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第一章 異世界の少女との出会い
#8 魔道具屋への道中~悠貴side~
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怪鳥タクシーを降りたところで少し休憩を取った後、私達はソムニアの街に向かって歩き出した。
降ろしてもらった場所は、街道が整備されている場所だったこともあり、魔物に遭遇することもなかった。
そうして、歩くこと一時間程。
少し行った先に、中世ヨーロッパのような街並みが見えた。
当然と言えば、当然だけれど、日本とは全く違うその光景に、異世界に来た感が一層増して、私は少しワクワクする。
思わず立ち止まって街を眺めていると、前を歩いていたアレッタが振り返った。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや、何でもないです。すいません。すぐ行きます」
私は大きな息をひとつ吐いてから、アレッタの元へと駆ける。
やがて辿り着いた街の入り口には、『ソムニアの街』と書かれている木の看板が立っていた。
看板を過ぎ、街中へと進んでいると、小さな馬車とすれ違った。
馬車はガラガラと車輪の音を立てながら街の外へと走っていく。
「すごっ。私、本物の馬車なんて初めて見ました」
私はキョロキョロと街中を見回して、様子を観察する。
石畳が敷き詰められ、レンガ造りの家々が立ち並んでいるおしゃれな街並み。
人通りも多く、広場はかなりの賑わいを見せている。
すれ違う人はチュニックを着た男性や、時代がかったワンピース姿の女性などいかにも中世風ファンタジー作品の町民然とした恰好をしている人が多い。
まるでファンタジー映画の撮影現場のようだ。
もちろん、映画撮影などではなく全て現実だけれど。
「えっと……ギルドに行ってクエストの完了報告をするんでしたっけ?」
「そうなんだけど、その前に魔道具屋に寄ろうと思って」
「魔道具屋……。何か買うんですか?」
「仮面をね。冒険者ギルドでは、『猫面』として振舞っていて、素顔を晒したことが無くてさ。仮面なしでギルドにいくのはちょっとね……あー、でも、ただ……」
アレッタは少し言いにくそうに告げる。
「なんていうか、気をつけてね」
「気をつけるって、何をですか?」
「今から行くお店の店主は、ちょっとアレっていうか……」
「アレ?」
「油断してるとすぐに胸を触ろうとしてくる変態なんだよね」
なんというセクハラモンスター。
「……客の胸を触ってくるなんて捕まらないんですか? それ」
「一応、身内にしかやってないらしいし……あ、でも、大丈夫。もし、ユッキーに対して度を超すようなことがあれば、わたしがボコボコにするから」
アレッタが自分の胸をトンと叩いて微笑んだ。
と、二人で街中を進み、大通りの外れに差し掛かった時だった。突き当りでガラが悪そうな男と犬耳の少女が言い争っていた。
少女の方は、八重歯が特徴的な幼い顔。十歳前くらいだろうか。
よく手入れされているのが分かる長い髪。胸元にリボンがついたベストにふんわりしたショートパンツを身に着けていて、足元にはブーツ。お尻からはもこもこの尻尾が生えている。
「かえしてください! そのましょうせきはあるじさまにおつかいをたのまれてかっただいじなそざいなのです!」
犬耳の少女が泣きそうな声で男に抗議した。対して男は薄笑いを浮かべる。
男の手には、キラキラと光る水晶のようなものが握られていた。
「悪いな。この間、クエストでしくじったせいで、金が無くてよ。お前が俺にこの魔晶石をくれれば、俺は助かる。お前は人助けができる。いいことじゃねえか」
いや、そのりくつはおかしい。
けれど、自分には男にそう声をかける勇気は無く、尻込みすることしか出来ない。
そんな中、アレッタが口を開いた。
「小さな子からモノを取り上げるなんて、みっともないよ」
突然の乱入者に、男と少女の視線がこちらに向く。少女が「アレッタおねーちゃん」と呟いたのが聞こえた。アレッタの知り合いの子のようだ。
男は険悪な目をこちらに向け、鼻を鳴らした。
「おいおい、ガキがずいぶんと舐めた口を聞いてくれるじゃねえか」
「ガキとか関係ないでしょ……とにかく、いい大人が子供の大事なものを奪うなんて……」
「ああ? ごちゃごちゃうるせえな! 文句があるならかかって来いよ!」
男が懐からナイフを取り出し、チラつかせる。
「……刃物を抜いたのなら、わたしも手加減しないからね」
「ああ? ガキが調子に乗るなよ? 俺は女相手でも容赦しねえぞ」
そう言って男はアレッタに斬りかかった。
アレッタはそれを軽々と避けると、男の懐に拳を叩き込む。
男の身体はくの字にまがって吹っ飛び、そのまま、壁に激突した。
泡を吹いて、男が気を失う。一撃だった。
「……すごいですね」
私は思わずそう漏らした。
「別にチンピラ一人くらいなら、大したことないよ」
アレッタは男の懐を弄り、魔晶石を取り出して、少女へと渡す。
「はい」
「ありがとーございます。アレッタおねーさん」
少女は嬉しそうに魔晶石を受け取った。
「ほんとーにありがとーございました。アレッタおねーさん。それから、えーっと……」
何かを伺うように私の顔を見つめる犬耳の少女。
少しの間の後、私は犬耳の少女が自分の名前を聞きたいのだと察した。
