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1章
6.不可避
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些細な捕捉:用語説明『ぐぬぬ顔』→主人公の癖。悔しいとき、考えているとき等、眉間にシワを寄せて悔しがる高等テクニック。「ぐぬぬ……解せぬーー!」
____________________
夜になり、母さんが帰って来たので出迎える。なぜか一緒に出掛けたハズの父さんが居なかった。
不思議に思っていると、疲れた様子の母さんがポツリ「重要な話があります」と言った。夕飯の時に伝えるらしく、それまでは何時ものように過ごしていいとのことだ。
次から次へと何なんだ……。
母さんは最後に俺たちの無事を喜ぶ、と言葉を残して去っていった。
「話って、なんだろうね…?」
とにかくフィンスが元通り、元気になってくれて良かった。昨日よりも声音が明るい。
「うん、厄介事じゃなければいいけどな」
こういう時って、いつも厄介事なんだよなぁ、ぐぬぬ。
これ以上は本当にやめてほしい。
「プフッ、なに、その顔!」
「はっ……!!」
考え事をしていた。
ってか、ぐぬぬ顔を笑われた、解せぬ。
ショックを受けつつ、玄関の扉を閉める。その後控えていた使用人に、夕飯の準備をするよう頼んだ。
「さてと、夕飯の準備ができるまで休もうかな」
昼からずっと、フィンスのことを考え続けてたからフラフラする。ベッドに腰掛けた。
「はぁ……」
フィンスのことは今もまだ、迷っている。
俺は自分勝手だから。
覚悟が決まらない。
考えれば考えるほど泥沼にハマった。「フィンスは俺と一緒にいた方が嬉しいはずだ」なんて自惚れてしまえば、なんてな。
フィンスの居ない未来は寂しすぎる。なのに離れないといけない。魔王になってしまう。
フィンスが魔王になったなら。
俺は助けてやれるのかなーーいや、絶対助ける。そんでもってフィンスと一緒に過ごすなら俺は……。自分勝手でも良いのかな。
うん、責任を取ろう。
やっぱり俺はフィンスと離れられない。
ベッドに飛び込んでふて寝した。
「……フィンス、貴方はこれからターニス家次男、フィンス・ターニスとして私達の家族となることが決定しました」
夕飯時、母さんから重要な話について教えられた。
そこで発せられた言葉は少なくとも俺に、動揺を与えた。俺がお兄ちゃんに、なる……。
これってまさか「強制力」というヤツか。
決められた運命は変わらない。変えることが出来ても、大まかには変わらない。ほんと、嫌になってくる。フィンスが、魔王になる。
「は、はいっ!ありがとうございます」
ニパッと花開くこの笑顔。嬉しそうにしているのを見れば「これで良かったのかもしれない」と思いたくなる。
不安はある。でも大丈夫。フィンスが養子になっても、俺が強くなって守れば良い、悪いことは止めれば良い。ただ一人の友達だから。いや、兄として。
俺がフィンスを守れば良い。
俺がフィンスを魔王にしなければいい。
わがままの責任をとる、ただそれだけ。
「リヒト、シェーンはそのための書類を届けに行きました。不安にさせてしまって、ごめんなさいね」
なるほど、だから父さんは居なかったのか。
「下を向かないでください。謎が解けて安心しました。フィンスが家族になるのは俺も嬉しいです」
母さんはふわりと笑ったあと、「食事にしましょうか」と言って使用人を呼んだ。
すぐに運ばれてくる夕飯。
空きっ腹に直撃する匂いだ。
「………………」
それにしても何なんだろうか。視界の端に映る美人な母さん。そんな人がなぜか、俺の方をじっとり見ている。視線を返した方が良いのか、非常に迷う。
ずっと見られると、さすがに照れるな。
スラリとした黒髪に俺と違って優しげな瞳。ぽやぽやした、気の抜けたような可愛い顔。だけど、その実強かな性格をしている。
彼女はふと見せる真顔が何より恐いのだ。
ゆっくりと視線を返した。
……表情がない、ただのシカバネのようだ。
ニコリと睨まれた。
「貴方、何処で"俺"なんて言葉を覚えたの?」
母からの圧倒的プレッシャー。
ラスボス感が漂っている。
この世界のラスボスは魔王フィンス様だというのに。
「は、はひ! すみません改めまっ、しゅ…ッダァイ!」
噛んだ!痛い!!
おいフィンス、今笑っただろ!?
あ、ごめんなさいお母さま。そんなに真顔で見ないで下さいお願いします。心臓がキュンッてする!
