告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~

鶴時舞

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第1話 迷惑な告白

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 新緑が香る五月。草木が芽吹き、生命の息吹を感じさせる季節だ。

 俺、藤崎蒼真ふじさきそうまは、一人放課後に学校の土手に寝転んでいた。

(この学校の芝は最高だな。姫高麗か)

 西洋芝も良いが姫高麗は季節の移り変わりを感じる。良く整備され、ふかっとしたその見た目は、芝マニアとしては一度寝転んでみたいと思っていた。

 ――入学して一月経ったが、難関進学校に無理して入学をした結果、授業に全くついていけてない。

(……失敗したかな)

 最近ずっとそんな気持ちに囚われている。一人、一生懸命勉強するも、効率がなかなか上がらない。塾や予備校に通うほど経済的余裕が無いのも痛いところだった。

「ね!お願いだからさ!」

 少し離れたところ、校舎裏で男女が何やら話をしているのが見える。ギリギリ声が聞こえる程度の距離だ。

「雪代ちゃんさ!ずっと良いなって思ってたんだよ。ね!俺と付き合って!俺、インスタフォロワー1000人超えてるインフルエンサーなんだよ! 損はさせないよ!」

「その……先輩のこと全く知らないですし……」

 女の子の方はうつむき加減で、どう見ても困っている様子。

(ああ、押しの強い先輩からの告白か……相手は……雪代さん!)

 雪代羽依ゆきしろうい。俺の隣の席の女子だ。ちょっと天然が入った感じの子で、俺と仲良く話をしてくれる数少ない女子だ。

 ただ、彼女は男性恐怖症と言う話もある。他のクラスの男子とは距離を取りつつも、俺とは仲良くしてくれてるのは、男子と認識されてないからなのか? とは思っていた。

「じゃあ二人は今日から恋人ってことで! ハイ決定~! ライン教えて」

「そんな……無理です……付き合えませんし、教えたくありません……」

 自分の意志を先輩に伝えられるあたり、しっかりしている部分があるんだと感心した。……ものの、先輩は強引だった。

「え?聞こえないよ。羽依。恋人同士なんだから良いことしようよ。ね?」

 そういって壁ドンをして、雪代さんの足の間に膝をいれる。これは完全にアウト。

 その時、雪代さんと目があった。泣きそうな表情の彼女に向かって、俺は人差し指を口に当てる。

 偶然近くに落ちていた、穴の空いた汚い巾着袋を拾い、先輩の後ろにこっそりと近づいていく。

「羽依。キスしよう。むちゅー」

 気持ち悪い顔をしながら目をつぶってるであろう、その頭に、巾着袋をスポっと被せる。紐をギューッと縛りきつく結ぶ。

「え!? うわっなに? くさ! くらい! なに!? くさ!」

 袋を取ろうと、じたばたしている先輩の足を、迷いなくカニバサミ。倒れたところに、みぞおちへ軽く膝を落とす。

「ぐはぁああ!!」

「我ら雪代羽依、影の親衛隊だ。貴様を粛清する。四肢を切り落とし薪に焚べてやる!!」

 声色を変え、脅し文句を言うと先輩は押し黙り震え始めた。

「え……何? 影の親衛隊って……」

「薪に火を放て! 鉈をもってこい!」

「ひいいいいい!! 許してください! もう二度と雪代さん、いや、雪代様には声をかけません!」

 先輩はぶるぶる震え、遂には粗相をしてしまった。ズボンの周囲に汚い水たまりができている……。やりすぎちゃったかな……。

「……二度目は無いぞ!!」

 そう言い捨て、雪代さんの手を取って、急いでその場を後にした。



 ――彼女と初めて出会ったのは、入学式の日。桜の木の下だった。まだその時の記憶が鮮明に残っている。

 ぼーっと桜の木を見上げているその顔は儚げで、不思議と抱きしめたい衝動に駆られてしまった。

 亜麻色の長い髪をサイドアップにしているのがとても良く似合っている。大きな瞳に筋の通った鼻梁。艷やかな口唇。細い足に見合わぬ豊かな双丘。誰が見ても紛うことなき美少女だった。

 そんなとても可愛い子が男性恐怖症で、でも俺とは仲良くしてくれる。
 そりゃ俺も特別視してしまう。

 普段なら絶対やらないような無茶も、彼女のためならば。

「――藤崎くん、ありがとうね」

 俺に礼を言う雪代さん。その表情は少し青ざめ、唇がまだ少し震えている。よっぽど怖かったんだな。

「雪代さん、まだ震えてる……。本当に大丈夫?」

「すごく怖かったよぉ……。この学校入って、もう10回目ぐらいかな……告白されたの。でも、あんなに強引なのは初めて。もう男の人やだ……」

「10回ってすごいな! ……いや、ごめん。本人にその気がなければ迷惑でしかないよね」

 選り好みしているわけではなく、よく知りもしないのに告白してくるような人間とは、そりゃ付き合えないよな。

「彼氏なんていらないよ……」

 雪代さんが悲しそうにつぶやくのを聞いて、俺まで悲しくなってきた。

(男性恐怖症がさらに酷いことになってしまったんだな。これはもう、俺とも付き合うのは無理かな……)

 最も、告白するほどの関係性も勇気もない。

 ただ、可能性の芽を潰したあの先輩には、ストンピングの嵐でも食らわせておけばよかった。

 そう思っていたところに、いきなり雪代さんが腕にしがみついてきた。

「ごめんね。こうしてても良いかな……」

「え? あ、うん。構わないよ」

 可哀想に、誰かにしがみついていたいほど怖かったんだな。

 震えるその腕から柔らかい感触が伝わってくる。可哀想な感情と嬉しい気持ちが入り混じって脳内がカオスだ。

 帰り道が同じ方向でよかった。訳あって一人暮らししている俺のアパートと雪代さんの家は、わりと近所らしい。何度か一緒に下校したこともあった。

「今日は家まで送っていくよ。良いかな?」

 俺がそう言うと、雪代さんは暗かった表情が、少しだけ明るくなった気がした。

「ありがとう! お礼にうちのお店でコーヒー出すから寄って行ってね!」

 しがみつく腕の力を更に強める雪代さん。
 柔らかな感触に、心臓が大きく跳ねた。

 彼女の笑顔を見たら、今日の無茶も悪くなかったと思えた。
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