「ああ……桐ヶ谷悠貴です」
「ユーキさん。ユーキおねーさんですね。ハナはハナです。まどうぐやであるじさまのおてつだいをしています。よろしくおねがいします」
降ろしてもらった場所は、街道が整備されている場所だったこともあり、魔物に遭遇することもなかった。
そうして、歩くこと一時間程。
少し行った先に、中世ヨーロッパのような街並みが見えた。
当然と言えば、当然だけれど、日本とは全く違うその光景に、異世界に来た感が一層増して、私は少しワクワクする。
思わず立ち止まって街を眺めていると、前を歩いていたアレッタが振り返った。
「どうしたの? 何かあった?」
「いや、何でもないです。すいません。すぐ行きます」
私は大きな息をひとつ吐いてから、アレッタの元へと駆ける。
やがて辿り着いた街の入り口には、『ソムニアの街』と書かれている木の看板が立っていた。
看板を過ぎ、街中へと進んでいると、小さな馬車とすれ違った。
馬車はガラガラと車輪の音を立てながら街の外へと走っていく。
「すごっ。私、本物の馬車なんて初めて見ました」
私はキョロキョロと街中を見回して、様子を観察する。
石畳が敷き詰められ、レンガ造りの家々が立ち並んでいるおしゃれな街並み。
人通りも多く、広場はかなりの賑わいを見せている。
すれ違う人はチュニックを着た男性や、時代がかったワンピース姿の女性などいかにも中世風ファンタジー作品の町民然とした恰好をしている人が多い。
まるでファンタジー映画の撮影現場のようだ。
もちろん、映画撮影などではなく全て現実だけれど。
「えっと……ギルドに行ってクエストの完了報告をするんでしたっけ?」
「そうなんだけど、その前に魔道具屋に寄ろうと思って」
「魔道具屋……。何か買うんですか?」
「仮面をね。冒険者ギルドでは、『猫面』として振舞っていて、素顔を晒したことが無くてさ。仮面なしでギルドにいくのはちょっとね……あー、でも、ただ……」
アレッタは少し言いにくそうに告げる。
「なんていうか、気をつけてね」
「気をつけるって、何をですか?」
「今から行くお店の店主は、ちょっとアレっていうか……」
「アレ?」
「油断してるとすぐに胸を触ろうとしてくる変態なんだよね」
なんというセクハラモンスター。
「……客の胸を触ってくるなんて捕まらないんですか? それ」
「一応、身内にしかやってないらしいし……あ、でも、大丈夫。もし、ユッキーに対して度を超すようなことがあれば、わたしがボコボコにするから」
アレッタが自分の胸をトンと叩いて微笑んだ。
と、二人で街中を進み、大通りの外れに差し掛かった時だった。突き当りでガラが悪そうな男と犬耳の少女が言い争っていた。
少女の方は、八重歯が特徴的な幼い顔。十歳前くらいだろうか。
よく手入れされているのが分かる長い髪。胸元にリボンがついたベストにふんわりしたショートパンツを身に着けていて、足元にはブーツ。お尻からはもこもこの尻尾が生えている。
「かえしてください! そのましょうせきはあるじさまにおつかいをたのまれてかっただいじなそざいなのです!」
犬耳の少女が泣きそうな声で男に抗議した。対して男は薄笑いを浮かべる。
男の手には、キラキラと光る水晶のようなものが握られていた。
「悪いな。この間、クエストでしくじったせいで、金が無くてよ。お前が俺にこの魔晶石をくれれば、俺は助かる。お前は人助けができる。いいことじゃねえか」
いや、そのりくつはおかしい。
けれど、自分には男にそう声をかける勇気は無く、尻込みすることしか出来ない。
そんな中、アレッタが口を開いた。
「小さな子からモノを取り上げるなんて、みっともないよ」
突然の乱入者に、男と少女の視線がこちらに向く。少女が「アレッタおねーちゃん」と呟いたのが聞こえた。アレッタの知り合いの子のようだ。
男は険悪な目をこちらに向け、鼻を鳴らした。
「おいおい、ガキがずいぶんと舐めた口を聞いてくれるじゃねえか」
「ガキとか関係ないでしょ……とにかく、いい大人が子供の大事なものを奪うなんて……」
「ああ? ごちゃごちゃうるせえな! 文句があるならかかって来いよ!」
男が懐からナイフを取り出し、チラつかせる。
「……刃物を抜いたのなら、わたしも手加減しないからね」
「ああ? ガキが調子に乗るなよ? 俺は女相手でも容赦しねえぞ」
そう言って男はアレッタに斬りかかった。
アレッタはそれを軽々と避けると、男の懐に拳を叩き込む。
男の身体はくの字にまがって吹っ飛び、そのまま、壁に激突した。
泡を吹いて、男が気を失う。一撃だった。
「……すごいですね」
私は思わずそう漏らした。
「別にチンピラ一人くらいなら、大したことないよ」
アレッタは男の懐を弄り、魔晶石を取り出して、少女へと渡す。
「はい」
「ありがとーございます。アレッタおねーさん」
少女は嬉しそうに魔晶石を受け取った。
「ほんとーにありがとーございました。アレッタおねーさん。それから、えーっと……」
何かを伺うように私の顔を見つめる犬耳の少女。
少しの間の後、私は犬耳の少女が自分の名前を聞きたいのだと察した。
「ああ……桐ヶ谷悠貴です」
「ユーキさん。ユーキおねーさんですね。ハナはハナです。まどうぐやであるじさまのおてつだいをしています。よろしくおねがいします」
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