂っていた為であり、加えてジゼが移動させられた事で、シセとナタリーが終始不機嫌。
((((((((((話し辛い……))))))))))
 よどむ空気の中、白羽の矢が立ったのがマシューとルークであった。
 二人はその場の空気などお構い無し。全く気にした素振りも見せず、能天気に、
「なぁナクア、やっぱ南極って寒いんだろぉ?」
「だよなぁ。年中冬だって聞いたけどよぉ、俺等こんな薄着で大丈夫なのかぁ?」
 むしろこの天然さが、今は有難かった。
 クルーの誰しもが疑問に思いつつ、初歩的過ぎて聞けない事を平然と聞いてのけ、
((((((((((ナイス、双子ぉ!))))))))))
 クルー達は心の中で賛辞を贈る。
 今や二人はガルシアクルーにとって警護役以上に、ナクアとコミュニケーションを取る為の「貴重なツール」なのである。
 しかしナクアは、
「大丈夫」
 と、短い一言だけ。
 それに対し二人は、
「「へぇ~なるほどなぁ」」
 何の疑問も持たずに頷き返し、
((((((((((もっと深く突っ込んでよぉ~~~!))))))))))
 クルー達は心の中で強く叫ぶ。
 すると今度は、
「「そう言やぁ、海中からどうやって上陸すんだぁ?」」
((((((((((グッジョブ!))))))))))
「それ、は……」
「「それは?」」
((((((((((それはぁ?))))))))))
 クルー達が正面を向いて無関心を装いつつ、耳だけ大きく聞き耳を立てると、
「ナイショ!」
 ガタァラララァ!
 自席で大きくコケるガルシアクルー達。
「「「?」」」
 キョトンとするナクア、マシュー、ルークの三人と、笑って誤魔化すクルー達。

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