「「「………………」」」
冷ややかな食事の準備が整い、みんなで食べた。
「あ、フィンスほっぺに付いてる」
「ぅえ!? うそ!」
騙されたフィンス、かわいい。
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夜になり、母さんが帰って来たので出迎える。なぜか一緒に出掛けたハズの父さんが居なかった。
不思議に思っていると、疲れた様子の母さんがポツリ「重要な話があります」と言った。夕飯の時に伝えるらしく、それまでは何時ものように過ごしていいとのことだ。
次から次へと何なんだ……。
母さんは最後に俺たちの無事を喜ぶ、と言葉を残して去っていった。
「話って、なんだろうね…?」
とにかくフィンスが元通り、元気になってくれて良かった。昨日よりも声音が明るい。
「うん、厄介事じゃなければいいけどな」
こういう時って、いつも厄介事なんだよなぁ、ぐぬぬ。
これ以上は本当にやめてほしい。
「プフッ、なに、その顔!」
「はっ……!!」
考え事をしていた。
ってか、ぐぬぬ顔を笑われた、解せぬ。
ショックを受けつつ、玄関の扉を閉める。その後控えていた使用人に、夕飯の準備をするよう頼んだ。
「さてと、夕飯の準備ができるまで休もうかな」
昼からずっと、フィンスのことを考え続けてたからフラフラする。ベッドに腰掛けた。
「はぁ……」
フィンスのことは今もまだ、迷っている。
俺は自分勝手だから。
覚悟が決まらない。
考えれば考えるほど泥沼にハマった。「フィンスは俺と一緒にいた方が嬉しいはずだ」なんて自惚れてしまえば、なんてな。
フィンスの居ない未来は寂しすぎる。なのに離れないといけない。魔王になってしまう。
フィンスが魔王になったなら。
俺は助けてやれるのかなーーいや、絶対助ける。そんでもってフィンスと一緒に過ごすなら俺は……。自分勝手でも良いのかな。
うん、責任を取ろう。
やっぱり俺はフィンスと離れられない。
ベッドに飛び込んでふて寝した。
「……フィンス、貴方はこれからターニス家次男、フィンス・ターニスとして私達の家族となることが決定しました」
夕飯時、母さんから重要な話について教えられた。
そこで発せられた言葉は少なくとも俺に、動揺を与えた。俺がお兄ちゃんに、なる……。
これってまさか「強制力」というヤツか。
決められた運命は変わらない。変えることが出来ても、大まかには変わらない。ほんと、嫌になってくる。フィンスが、魔王になる。
「は、はいっ!ありがとうございます」
ニパッと花開くこの笑顔。嬉しそうにしているのを見れば「これで良かったのかもしれない」と思いたくなる。
不安はある。でも大丈夫。フィンスが養子になっても、俺が強くなって守れば良い、悪いことは止めれば良い。ただ一人の友達だから。いや、兄として。
俺がフィンスを守れば良い。
俺がフィンスを魔王にしなければいい。
わがままの責任をとる、ただそれだけ。
「リヒト、シェーンはそのための書類を届けに行きました。不安にさせてしまって、ごめんなさいね」
なるほど、だから父さんは居なかったのか。
「下を向かないでください。謎が解けて安心しました。フィンスが家族になるのは俺も嬉しいです」
母さんはふわりと笑ったあと、「食事にしましょうか」と言って使用人を呼んだ。
すぐに運ばれてくる夕飯。
空きっ腹に直撃する匂いだ。
「………………」
それにしても何なんだろうか。視界の端に映る美人な母さん。そんな人がなぜか、俺の方をじっとり見ている。視線を返した方が良いのか、非常に迷う。
ずっと見られると、さすがに照れるな。
スラリとした黒髪に俺と違って優しげな瞳。ぽやぽやした、気の抜けたような可愛い顔。だけど、その実強かな性格をしている。
彼女はふと見せる真顔が何より恐いのだ。
ゆっくりと視線を返した。
……表情がない、ただのシカバネのようだ。
ニコリと睨まれた。
「貴方、何処で"俺"なんて言葉を覚えたの?」
母からの圧倒的プレッシャー。
ラスボス感が漂っている。
この世界のラスボスは魔王フィンス様だというのに。
「は、はひ! すみません改めまっ、しゅ…ッダァイ!」
噛んだ!痛い!!
おいフィンス、今笑っただろ!?
あ、ごめんなさいお母さま。そんなに真顔で見ないで下さいお願いします。心臓がキュンッてする!
「「「………………」」」
冷ややかな食事の準備が整い、みんなで食べた。
「あ、フィンスほっぺに付いてる」
「ぅえ!? うそ!」
騙されたフィンス、かわいい。
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