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お城妖精のお仕事日報及び雑記
月光の呪い③
しおりを挟むリアムの翅が夜気を切り唸る。
上を見上げ、時々壁に張り付き休みながら飛んだ。
下を見てしまえば高さに目が眩み、動けなくなるに違いないからだ。
高所の飛行にはまだ慣れていない。いつも数10センチとか、高くても1、2メートルのところを低く飛んでいるから、高いところは正直怖かった。
そうして数メートル上がると壁に張りつき、飛んでは張り付きを繰り返しながら、ちょっとずつ、しかし確実に進んでいく。
そうしてシリシアンが入っていった窓に、ようやく無事にたどり着くことが出来た。
リアムは給料のその殆どを魔力を買うために使っていた。
魔力は城へ時々来る魔力売りの業者から買うのだ。
お金を払うと、なにが成分だか良く分からない激マズなポーションを渡される。
それを1口飲んで眠ると、朝には魔力が少し増しているのである。
1本が給料の殆どというとても高価な代物で、お針子時代のリアムなら、到底手には入らなかったものだ。
そのポーションを少しずつ飲み、翅はひとまわり程大きくなっていて、この城へやって来たときよりも飛行力は格段に増していた。
「凄い、リアム!」
「は?! ちょっと、なにしてるんだよ!!」
柱の影からシリシアンが覗いていた。爽やかな笑顔で呑気にパチパチと手を叩いて喜んでいる。
朝日がその足元まで迫っているというのに。
「朝にはかなわないんですよ?!」
リアムは慌ててシリシアンの背中を押し城のなかへ入れ込んだ。
「凄いよリアム、こんな高いところまで飛べるようになっていたんだね」
なんだよ、こいつ。
自分のことみたいに喜んでるじゃんか。
「だから言ったじゃないですか、大丈夫だって。たいしたことじゃないんです」
それでもシリシアンに褒められたことがうれしいリアムはシリシアンの先を顎を上げ得意気に歩いていく。
「凄いな、ほんとうに凄い、立派だよ!」
シリシアンが重ねて言うものだから、リアムは翅の付け根がムズムズとくすぐったく、口許がへにゃりと緩むのだった。
ふわふわのシルク布団の上に横たわったシリシアンが綺麗な顔で笑っている。
「事故があったらどうしようかと心配で」
「心配なんかいらないですよ」
「心配するよ、心配したっていいだろう?」
「あんた……ママかよ、閉めるぞ」
「友達……あ」
リアムはシリシアンの言うことを聞かず棺の蓋を閉めた。そして鎖をぐるぐると巻く。
最後の鍵をかけて、やっと胸を撫で下ろす。
人のことより、自分の心配をしてくれ。
目の前で灰になられちゃ、この先、ずっと目覚めが悪いだろ……。
そして、リアムはこの夜のことをきっとずっと覚えているだろうな、と棺の上に座りながら思っていた。
シリシアンが友達と言ってくれた夜。リアムに初めて友達が出来た夜である。
リアムはそこで、ちょっとなにか忘れていることがあるような気がして、首を傾け、そして暗い天井を見上げた。
「なんだっけ?……あ、月の虹の呪いだ」
リアムは棺から飛びおり、螺旋階段を飛んで上がる。
そして、シリシアンの部屋へ戻ると、ウソラを探した。
シリシアンの衣装部屋を覗くと、シャツに鉄のアイロンをあてているウソラがいた。
「やぁ」
リアムが声をかけると、ウソラは黒く丸い大きな目でリアムを一瞥する。
そして、カツン、と蹄をならしリアムに背を向けた。
自分だって君は嫌いだよ。
と心のなかで言いながら、リアムはウソラの背中に近づいた。
この城で、なにか尋ねるとしたら、ウソラしかいなかったからしょうがない。
「あの、虹の呪いって知ってるか?月にかかる虹を見るとってやつ……」
「なぜ聞くんだい?」
ウソラが手をとめてリアムへ顔を向けた。
「あ、さっき、その……見たからさ、月虹を……」
「そうかい、そりゃ残念だったね。1週間の命、大事におしねぇ」
ウソラは目を細めフフフと嬉しそうに笑った。
「え、本当のことなの?!冗談じゃなくて??」
リアムは真っ青な顔でウソラへ聞き返した。
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