無職でしたがヴァンパイア城の城妖精になれました。主様は吸血不全の落ちこぼれだったので再教育が必要みたいです

蟻の背中

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お城妖精のお仕事日報及び雑記

文字から広がる世界

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「この国の文字には様々な種族の言語が混じっているんだ」

 シリシアンの執務室の窓際へ、リアムのための机が置かれた。

 椅子に座ると、ちらちらと灯りの瞬く夜景と、白々とした蒼い月が望めた。

 シリシアンが壁際の書棚から、何冊か分厚い書籍を持ってきて、リアムの前に置いた。

「わー、太い。これ、全部文字? 全部覚えないといけないのか? レンガ三つ分はあるぞ?」

 リアムはその重々しい紙の束を横から眺め表紙の装丁に指を滑らせた。

 黒革に金色の飾り文字がところ狭しと窮屈そうにおさまっている。

 文字のインクは盛りあがり、リアムの指先に心地よい触感を与えた。

「前半は文字の歴史だから、実質……」

 シリシアンはその重厚な紙の束を半分に割り開き、薄い紙のページをめくった。

「ここからだね。覚える文字は44字の大文字と小文字、それと記号が9種類」

 シリシアンが開いたページをリアムはじっと見る。
 左端に、骨に似た形の絵がふたつ並んでいる。
 よく見ると、ふたつは似ているようで、しかしどこかが違って見えるぞ、とリアムはふたつを交互に眺め間違い探しを始めている。

「ひとつひとつの文字には意味があってそれを組み合わせて単語に、単語に記号を組み合わせて文にするんだよ」

「へぇー」

「例えば、リアムの名前、リアとムに別れているから」

 シリシアンはリアムの傍らにしゃがむと手を伸ばしてページをめくった。

「これが、リア、という文字、未明、という意味だよ」

「未明?」

「ムは……」

 シリシアンはまた紙をめくった。

「ムはこれだね、記号だから意味はとくにないのかもしれない」

「自分の名前に意味があるなんて、知らなかったな」

「誰が名前をつけたの?」

「さぁ? 最初からそう呼ばれていたから、それが自分のことなんだなーって、あんまり深く考えたことはないかも。妖精の名前なんて……ほんと、誰がつけたんだろう? でも、ただ、未明、に生まれたからってだけなんじゃないかって気もする」

「ところで、僕はよく知らなくて、失礼な質問だったらごめん」

 シリシアンはリアムを上目遣いで見て、ひと呼吸置く。

「なんですか?」

「例えば花の妖精は花から生まれるでしょう? その後、どうなるの?」

 ああ、なるほど、確かにヴァンパイアとは、生まれもその先の道も違うよな、とリアムはシリシアンの好奇に満ちた瞳を見返す。

 リアムはファンタジー王国の片隅で生まれた。

 それこそ未明の、まだ夜明けには届かない月光の下。

 立ち上がり、始めて目にしたのは無数に輝く星の海だった。星星は瞬かず金色の輝きは遥か彼方まで続いていたようだ。

 うっすらと覚えている、あの景色はいったいなんだったんだろう。

 次に覚えているのは、馬のいななきだ。

 甲高い鳴き声の方へ歩いた。

 何故そうしたのかは覚えていない。ただ呼ばれた気がした。こっちに来いと。あの馬車の迎えがくることを予め知っていたとしか思えない。

「生まれてすぐ馬車が来たんです。自分とは姿かたちの違う妖精が他にも大勢乗ってたな。それに乗ったら、縫製工場に連れてこられてなんの疑問もなく働いていました」

「なんの疑問もなく……そうなんだ」

「だって、そうでしょう? 自分が何者かなんて普通は疑問にも思わない?だから考えたこともないですね」

「確かに。僕もこの国の人達はみんなヴァンパイア族だと思っていたよ。あの城から出るまでは」

 世界が広いってことを知れば知るほど、自分はなんて小さな存在なんだろうって虚しくなった、だけどシリシアンは立派な一族だから、そんなこと少しも感じなかっただろうな、とリアムは思った。


 …(・c_・`)Cは小さいのシー?
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