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青木 森

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15_宿縁の章_7

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 工作員がもたらした情報により、三人の目的地が『南極である』と知り得た世界各国の作戦室。南極から先の移動手段が無い事から最終目的地と推測し、なおかつ「過酷な環境ゆえに他国を出し抜くチャンスがある筈」と見定め、期せずして時期を同じく、
『『『『『『『『『『雪上戦の準備を急ぐのだ!』』』』』』』』』』
 チカラを欲して止まない世界の国々は、国の威信をかけた号令を発した。

 世界がきな臭さを増す中――
「さっさと車に乗れ!」
 自動小銃を手にした兵士に怒鳴られ、軍用ワゴンに乗り込む男女三人。抵抗の意思が無い事を示す為に両手を頭に置き、手首には手錠がはめられている。
 兵士はキレ気味に扉を閉め、
「いいぞ! 出発してくれ!」
 声を合図に車は走り出した。
 遠ざかる車の背を不愉快そうに見送り、
「ったく、今日で何組目だ!」
 唾棄する様に嘆くと、
『例の三人組の「なりすまし」かぁ?』
 交代要員であろうか、同じ軍服を着た兵士がやって来た。
「どいつもこいつも「施設を破壊されたくなかったら中に入れろ」とか言いやがって! 軍事物資を盗み出そうとするコソ泥ばかりだ!」
「ハッハッハッ。「男一人に女二人」って頭数だけ揃えた構成が、なんとも雑魚らしいじゃないかぁ」
「笑い事じゃないぜぇ、次から次へと面倒臭い」
 困惑した笑いを返す二人が居るのは、ケープタウン元国際空港。旅行会社の社員が言っていた、軍事転用された空港の敷地に入るゲート前。
 アナクス(ワイスカムア)達の武勇伝が広がる中、噂に便乗した「なりすましの輩」が、あちらこちらで犯罪行為を行っていたのである。
 しかしその大半は、人数だけ揃えた、コスプレ大会に段ボール箱を被って着ぐるみと称し参加する様な、雑な輩ばかり。
 言うまでも無くあえなく逮捕され収容所送りとなっていたが、他者の失敗から学ぶことを知らないのか、同様の手口を行い捕まる者は後を絶たず、逆を言えばそれ程までにアナクス達の行動が、一般人の間でも注目されている事を物語ってもいた。
 そんな中、
「お? またお客さんらしいぞぉ」
 からかいの笑みを浮かべると、
「残念。俺はもう上がり、後は頼んだぜぇ~」
 ニヤリと笑い、
「増員してもらわねぇと、体がもたねぇな」
「違いねぇ」
 見送ると、新たに近づく三人組に、
「はいはい、止まった止まった。こっから先は軍の敷地だ。許可なく立ち入るなら収容所を送りだぞ」
 幼子を諭す様な物言いで行く手を塞いだ。
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