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再びお隣さんへ
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「う、うぅーん?」
僕が気づいた頃には、体が布団の上で横たわっていた。暑い。それに喉も酷く乾いている。何か飲まなければ。飲まなければ、きっと死んでしまうだろう。
「そういえば、憊はどうなった?」
ボケた頭でふと、そんな事を考えた。今僕が居る部屋は、見覚えがある。壁に掛けられたカレンダー。赤色の椅子と黄色の設置型ランプが置かれた机。確かにここは実家の自室だ。
部屋の窓から茜色の光が部屋に差し込んでいた。それを見て確信した。今は夕方なんだ。と。
とりあえず何か行動をしなければ、と思い僕は布団から身を起こそうとしたら、体にある違和感を感じた。
「あ、そっか。過去に戻ったんだから当然体も昔仕様になるか」
そう、体が縮んでいたのだ。時を渡る時にはこの事を全く考えていなかった。盲点だった。
「やっべー......完全に盲点だったわ......どうしよかな。とりあえず憊に会って状況整理をしよう、そうしよう」
布団から身を完全に起こし、僕は憊の家に向かおうと、外靴がある玄関へと足を進めた。しかし、そんな僕の最初の一歩に、待ったをかけるモノがいた。そう、携帯だ。僕のダボダボになったグレーのジーンズのポケットの中でプルルルと音を立てながら震えている。過去に来たばっかだから出来ればここでの電話は控えたい。そう思って、この着信に無視を決め込もうとしたが、あまりにもうるさいので、僕は仕方なく電話に出る事にした。
「もう、なんだよ」
「____え?」
電話に出ようと携帯の画面を見るとそこに映っていたのは、中学時代、『藍色の薔薇』と呼ばれ、僕の通っていた『私立藍色中学校』で地域の人達を震え上がらせていた「立華 傷」の名だった。僕の記憶が正しければ僕と立華はそこまで仲良くなかったはずだ。むしろ悪かった。でもどうしてだろう、どうしてこの時、立華は僕に電話を掛けてきたんだ? そもそも僕は何故、立華の連絡先を持っているんだ?
考えれば考えるほど謎が深まり、ネガティブな気持ちになっていく。良くない傾向だ。とりあえず電話に出よう。考えるのはその後で良い。
受話器マークのアイコンを指でタップし、電話に出た。恐る恐る耳に携帯を当てると立華のカミソリのようにざらついた声が僕の鼓膜を強く、刺激した。
「おせーよアホ軌。私言ったよな? 私が電話を掛けてきたら三秒以内に出ろって」
「ごめん......さっきまで寝ててさ、それで遅れたんだ」
昔の記憶はあってもこの声を聞くと、条件反射で尻込みしてしまう。
「ふーん、で? そんな事を私は求めてないんだけど。いいからさっさと『筒烏賊公園』に来いよ」
「拒否権は?」
「あるわけねぇだろ」
その言葉を最後に、通話は切れた。通話の内容的に、ろくな事にならなさそうだ。
「はぁ~どうしようかな~」
立華との約束の前に、僕と同じくタイムリープしたはずの憊に会っときたいな。携帯の画面を見る。現在時刻午後五時。まだ、まだ外に出れるはずだ。記憶が正しければ僕ん家は門限とかには厳しくなかった。少し帰りが遅くなっても問題無いだろう。
「よし、行こう」
自室から出てその勢いのまま、一階へ続く階段を下った。リビングには食器洗いをしている母さんが居た。僕は特に何も言わずに外に出ようとそのまま玄関に向かった。靴紐を結んでいる最中、母さんからこんな事を言われた。
「蒼ちゃんやっと起きたんかいな。全くもぉ~学校から帰ってきたと思ったら早々に自室に向かうもんだから心配したでな。今から外に行くんかいな。気ぃつけぇや、この時間帯は......」
「____赤が映えるから」
赤が映える......か。この言葉は昔からこの地域で言われてきた比喩表現だ。意味は不良や地元ヤクザが喧嘩等の暴力的な事が起こる時間帯だぞという意味だ。
____しっかし、久々に聞いたな。
「大丈夫だよ母さん。赤には関わらないよ。ちょっと憊に会いに行くだけだからさ」
そう言って僕は靴紐を結び終え、踵を落とし、外に飛び出た。夏風が僕の肌を強めになぞった。蝉の鳴き声も聞こえてきた。僕は髪をかきあげ、深く息をついた。
さっき僕が母さんに言った事は少し嘘を混ぜている。立華に会いに行く事、それつまり赤に関わる事と同義だからだ。素直に言わなかったのは母さんはとても心配性なんだ。
僕が外から帰ってきた時に歩いてる最中でコケて軽く膝をすったときにも大粒の涙を瞼いっぱいに溜めながら僕に駆け寄ってきたんだ。
ほらね? そんな心配性の母さんに素直に赤と関わるなんて言えないだろ? 僕は昔から人が悲しむ姿を見るとこっちまで悲しんでしまうんだ。自分は関係無くても、関係があっても、僕は昔からそういう奴だった。
「____調子はどうだろうな、憊は」
「アイツの事だ、どうせ体が縮んだ事を逆にラッキーだと考えて色々よからぬ事を企んでいるだろうな~」
今から会う再びお隣さんとなった親友のリアクションを僕は独りでに想像をしては、笑った。
