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青木 森

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11.交錯の章_15

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 四方八方に水平射出された魚雷群は海面すれすれを走り始めると、突如背面カバーが外れ、内包されていた一回り小さなミサイルが後ろから火を吹き、空に向かって飛び出した。
 大空に弧を描き、明らかに町を狙った軌道で飛翔する小型巡航ミサイル。
(やべぇ!)
「チッ! リストォ、ロォーーードォオ!」
 死神の持つ大鎌を出現させ、大ジャンプしようと身構えるジャック。
「将来の御兄さま(勝手にコーギーと結ばれる事前提)ぁ! ここは、あたくしにお任せ下さいでございますですわァ!」
 制したヴァイオレットは右手を天にかざし、
「来なさァい!」
 赤きフィールドが右掌の上で形を成し、南極で見せた身の丈ほどの巨大なバズーカーの様な武器が姿を現しドスンと手に乗り、
「マリア妹ぉ! 船(潜水艦)には当てんなァ! んなとこ(町の近く)で沈めんじゃねぇぞ!」
 ジャックの叫びを背に、
「分かっていますでございますわぁ、御兄さまァ!」
 軽々振り回すと砲口をミサイル群に向け、
「消えなさいでございますですわぁーーーーーー!」
 周囲の空気を激しく巻き込みつつ、目も眩む、まばゆい光の束を発射。ミサイル群は一瞬のうちに光に飲み込まれ、次々爆発していった。
 しかしロイドは、策が破綻し落胆すると思いきや、再び不敵にニヤリ。同時に、爆発したミサイルの内部に圧縮されていた気体が一気に解放、辺りは瞬く間に白煙に包まれた。
「アナクロな煙幕だとぉ!? こせけぇマネしてんじゃねぇーーー!」
 ジャックが苛立ちの声を上げる中、ロイドは白煙に身を紛れさせつつ、
「ハァーーーハッハッハッ!」
 人を食ったような大笑い。
「これから侵略する国を汚染してしまっては、侵略する意味がなくなるのでねぇ!」
 ルーカス入りの大袋を抱えたまま潜水艦に向かって大ジャンプ。
 遠ざかる声と気配に、
「待ちやがれぇ!」
 大鎌の風圧で白煙を蹴散らそうとするジャック。
 誰もが「ロイドの逃走を許してしまった」と歯ぎしりする中、ブリスベンから遠く離れた「とある施設」のモニタルームで、ロイドとジャック達の交戦を眺めている一人の人物がいた。車イスに乗った初老の男性。その男性はポーカーフェイスのまま、
「ふむ。面白い余興ではありましたが、ここまでのようですねぇ。試作一号機(ルーカス)を、みすみすアメリカにくれてやるのも癪ですからね」
 少し癇に障る物言いの「その声」には聞き覚えがある。
 ルーカスに、失態を犯した前ガーディアン隊長『メイソン・ウッド』の処刑を命じた人物である。
 モニタ前に座る、若いオペレーターの男性にフラットな表情で一瞥くれ、
「おやりなさい。まぁターゲットを殺す事は出来ないでしょうが、テストとデータ収集くらいにはなるでしょう」
 何かしらを指示。
 オペレーターの男性は振り向きもせず、
「かしこまりました、サァー」
 手元の端末を操作、エンターキーを弾いた。
「クソがァ!」
 白煙を振り払うジャック。
 マリア達も武器をロードし、視界を遮る煙幕を掃おうと試みていると、
「!」
 先陣切っていたジャックの体が何かを感じ、背筋がざわついた。
(なんだ!?)
 発生源は、ロイドが肩に担ぐルーカス入りの大袋。得も言われぬ不快感を伴った、微弱な生体電流の変化を感じ取ったのである。
(やべぇ!)
 直感的にそう思い、青いフィールドを正面に急展開させながら、
「フィールドを張れぇえぇぇぇぇ!」
 その声に異変を感じ取ったマリアも慌てて青いフィードを展開。コーギーとヴァイオレットも、エラを守る様に赤いフィールドを展開。
 潜水艦に向かい数十メートルをジャンプ中のロイド。ジャック達の慌てぶりを「こけおどし」と鼻で笑った刹那、肩に担いだルーカスの体が一瞬強く発光し、
「!?」
 ドドォオォォッォォッォォォ!
 驚き顔を巻き込んで、大規模な爆発を起こした。
「クッ!」
 青いフィールドの内側で、爆発による激しい閃光に目を細めるジャック達。赤きフィールドの内側で、ライフルスコープを通して一部始終を目撃したエラは、
「そ、そんな……隊長代行が……」
 ショックのあまりライフルを落とし、その場にへたり込んだ。
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