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第1幕 囚われた偽りの巫女

2人の従者は陰と陽

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「次はやっぱりあなたと行くわ、その方が楽しそう」
「この次?そんな時はありません!こんなことは2度と御免ですよ、心配で心配でこの辺りがキリキリと痛むんですから」

ミーナは胸の辺りに両手を当ててみせた。

ミーナはスラオシャと一緒にダリアンの侍女としてこのイルファン国へやって来た。
同い年で、侍女の中では一番話しやすく明るいミーナをダリアンは気に入っていた。イルファン側から付き人は二人まで、という条件が出たとき、真っ先に「私がお供致します」と名乗り出たのが彼女だった。
スラオシャは父であるバルフ国王が護衛として選んで付けた者だけあり、その仕事ぶりは実直であったが『無口で無愛想』は、面白味にかけ飽きがくる。20歳そこそこなのにやけに落ち着いている彼は「退屈でつまらないやつ」と、ダリアンの評価は低い。

「今回はたまたま運が良かっただけなんですから、きっとそうなんですよ」

ミーナがため息混じりに言った。

「運が良かった?……そうね、あの時水牛に蹴飛ばされていたら、ミーナはどうなってたのかしら……ずっと私の身代わりでいなくちゃならなかったのね」

ダリアンはスープをかき混ぜながら、ぼそりと呟いた。

「はい?水牛?拳闘場へにも行ってらっしゃったんですか?」
「いいえ、違うの。バザールを歩いていたら、野牛が後ろから走ってきて」
「はぁ?!ここのバザールはそんな危険な場所でしたか?知っていたら絶対に行かせませんでしたよ、なんて野蛮な所でしょう。あのバルフのバザールの立派だったこと。なんといってもこの辺りじゃ一番立派なんですから。あんな立派な地下のバザールを持っている国なんて、ありゃしませんからね……あっ、いえすみません王女様、また余計なことを」

「いいの、別に」

ダリアンは祖国のバザールを思い出していた。

地下に網の目のように張り巡らされた広いトンネル。大きな通りから幾筋も伸びた細い道。
迷路のようなそこは、子供の頃のダリアンにとっては格好の遊び場だった。

(あの頃は自由だった)

遊んだのはバザールだけじゃない、バルフの城下を囲む広大な森と湖。いつも弟のアデルが一緒だった。2歳下のアデルはいつも私の後を追いかけて、そして少しでも見失うとすぐにべそをかいて、大泣きしていたのに。

それなのに、最後の別れの時は、一粒の涙も溢さなかったわね……。




作業用BGM DREAMCATCHER―Scream
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