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青木 森

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15_宿縁の章_1

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 最強の称号を求め、自らの肉体を捨て、アナスの体を奪ったナアクスカムアと、捨てられた肉体に目覚めたヤマト。そして同様の理由で肉体を捨て、アナクスの体を奪ったワイスカムアと、その肉体に宿ったAIのジゼ。
 互いの存在を知らない二組の、宿縁とも思える戦いが刻一刻と近づく中、世界は核戦争後の混乱から未だ抜け出せていないにも関わらず、再びとなる大戦に向け、一歩、また一歩と、その歩みを進めつつあった。
 諍いの中心地に立つ二大国が「アメリカ」と「オーストラリア」。
 アメリカは豊富な資源と、ロイドが残した遺産であるスティーラーの解析データ―、そしてサンプル品と化したスティーラー序列五位ムムスカムアの肉体の解析を推し進める中で得たデータを下に軍事力を強化。圧倒的武力を下に「世界の警察」を名乗り、各国へ軍事介入し、港や空港を専有、ある種の植民地化を行い、勢力を日々拡大しつつあった。
 その触手は、今の地球上でもっとも平和であり、豊かな国のオーストラリアへ。
 核戦争の影響で機能不全を起こしている国連を舞台に、鎖国にて平和を謳歌するオーストラリアの行いを「非」とし、開国して世界平和の協力を要請するアメリカ。
 しかしその内容は「要請」とは程遠く、国内に駐屯地を置くなど、資源と世界から抜きんでた科学技術の情報を搾取する企てが露骨に見て取れた。
 彼らは甘く見ていたのである。
 オーストラリアの科学技術の成長は「核戦争の影響が少なかった為」だと捕え、そのバックボーンには自国と同様に、「スティーラー(ジャック)」を解析して得たロストテクノロジーが用いられている事を。
 世界中の目がある手前、両国は国連の場での舌戦による鍔迫り合いに留めていたが、開戦の火ぶたは、些細なきっかけで切られそうな程、危うい状況であった。
 いつ崩れてもおかしくない脆弱な均衡の中、両国や、起死回生の機会を虎視眈々と狙う各国の目は、とある大陸に向いていた。
 アフリカ大陸である。
 広大な大陸において世界のお目当ては、たったの三人。
言わずと知れたアナス(ナアクスカムア)とアナクス(ワイスカムア)、そしてファティマ。
 南進を続ける三人は、立ち塞がるゲリラ、アフリカの国家規模の軍隊などを次々撃破、歩みを止めず、対する組織も絨毯爆撃に生体兵器に毒ガス兵器、ファティマの拉致など、ありとあらゆる様々な策を弄したが、圧倒的チカラを前に玉砕。
 当初「大いなるチカラの源を手に入れよう」と、自衛を建前に下心見え見えで手出ししていた組織や近隣の国々であったが、迂闊に手を出して国力を削られ、他国の侵略を許す結果を招くより、嵐の様に過ぎ去るのを待った方が得と判断するに至った。
 敵対する相手に、絶対的、圧倒的チカラを惜しげも無く披露する三人は、正に「天災扱い」となっていた。
しかしそこまでのチカラを目の当たりにした世界の国々が、三人を無下に放置する筈も無く、アフリカの組織が数々味わった惨敗データを下に、

『『『『『『『『『『生け捕りが無理なら肉片の一つでも構わん! 何としても他国より、一つでも多くの情報を手に入れるのだァ!』』』』』』』』』』
 
 勅令的号令を発し、他国を出し抜く対応策を日々練りつつ、三人の動向を監視していた。
 立ち塞がる者全てを薙ぎ払い、ついにアフリカ大陸の最南端の国、南アフリカ共和国に達するアナス、アナクスとファティマの三人。
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