無職でしたがヴァンパイア城の城妖精になれました。主様は吸血不全の落ちこぼれだったので再教育が必要みたいです

蟻の背中

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お城妖精による主様の雑日記

セレモニーの準備

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 ルルベラはシリシアンが城から飛び出してすぐ、一時間もしないうちにやって来た。

 両手にたくさんの荷物を持った従者10人以上を連れている。

「さぁ、セレモニーの準備を急いで。テーブルはつなげて二列に、クロスはブラック、ライナーはレッド。今夜の招待客は内輪の親戚縁者でざっと50名、椅子は必ず多めに用意して頂戴」

 ルルベラは大広間前の応接室に控えるシリシアンの召使い達の前を足早に歩く。
 その並びの端に立っていたリアムの前も通過していく。

 大広間の大きな二枚扉が内側に開かれた。扉はギシギシミシミシと危なげな音を立て、ルルベラが気にしたのか扉の上方を見上げた。

「何十年ぶりなのかしら?この円形広間を使うのは。あの子がこの城を受け継いでからも、一度だって使ってないんだもの」

 ここは城中央の最上階に位置している、この城で一番広い場所だと、リアムはさっき聞いたところだ。

 なにせリアムはこの城に来てから、シリシアンの部屋と地下の寝室を行き来するくらいのもので、城全体の間取りなどまったく知らなかった。

「さぁ、鎧戸を開けて。床を磨いて、天井の蜘蛛の巣もはらって綺麗に美しく磨くのよ。蝋燭は新しいものに」

 鎧戸が外されるとバルコニーが現れた。
 城下の四方をぐるりと見渡せる。冷んやりとした夜風が円形の広間を渡っていく。

「花と装飾は全て赤」

 翼を持つ者らが数人、長い箒を持って天井へ飛んで行った。逆さまのまま蜘蛛の巣を巻き取ったり埃を掃いたりしている。

 モップやら雑巾を持った者ちは、何本もある手や足で床を磨き上げる。

 リアムはいつもシリシアンの傍に使えているので、普段会う使用人達は限られていた。

 それで、この城にこんなにも多くの労働者がいることに驚いた。

「バルコニーに客用の絨毯を。出入りは北側から。ドラゴンで来る来客は南から。ドラゴン用の菓子(おやつ)も忘れないように」

 なるほど、来客は全てヴァンパイアの一族。だとすればみんな空を飛んでやってくるってわけか。

 きっと、無事にファーストキルを終えて戻ってくるよな、すぐに。
 リアムは飛んでいってしまったシリシアンのことが心配だった。

 本能だと分かっていても、いずれその日がやってくると知っていても、シリシアンはそれを避けようとしていた。

 誰かの命を奪って自分が真のヴァンパイアになることを嫌悪していた。

 リアムはシリシアンの部屋へ戻った。

「なんだい、シケた顔だね」

 ウソラは黒いシャツにアイロンを当てている。

 コートかけには燕尾服の上下と真っ白な毛皮のコートが用意されている。

「……」

「触るんじゃないよ」

 美しい純白の長毛を触ろうと伸ばしたリアムの手がウソラの手で弾かれる。

「これは? ホワイトカラーなんて珍しい」

「狼属の毛皮だよ」

「え、オオカミ属って、つまり狼人間のこと?」

「そうさ、獣でもなく人でもない、どっちつかずの下等な奴らだ」

「下等……」

「植物系統の妖精の方がもっと下等だったか?」

「その、下等な獣の毛皮を何故身に付けるのさ」

「まったく、おまえは本当に何も知らないね」

 いちいちムカつく四足の牛野郎め。

 リアムは内心でそう毒づきながら笑顔を浮かべた。

「うん、そうなんだ。なにも知らないんだ」

「いいかい、このフルブラン家は、その昔、狼狩りを生業にしていたんだ。このホワイトウルフは最も強かった最後の一匹で、跡継ぎが成人するときには代々これを着用することになっている、いわば強さの証みたいなものさ」

それって、ただの顕示欲じゃないか?

「その狼は悪いやつだったのかな」

「もちろん悪いやつさ。人に紛れて暮らしながら、人を騙して月に一度満月の夜に人々を殺していたんだからね」

「……なるほど。なら、このダークホラーファンタジー王国にとって、とても相応しい獣だったろうね」

「おかしなことを言うんじゃないよ。この国に相応しいのは、この国の王族、魔王様の血を受け継ぐ由緒正しい魔族だけだよ」

「シリシアンは相応しいの? 魔族ってこと?」

「ルルベラ様はヴァンパイヤ家と魔王家の両方の血統をお持ちだよ……おまえ、主様を呼び捨てるんじゃないよ、殺すよ?」

「殺してみろよ、今ならシリシアンもいない」

「……おや、そうだったね。目障りな伸びた草を刈るなら今が丁度具合が良いね」

シリシアンの角を見たとき何か見覚えがあると思った。

そうか、あれは王国の旗に描かれている魔王の角と似ていたんだ。捻れた大きな二対の角。

ウソラが手に持っていた鉄のアイロンをリアムへ向けた。
    
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