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お城妖精のお仕事日報及び雑記
シリシアンのお仕事⑤
しおりを挟むシリシアンの執務室は広く、部屋の大きな出窓から、王国の美しい夜景が一望できた。
リアムはその地平線の手前に、シリシアンの城を発見する。
あらためて遠くから眺めると、その城は左右非対称な円錐を含む形だった。墓地から見上げた時は左右対象に見えたのに。
不思議で不気味だけれど美しい外観をしているな、とリアムは思った。
緋色のガス灯の明かりがチカチカと瞬き、国全体は赤く光ってみえる。
しかし地平線はオレンジ色の光で出来ている。
赤い光を区切るようなオレンジ色の線。
「ねぇ、あれはあの光の線はなに? どうしてあそこから先はオレンジ色なの? まるで、夕焼けみたいな」
机の上に乱雑に積まれた黒い表紙の本をせっせと仕分けていたシリシアンが窓の側に立って外を眺めているリアムを見て、その視線の先を見つめる。
「オレンジ色の先は人間の世界だよ」
「へぇ……」
そういえばリアムはこの国で「人間」を見たことがないな、と思った。
ファンタジー王国ではファンタジーの種族と人間とは仲良く共存していたから、あちこちに人間はいた。人間の下で働く妖精もいると聞いたこともある。
「なぜ区切っているの?」
「人間はダークファンタジー王国の住民を恐れている。ヴィランは人間から嫌われる存在だろう」
「まぁ、そうですね」
うん、とシリシアンは頷く。
「シリシアン様はあの人間界へ行って、ファーストキルをする人間を選ばなくてはいけないってことですね?」
「……僕は行かないよ」
シリシアンはボソリと、しかし強い意思のこめられた目でリアムを見た。
「……あの蜘蛛達だって狩りが出来るのに、ヴァンパイアのあなたが、何故出来ないんですか? せっかく綺麗な不老不死のヴァンパイアに生まれてきたのに、歳をとって醜く死ぬ方がいいだなんて。なんて勿体ない、ずるい」
リアムはムキになり、一息でそう捲し立てた。
「リアムは不老不死になって、何をしたいの?」
「そんなこと、たくさんあるよっ!!まず、大きな翅が欲しい。高く遠くまで飛ぶ翅だよ。それには妖力を買わなきゃいけないから、お金を貯める。そしたら、ファンタジー王国でもなくダークホラーファンタジー王国でもない、違う国が無数にあるって、工場の主任が言ってたんだ。だから、そういう知らない世界を見に行く。大きな翅を持つために、お金を貯めるのにも時間がかかると思うから、ずっとずっと生きなきゃならない。妖精の一生だけの時間じゃ足りないと思う」
「それは素敵な夢だね」
シリシアンが感慨をこめて言った。
「……」
「シリシアン様だって、あるでしょう? 夢のひとつやふたつくらい」
「さぁ……。でも、今リアムの話を聞いて、違う国へ行ってみるのもいいかな、と思ったよ。……現実、僕のしなきゃいけないことは、この山積みにされた本の整理だけだ」
リアムはシリシアンの机の前にやってくると、積まれた本の1冊を手に取った。
ペラペラとめくる。
文字がぎっしり書いてあるが、文字を読めないリアムは何が書いてあるのか、さっぱりわからない。
時々、様々な鳥の絵が細かな線で本物みたいに描かれている。
「それは、この国に生息する、火食鳥の生態を説明した書物」
「……へぇ」
「ここは、数万年前から今に至るまでのこの国の歴史や自然や魔法や様々な種族の家族の系図や、種族の詳しい系統調査なんか……とにかく多種多様な書物を作って保管する場所なんだ。ヴァンパイア一族は長命だから、ここの管理を代々任されていてね」
「これは?」
リアムはまた違う本を手に取って文字の列を指で追う。
「リアムは文字を読めるようになりたい?」
「え?」
*(@_@)……読みたいかも。
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