選ばれなかった者の記録 ——復讐令嬢は王を超える

SALT

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第48話 血統の亡霊

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――玉座は拒絶された。

 

王冠は踏みつけられ、象徴という幻想は断ち切られた。
だが、その拒絶の先に現れたのは、もうひとつの“選ばれた者”。

 

若き王子、ユーグ・ロイゼル。
灰色の瞳と銀髪を持つ青年は、
かつて王家の“正統の器”として育てられた存在だった。

 

そして今――
その眼差しが、王都の民の前でレイナを貫いていた。

 

「……貴女は、我らが血統に対して剣を抜いた。
つまりこの国に反旗を翻したも同然だ」

 

「違うわ」

 

レイナは、静かに言葉を返す。

 

「私は、“血統”という幻想に刃を向けただけ。
貴方が玉座に座るのなら、それでもいい。けれど――」

 

彼女は一歩、壇上の中心に進み出る。

 

「“血が支配を正当化する”時代は、今日で終わりよ」

 

群衆が、息を呑んだ。

 

この瞬間、王家の歴史と、忘却された家系の亡霊が、正面から衝突した。

 

***

 

この対話は、後に“王都の双眼”と呼ばれるようになる。

 

ふたりの視線が交わったとき、
王国の過去と未来が、静かにせめぎ合っていた。

 

「我らは血を継ぎ、責務を知っている。
貴女のように“怒り”を撒き散らす者に、国は託せない」

 

「託されたいと思ったことなど、一度もない。
私は“奪われた者”として、奪うだけ。
それが、忘れられた血の行き場でしょう?」

 

レイナの声は、冷えた刃のようだった。

 

「……貴女は、復讐のためだけにここに立っているのか?」

 

ユーグの問いに、レイナは首を振る。

 

「復讐は手段よ。私の本懐は、“存在を記す”こと。
この国に消された名、そのすべてに意味を与える。――そのために、貴方に勝つ」

 

「勝つ……?」

 

「ええ。“血に選ばれた王子”ではなく、
“血に捨てられた女”が、この国の秩序を変えた――
その事実を、歴史に刻む」

 

観客の誰もが、動けなかった。

 

それはもはや、単なる権力争いではない。
王国の過去と、未来の形そのものを賭けた――宣戦布告だった。

 

***

 

その夜。王城の奥、密室での評議にて。

 

ユーグは、静かに呟いた。

 

「……あの女の目は、“亡霊”だ。
消された血統が、時を越えて戻ってきた」

 

老王が頷く。

 

「そうだ。レイナはヴェルシュタインの怨念そのもの。
我らが血が切り捨て、忘却の彼方に追いやった“影”が、再び玉座を見ている」

 

「だからこそ、処理しなければならない。
彼女が何を語ろうと、王家は決して“許す”ことはできない」

 

「――いや。もう遅い。
彼女はすでに、“物語”になってしまった」

 

老王の言葉には、王権者としての敗北の響きがあった。

 

***

 

その夜、レイナはセレノに語る。

 

「私は“王子”にはなれない。
でも、“亡霊”としてなら、王を超えることができる」

 

「……それが、貴女の戦い方なのですね」

 

「ええ。
物語は、強者ではなく、“憎まれた者”によって書き換えられるの。
私はその筆を、もう手放すつもりはない」

 

その言葉は、読者の心に深く侵食していく。

 

誰かのための国ではなく――
何かに消された者たちのための、“世界の再構築”。

 

それが、いま確かに始まっていた。
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