"青色"を取り戻すという事は案外、楽しいものなのかもしれないと、僕は思った。
僕が気づいた頃には、体が布団の上で横たわっていた。暑い。それに喉も酷く乾いている。何か飲まなければ。飲まなければ、きっと死んでしまうだろう。
「そういえば、憊はどうなった?」
ボケた頭でふと、そんな事を考えた。今僕が居る部屋は、見覚えがある。壁に掛けられたカレンダー。赤色の椅子と黄色の設置型ランプが置かれた机。確かにここは実家の自室だ。
部屋の窓から茜色の光が部屋に差し込んでいた。それを見て確信した。今は夕方なんだ。と。
とりあえず何か行動をしなければ、と思い僕は布団から身を起こそうとしたら、体にある違和感を感じた。
「あ、そっか。過去に戻ったんだから当然体も昔仕様になるか」
そう、体が縮んでいたのだ。時を渡る時にはこの事を全く考えていなかった。盲点だった。
「やっべー......完全に盲点だったわ......どうしよかな。とりあえず憊に会って状況整理をしよう、そうしよう」
布団から身を完全に起こし、僕は憊の家に向かおうと、外靴がある玄関へと足を進めた。しかし、そんな僕の最初の一歩に、待ったをかけるモノがいた。そう、携帯だ。僕のダボダボになったグレーのジーンズのポケットの中でプルルルと音を立てながら震えている。過去に来たばっかだから出来ればここでの電話は控えたい。そう思って、この着信に無視を決め込もうとしたが、あまりにもうるさいので、僕は仕方なく電話に出る事にした。
「もう、なんだよ」
「____え?」
電話に出ようと携帯の画面を見るとそこに映っていたのは、中学時代、『藍色の薔薇』と呼ばれ、僕の通っていた『私立藍色中学校』で地域の人達を震え上がらせていた「立華 傷」の名だった。僕の記憶が正しければ僕と立華はそこまで仲良くなかったはずだ。むしろ悪かった。でもどうしてだろう、どうしてこの時、立華は僕に電話を掛けてきたんだ? そもそも僕は何故、立華の連絡先を持っているんだ?
考えれば考えるほど謎が深まり、ネガティブな気持ちになっていく。良くない傾向だ。とりあえず電話に出よう。考えるのはその後で良い。
受話器マークのアイコンを指でタップし、電話に出た。恐る恐る耳に携帯を当てると立華のカミソリのようにざらついた声が僕の鼓膜を強く、刺激した。
「おせーよアホ軌。私言ったよな? 私が電話を掛けてきたら三秒以内に出ろって」
「ごめん......さっきまで寝ててさ、それで遅れたんだ」
昔の記憶はあってもこの声を聞くと、条件反射で尻込みしてしまう。
「ふーん、で? そんな事を私は求めてないんだけど。いいからさっさと『筒烏賊公園』に来いよ」
「拒否権は?」
「あるわけねぇだろ」
その言葉を最後に、通話は切れた。通話の内容的に、ろくな事にならなさそうだ。
「はぁ~どうしようかな~」
立華との約束の前に、僕と同じくタイムリープしたはずの憊に会っときたいな。携帯の画面を見る。現在時刻午後五時。まだ、まだ外に出れるはずだ。記憶が正しければ僕ん家は門限とかには厳しくなかった。少し帰りが遅くなっても問題無いだろう。
「よし、行こう」
自室から出てその勢いのまま、一階へ続く階段を下った。リビングには食器洗いをしている母さんが居た。僕は特に何も言わずに外に出ようとそのまま玄関に向かった。靴紐を結んでいる最中、母さんからこんな事を言われた。
「蒼ちゃんやっと起きたんかいな。全くもぉ~学校から帰ってきたと思ったら早々に自室に向かうもんだから心配したでな。今から外に行くんかいな。気ぃつけぇや、この時間帯は......」
「____赤が映えるから」
赤が映える......か。この言葉は昔からこの地域で言われてきた比喩表現だ。意味は不良や地元ヤクザが喧嘩等の暴力的な事が起こる時間帯だぞという意味だ。
____しっかし、久々に聞いたな。
「大丈夫だよ母さん。赤には関わらないよ。ちょっと憊に会いに行くだけだからさ」
そう言って僕は靴紐を結び終え、踵を落とし、外に飛び出た。夏風が僕の肌を強めになぞった。蝉の鳴き声も聞こえてきた。僕は髪をかきあげ、深く息をついた。
さっき僕が母さんに言った事は少し嘘を混ぜている。立華に会いに行く事、それつまり赤に関わる事と同義だからだ。素直に言わなかったのは母さんはとても心配性なんだ。
僕が外から帰ってきた時に歩いてる最中でコケて軽く膝をすったときにも大粒の涙を瞼いっぱいに溜めながら僕に駆け寄ってきたんだ。
ほらね? そんな心配性の母さんに素直に赤と関わるなんて言えないだろ? 僕は昔から人が悲しむ姿を見るとこっちまで悲しんでしまうんだ。自分は関係無くても、関係があっても、僕は昔からそういう奴だった。
「____調子はどうだろうな、憊は」
「アイツの事だ、どうせ体が縮んだ事を逆にラッキーだと考えて色々よからぬ事を企んでいるだろうな~」
今から会う再びお隣さんとなった親友のリアクションを僕は独りでに想像をしては、笑った。
"青色"を取り戻すという事は案外、楽しいものなのかもしれないと、僕は思った。
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