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お城妖精のお仕事日報及び雑記
闇を孕む声
しおりを挟む「見ろよ、滑稽なやつ」
「無様に転んでやがる」
「なんて醜い妖精だ」
「クククっ、笑っちゃうぞ」
「名前はなんだっけ?」
「青い頭の白いやつだ」
「こんなに不細工な妖精は初めて見るぞ」
「あんな小さい翅で飛べるのか?」
「もちろん落ちて死ぬだろうね」
リアムは立ち上がり背筋を伸ばし姿勢を正した。
「おや、起き上がった? ちいっこすぎて、寝ても立っても、たいして変わらねぇなぁ」
そして壁に張り付いているドラゴンの燭台へ視線を向けた。
ドラゴンの大きく開いた口の中で燃える蝋燭。
火影が揺れるたびに何かがサっと動く。
灯りのうつる壁から暗い壁の闇へと走っていく。
溶けた蝋がドラゴンの口端からタラリと落ち、それが流れる途中でまた固形となってとどまる。
床まで達しようとするそれはまるでドラゴンの髭のようにも見えた。
「やぁ!こっちを見るんじゃないよ」
「無礼なやつめ!」
「礼儀作法を教わらなかったからね」
「だって、パパもママもいないから」
「妖精は親無しのロクでなし」
闇の中に蠢く無数のなにか。
形を持たず霧のように絶えず闇の中を漂い舞う。
彼らもまた何かの妖精かもしれない。
得体は知れないが確かに存在するもの達である。
ただ、リアムらと決定的に違うのは、彼らはただそこにいる、というだけということ。
生きるために何かを得なくてはならないという枷がない。
誰かのために何かをして対価を貰う必要もない。
闇に紛れお喋りで時を流し、こうやって退屈しのぎに人を馬鹿にして嘲笑う。
彼等は何かの拍子で突発的に生まれた。
それから永い時、闇の中にだけ存在する。
明るい場所を嫌い、常時暗い場所に潜んでいる。彼等がどんな姿で、この城にどの程度の数が存在するのか知る者はいない。
ただ、城の主であるシリシアンやヴァンパイヤの一族に対しては決して話しかけたりはしなかった。
つまり、必然的にその存在を知っているのは彼ら以外ということになる。
「ひとりぼっちの嫌われもの」
「友達もいない」
「のけもの」
「変人だもん」
「誰からも愛されない」
「かわいそう」
「死ぬまでずっとひとり」
リアムはジャケットの裾を引っ張り、ネクタイの結び目を整えた。
懐中時計を取り出し時刻を確認する。
まもなくシリシアンが外出する時間だった。
「うっせぇ、塵どもがっ。いつまでもそこでほざいてろ」
リアムは懐中時計を懐のポケットへしまい闇を睨み付けた。
リアムが部屋へ戻ると、シリシアンは扉のすぐ前に立っていた。
「いってらっしゃいませシリシアン様」
シリシアンの背後でウソラが深々と頭を下げている。
リアムも頭を下げた。
「リアム、今夜一緒に外出しないか?」
リアムは驚いて顔を上げた。
「はい?」
聞き間違えたと思った。
シリシアンはいつもひとりで外出する、誰かを連れて行ったことなど今まで一度もなかった。
「連れて行きたいところがあるんだ」
「……ええと、私は」
「もう、寝ちゃう?」
「いいえ」
「じゃあ、行こう。さぁ、さぁ」
シリシアンは微笑み、リアムの手首を掴んで連れていく。
「あ、あの、どちらへ?」
「いいから、いいからー」
リアムはシリシアンに引っ張られたまま、廻る階段を地下へと下っていった。
部屋に残されたウソラは不機嫌そうに床を蹴り鼻を鳴らした。
*(=`∧´=)/……うっせぇ塵どもがっ!!
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この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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