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峯森誠司
4話 久しぶり(1)
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次の日の学校で昼休みに、竹井が不思議なことを言ってきた。
「なんか、お前のほうが落ち込んでないか? 今日」
「……は?」
どっかのコンビニで買ってきていたらしい昼飯を、ビニール袋から机へと出していく竹井に視線を飛ばす。
そんな竹井のほうが、能面な顔をしているのに。いつも無駄に陽気なお前のほうが、絶対落ち込んでるだろうが。
「俺が、何に落ち込むってんだよ」
「いや知らんけど」
睨んでみれば、竹井のほうはキョトンとして、それから口を尖らせた。
「そもそも昨日の今日だっちゅーのに、オレをひとつも慰めてくれねーじゃんかよ」
「あ、ああ……そういうことか」
何を勘違いしてたんだ俺は。別にコイツは、意味ありげな言葉を投げてきたわけじゃなかったってことだ。……てか、なんだよ"意味ありげ"って。あーっ、もう自分でもわけわかんね!
だが、これだけはわかる。今日は絶好調に絶不調なことを。動作にうつるのものろいし、思考も停滞している。多分このままだと、部活中にボールが頭に直撃する自信すらある。
「お、お前ら!」
わかりやすいほどの足音がして駆け寄ってきたのは、幸太だった。
「どうだった? どうだった?」
「チッ、なんだよ幸せもんは、オレの不幸を笑いにきたのか。お前なんかずっと彼女と弁当でも食って腹痛おこしてトイレへ駆け込めっ」
完全に立派にヘソを曲げている竹井が、シッシとばかりに幸太へ手の甲を振った。
だが、お構いなく幸太は空いている椅子を引っ張り寄せて座ると、グイッと首を伸ばしてきた、俺のほうに。
「誠司、どうだった?」
「……どうもなにも……」
口にしたくないし、俺が言うのも変な気がする。
「てか鈴木てめえ、知ってたんだろ本当は。彼女から聞いてたんだろ。オレをもてあそんで楽しいのか? ああん?」
幸太の肩をガシッと掴んだ竹井は、ユサユサと前後に揺らし始めた。
「知らねえって、ほんとに! 美乃里ちゃんに聞いても、うっすら笑ってるだけだしっ」
「アイツは彼氏のお前にもそんな感じなのか」
筧の薄ら笑いなんて容易に想像できる。
「で? 羽馬は誰と会ってたんだ? 知ってるヤツ? てかそもそも本当に男だったのか?」
俺がソッポ向いたもんだから、幸太は竹井にターゲットを定めた。竹井は発散するかのように口を開いた。
「男だったよ。しかも、すんげーイケメン。なあ? 峯森」
「イケメン! マジか、羽馬が、あの羽馬が」
幸太は幸太で羽馬に男がいるイメージがなかったらしく、激しく驚いている。
「しかもさ、制服があれ、どこだっけ。私立の有名なとこじゃねーかな。なあ峯森、あれどこだっけ?」
「よその高校ってこと? え? どこで出会ったんだ?」
「明らかにオレらより年上だぜ。あ、くそ! 写メ撮ればよかった!」
ふたりはどんどん盛り上がって興奮していくようで。逆に俺が、どんどん沈んでいってるような錯覚さえする。
幸太には、先輩だったことを言いたくなかった。言えば、確定のような気がするから。どこぞのイケメンなら、ただの噂や見間違いや勘違いですむ気がする。けど、先輩だったと認めれば、「ああ、なるほど」ってわかりやすいほどにそれは現実となる。
……ん? それがなんでこんなに、不快なんだ?
「はぁ、新しい恋を、探すかーぁ」
竹井は、ドスンと椅子に座り、思い出したかのように昼飯に取り掛かりはじめた。
そして俺は、目の前の紙パックのジュースを意味もなく指で弾いて、倒れたそれをただボーッと見るだけで休憩を終えてしまった。
「なんか、お前のほうが落ち込んでないか? 今日」
「……は?」
どっかのコンビニで買ってきていたらしい昼飯を、ビニール袋から机へと出していく竹井に視線を飛ばす。
そんな竹井のほうが、能面な顔をしているのに。いつも無駄に陽気なお前のほうが、絶対落ち込んでるだろうが。
「俺が、何に落ち込むってんだよ」
「いや知らんけど」
睨んでみれば、竹井のほうはキョトンとして、それから口を尖らせた。
「そもそも昨日の今日だっちゅーのに、オレをひとつも慰めてくれねーじゃんかよ」
「あ、ああ……そういうことか」
何を勘違いしてたんだ俺は。別にコイツは、意味ありげな言葉を投げてきたわけじゃなかったってことだ。……てか、なんだよ"意味ありげ"って。あーっ、もう自分でもわけわかんね!
だが、これだけはわかる。今日は絶好調に絶不調なことを。動作にうつるのものろいし、思考も停滞している。多分このままだと、部活中にボールが頭に直撃する自信すらある。
「お、お前ら!」
わかりやすいほどの足音がして駆け寄ってきたのは、幸太だった。
「どうだった? どうだった?」
「チッ、なんだよ幸せもんは、オレの不幸を笑いにきたのか。お前なんかずっと彼女と弁当でも食って腹痛おこしてトイレへ駆け込めっ」
完全に立派にヘソを曲げている竹井が、シッシとばかりに幸太へ手の甲を振った。
だが、お構いなく幸太は空いている椅子を引っ張り寄せて座ると、グイッと首を伸ばしてきた、俺のほうに。
「誠司、どうだった?」
「……どうもなにも……」
口にしたくないし、俺が言うのも変な気がする。
「てか鈴木てめえ、知ってたんだろ本当は。彼女から聞いてたんだろ。オレをもてあそんで楽しいのか? ああん?」
幸太の肩をガシッと掴んだ竹井は、ユサユサと前後に揺らし始めた。
「知らねえって、ほんとに! 美乃里ちゃんに聞いても、うっすら笑ってるだけだしっ」
「アイツは彼氏のお前にもそんな感じなのか」
筧の薄ら笑いなんて容易に想像できる。
「で? 羽馬は誰と会ってたんだ? 知ってるヤツ? てかそもそも本当に男だったのか?」
俺がソッポ向いたもんだから、幸太は竹井にターゲットを定めた。竹井は発散するかのように口を開いた。
「男だったよ。しかも、すんげーイケメン。なあ? 峯森」
「イケメン! マジか、羽馬が、あの羽馬が」
幸太は幸太で羽馬に男がいるイメージがなかったらしく、激しく驚いている。
「しかもさ、制服があれ、どこだっけ。私立の有名なとこじゃねーかな。なあ峯森、あれどこだっけ?」
「よその高校ってこと? え? どこで出会ったんだ?」
「明らかにオレらより年上だぜ。あ、くそ! 写メ撮ればよかった!」
ふたりはどんどん盛り上がって興奮していくようで。逆に俺が、どんどん沈んでいってるような錯覚さえする。
幸太には、先輩だったことを言いたくなかった。言えば、確定のような気がするから。どこぞのイケメンなら、ただの噂や見間違いや勘違いですむ気がする。けど、先輩だったと認めれば、「ああ、なるほど」ってわかりやすいほどにそれは現実となる。
……ん? それがなんでこんなに、不快なんだ?
「はぁ、新しい恋を、探すかーぁ」
竹井は、ドスンと椅子に座り、思い出したかのように昼飯に取り掛かりはじめた。
そして俺は、目の前の紙パックのジュースを意味もなく指で弾いて、倒れたそれをただボーッと見るだけで休憩を終えてしまった。
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