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第2章 巫女は聖なる盃を掲げ

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「さぁ、茶番は終わりだ」

ゴリラ兵が腰の物に手をかけた。

「いやぁー、すみません!」

唐突に、私とゴリラ兵の間にユージンが割って入ってきた。

「なんだ、お前」
「ホントにすみません、こいつ俺の妹なんですけど、数日前に婚約者に逃げられて、それからちょっと頭のほうが……時々こうやって変なこと言い出す始末で、すみません。ご迷惑おかけしました」

突然ユージンが登場したのも驚いたけど、突拍子もなく何を言い出してるわけ?
ユージンが私の手を掴んで引き寄せた。
(合図をしたら、あれまで走れ)
ユージンが顎で指した方には、誰も乗っていない荷馬車がある。
なる程、あれに乗って逃げるわけか。
わかった、おっけぇ、全て悟ったよ。
私は頷いてユージンの合図を待った。

「ホントに、すみません……」
「私は巫女だぞ!巫女に無礼を働くと3代先まで祟られるぞっ!」
「おいっ、また何ワケのわからないことを。さぁ、母さんが心配して待ってる、家に帰るぞ」
「母さん?」
「そうだよ、兄さんも心配したぞ」
「お前は誰だ?手を離せ……」

なんてお芝居をしながら荷馬車にあと数歩近づいたところで、ゴリラ兵がユージンの肩を掴んだ。

「おい、待て!」

(行けっ)

ユージンに背中を押され、私は荷馬車へと全速力で走った。

「待て!」
「だから、妹はちょっとオカシイんだって」

荷馬車に駆け上がると、ユージンがゴリラ兵の脛を蹴るのが見えた。
間髪入れずにまわし蹴りが顎にヒットする。
ゴリラ兵は地面へ仰向けに倒れ土埃にまみれた。
次に少年を押さえている兵士の襟首を掴み、顔を数発殴っている。
次に、ひょいっと少年を担ぎ上げ、荷馬車へ駆け上がって来たと思えば、さっと手綱を持ち馬を走らせた。
ここまであっという間の出来事。

「逃がすな!追いかけろっ!」

ゴリラ兵が顎を押さえながら立ち上がり、指示を出したが、みんな呆然と立っているだけだ。

「少年、これを持ってろ」

ユージンは少年に手綱を預けると、後方の荷台へと移動した。

「待てぇー!!」

後方から兵士たちが馬で追いかけて来るのが見える。

道が悪くガタっガタンっと荷馬車が揺れる。
ユージンは上手くバランスを取りながら、荷台の板箱を次々に道へと投げ捨てちゃってる。
箱は派手な音をあげてバラバラに壊れ、中から林檎がゴロゴロ飛び出し転がっていく。
転がる林檎とそれを拾いに来る人々で、追っての馬が怯んで止まったみたい。
その姿がどんどん小さくなって見えなくなって、やっとほっと出来た。

「もう、大丈夫かな?」



作業用BGM  ANS―Say My Name
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