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青木 森

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15_宿縁の章_27

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 殺気がヤマトに向けられたモノではない事は、ヤマト自身は気付いていたが、向けらた当の本人だけがソレと気付かず、
「ハッハッハ!  盟友の『気』に当てられ退いたかマガイ者ぉ!」
 余裕の笑みを取り戻し、
「拙者に手傷を負わせた事は褒めてやるでござるぅ! 然るに、この忌まわしき呪い(コーギーのナノマシン)を消した後、貴様も打ち倒して、」
 動けぬ体で喜びの口上を並べたてていると、ブワリと音が立ち、
「!?」
 赤き色を帯びた風に覆われが体に、
「こ、これは何のマネでござるぅワイスカムアよぉ?」
 焦りの滲んだ冷やかし口調で視線を向けると、そこにはファティマを抱き支え、扇子を優雅にヒラヒラと動かして風を操る動きを見せるワイスカムアの姿が。
 優美な動きと相反する、獲物を狩らんする眼。
 殺気が自身に向けられていた物と今更気付き、
「何ゆえ(拙者に)その様な眼を向けるでござる! 敵は、!」
 言いかけた言葉を遮る様にワイスカムアが右手の扇子をひらりと上に動かすと、体を覆う「赤き風」が風力を増し、ナアクスカムの全身を、まるでも雑巾でも絞るかのように締め上げ、
「ギュグゥ!」
 流石のナアクスカムも短い悲鳴を上げると共に、体は軋みを上げ始めた。
「なっ、何をするでござぁるぅうぅ! じっ、弱者どもに加担する気でござぁるぅかぁあぁ! 最強であろうとする矜持は何処へやったでござるぅう!」
「矜持に変わりはありんせぇん!」
「なっ、なればぁ何ゆえええぇ!」
「何処で道を違えたでありんすナアクスカムァ!」
「!」
「かつてのヌシは強さに純粋でありんした! 弱者をなぶり、油断の積み重ねにより成れ果てた姿など……姿など妾は見とうありんせぇんしたぁ……」
 悲し気にうつむくワイスカムア。不安げに見上げるファティマの頭を撫で、
「何故に、ヌシはそうまで変わってしまったでありんす……」
 盟友の凋落ぶりに涙すると、
「か、変わったのはオヌシの方でござる……」
 苦しむ中にありながら皮肉った笑みを浮かべ、意外そうな顔をするワイスカムアにしがみつくファティマを恨めしそうに見据え、
「まっこと、忌々しき「坊」でござる……」
 ワイスカムアを好敵手として、闘いの中で共に研鑽を積んだ「かつての日々」に思いを馳せ、
(こ奴とさえ出会わなければぁ!)
 最期の意地であろうか、赤き風に体を締め上げられながらも、動かぬ筈の右手をファティマに向けようとあがき、
「!」
 過去の想い出と共に涙を振り払ったワイスカムアは鬼神の如き眼を向け、
「痴れ者がぁあぁぁあッ!」
 猛り、右の扇子をチカラ強く振り上げると、赤き風は一瞬にして暴風と化しナアクスカムの体を締め上げ発火。激しい火柱となり、ナアクスカムは塵も残らぬ灰燼に帰した。

 ナアクスカムの死は、各国の偵察部隊の知らせにより、自国の司令部へもたらされ、
「総司令! ターゲットアルファ(ナアクスカム)の消失を確認!」
 オペレーターと思しき兵士の叫びに、
「クッ」
 眉間にシワを寄せる、何処かの国の司令官。
(何とか他国を出し抜き前へ出ねば貴重なサンプルがぁ!)
 それは彼等の持つロストテクノロジーを目当てに集まった全ての国々の思惑と同意であった。
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