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お城妖精になる

ダークホラーファンタジー王国

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「あ、……ううう」

男は何か答えようとしたが、口が開かず発声がしずらいようだ。

「このドレスを縫うのにどれだけ血と汗と涙と労力と時間と……」

男がリアムの前に正座をして頭を下げた。

つまり土下座である。

「へ?」

リアムはあらためて男を観察する。
男の着ているシルク製のシャツや、履いている革靴や革のベルトから、上流階級の者だとすぐに察した。

そうと知れば話は違う方向へ進めなければならない。

「この、ドレスをね待っている花嫁さんがいるんですよ。これじゃあ結婚式は延期になってしまいます。私にも賠償請求がくるでしょう。……でも、この血は貴方のものだから、貴方が弁償して頂けませんかね」

男は血だらけの顔でリアムを見上げ、うん、と頷いた。

なんて、チョロいんだ!
こいつは馬鹿なのか?? 

リアムの胸は高鳴った。
お金が入る、いいカモに出会えたぞ。
なんなら一生吸い上げられるかも。


やはりヤ◯ザ妖精である。


「このDHF国で、結婚する人がいるんですか?」

男が急に話し始めた。

顔面の傷口がすっかり綺麗に治っている。

血を拭けば多分もう普通の顔だ。

「ちょっと失礼」

男は側を流れる小川で顔を洗い始めた。



《ダークホラーファンタジー王国》


そう、ここは魔王様が支配するダークな世界。

モンスターや悪魔たち、邪悪なものに、闇落ちしたヒーローまで、たくさんのヴィランが居住する国。


リアムが生まれ住んでいた国は、ごく一般的なファンタジーの世界であった。

両国との間に国交はなく、お互いに干渉しない姿勢である。

故に、追っての者達は早々に諦めたのだ。


リアムはほとぼりが冷めるまでこの辺りで時間を潰し、またトンネルを抜けすぐに戻れば良いと考えていた。

なのに、この惨事である。

最初の計画は丸潰れになったが、この男に多大な希望をリアムは見出だし期待していた。


ホッホーホッホーとフクロウが鳴く。


リアムは四方を見渡した。
静かだ。

そして空を見上げほっと息を吐く。
もう、追ってはいない。

針葉樹の尖った三角形の黒いシルエット、それが頭上の空を覆い、その隙間から僅かに月明かりが漏れている。

暗い森の奥には黒い古城のシルエットも見えていた。


***(°▽°){ 下級妖精ナメんなコラ)
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