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青木 森

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9.黎明の章_12

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 半日ほど経った頃―――
 南極地底湖のほとりにあるナクアの基地に上陸を果たしたヤマト達とガルシア一行は、出迎えに来ていたマシュー達を前に唖然とし、立ち尽くしていた。
「い、いやぁ~実はこういう事でぇ」
 照れ笑いするマシューの背から見え隠れする、少し赤い顔した無表情のナクア。その腹部は、誰の目から見ても明らかに不自然な膨らみを持っていた。
 妊娠である。
「ばっ!? ななぁ!?」
 動揺を隠せないジャック達。
 妊娠とは「どう言う行為」の末に起きる現象か、ヤマトとジゼに聞かされたばかりである。慌てふためき携帯を取り出し、
「つぅ、通報しねぇと!」
「ウチのナクは「幼女」じゃねぇ!」
 苦笑いでツッコム、マシュー。
 医学的な立場から動揺を隠せないジゼも、
「妊娠周数、早過ぎなぁい!? ねぇ、ヤマトぉ!」
「あ、あぁ。いくら俺達が南米に旅立ってスグに、そう言う事になったって言っても、」
 二人が怪訝な顔すると、
「よく分かんねぇけどよ、ナノマシンが活性化した影響らしいぜぇ」
 マシューのざっくりした説明に、赤い顔したままのナクアもコクコク頷き答え、ガルシアクルー達が驚く中、
「な、ナクアさん……」
 ソフィアがおずおずと歩み出て、
「その……お腹を、触って良いかしら……」
 無表情の中に、照れ臭さを滲ませながらも頷くナクア。
「ありがとう」
 微笑みながら、恐る恐る、膨らんだお腹に、そっと手を添え、
「すごいわぁ」
 生き物の神秘に感動。自分の事の様に嬉しそうな顔をし、その笑顔には同性としての憧憬も含まれている様にも見えた。
 するとイサミとアリアナも駆け寄り、
「「さわっていい?」」
 頷くナクアに、二人もそっと手を当て、
「このなかに、あかちゃんがいるのぉ!?」
 イサミが目を輝かせ、
「そだよ、イーちゃん(イサミのこと)」
 村で見た事のあるアリアナが無表情なドヤ顔をすると、
「すごぉい!」
 イサミは一層目を輝かせ、
「イサミもオトナになったら、あかちゃん、できるのぉ!?」
 身を乗り出すと、ソフィアはパッと笑顔を見せ、
「もちろんよぉ」
「「!」」
 喜び合うイサミとアリアナを、微笑ましく見つめた。
 温かな空気に包まれる中、久方振りとなる自然な笑顔を見せるソフィアを、目深に被った帽子他の下から無言で見つめる艦長。
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