冬の十日間、十年の愛執《再会したホテルオーナーと椅子職人》

フィカス

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第44話「僕の晴れ舞台」

【1月4日日曜日17:00】

17時に始まった授賞式は、シュウの開会の言葉からスタートした。

コンベンションホールは前方に華やかなステージが設けられ、学校の卒業式のように客席が並べられている。

どうやら前方の白いカバーの掛かった席が招待客用で、後方が一般客のようだ。
公式な招待客ではない僕は、一般客の席に座っている。

すると「失礼」という言葉とともに、隣に男性が座った。

「岩山!来てくれたの?」

「もちろんです。キヨチカ坊ちゃんの晴れ姿ですから。あのオーナーの見立てなんでしょうけど、似合ってますよ、そのスーツ」

僕らは小声でコソコソと会話をする。

ステージの上は、受賞者の発表に移った。
佳作が3作品、優秀賞が2作品。
壇上には受賞者だけでなく、受賞した椅子も並べられていく。

そしていよいよ、大賞の発表だ。

「フェイジョア・ウッドチェア・アワード、今期の大賞作品は、カラテア工房、唐津ツヨシさん。おめでとうございます。壇上へお越しください」

司会者の言葉に、会場は大きな拍手が巻き起こる。
僕も小さく拍手をした。

「え?坊ちゃんじゃないんですか?」

岩山は不満そうな声をあげる。

招待席に座っていたツヨシにライトが当たり、彼は堂々とした姿でステージへと上がっていく。
記念の盾と副賞が手渡されたところで、司会者が意外なことを言った。

「サプライズではございますが、当ホテルオーナー小山内と、今回の受賞作について、対談のお時間を設けさせていただきます。作品の意図や込めた思いを、皆さまの前で、お聞かせいただければと思います」

遠目に見ても、ツヨシの目が泳ぎ始めたのが分かる。
それでもシュウはツヨシに対し、鋭い質問をぶつける。

「私はこのウォールナットのラウンジチェアは、この削り出しの背もたれが全体の印象を強くしていると感じます。どのようなプロセスで、このような曲線に辿り着いたのでしょう」

「あー、えー、そのー」

「あぁ!申し訳ございません。カラテア工房さんは、チームでの制作でしたか。唐津様の個人名が記載されておりましたので、私が勘違いをしておりました。大変失礼いたしました」

そのシュウの言葉を受けて、司会者が会場に問う。

「では本日は会場に、デザインを担当された方はいらっしゃっていますか?」

僕はその場で「はい」と挙手をする。

「いらっしゃいました。では、壇上にお願いいたします。唐津様は降壇いただいて結構です」

ツヨシは驚いた顔をし、僕を見ていた。
この場を切り抜けられて助かったような、壇上から降ろされることを屈辱的に思うような、おかしな表情をしている。

大汗をかいて、立ち尽くしているツヨシに、もう一度司会者が「降壇ください」と指示をした。

入れ替わりで僕が壇上に登る。
シュウが僕の背中を押し、ステージの真ん中に立たせた。
そして自ら紹介をしてくれる。

「では、改めてご紹介いたします。大賞作品のデザインをされました風間キヨチカさんです。風間さんは、昨年末でカラテア工房を退職され、独立されました。独立後、初の作品を、当ホテルエントランスに飾らせていただいております」

意外な展開に会場がざわざわとする。
しかし、ステージ上のスクリーンに、エントランスの椅子が映し出されると、納得だという空気が流れた。

皆、会場入りする前に目にしていたようで、なるほど、と頷いている。

その後、僕は壇上でシュウと対談し、思う存分、作品に込めたこだわりを述べた。
人前で喋ることに慣れていなくとも、一人の椅子職人として、伝えたい思いはしっかりと言葉にできた。

椅子好きばかりが集うこの場は、その話を面白く聞いてくれる人ばかりで、最後には大きな拍手をいただいた。



会場を替え、立食パーティへと移る。
色々な人が、僕のところへ挨拶に来た。
シュウは、僕の近くに居て、相手を見ながら口添えしてくれたり、僕に任せたり、してくれる。

シュウが作ってくれた名刺は大活躍し、僕は幸先のいいスタートを切ることができたようだ。

ツヨシにも、一言くらい挨拶をしようかと思ったが、彼の姿はどこにも無かった。

「その名刺、私にも一枚ください」

「岩山……」

「木を削るだけの仕事としか思ってませんでしたが、今は誇らしいですよ、坊ちゃん」

「ありがとう」

「それからこれ、フクロウから預かってきました。卒業記念品だそうです」

「うわぁ、なんだろ!」

「期待しないほうがいい。それ、ただの紅白饅頭ですから」

「えっ」

「じゃ。俺はこれで失礼します」

岩山が会場を後にしてからも、パーティは続いた。
僕は主役と言ってもいい扱いを皆にしてもらい、充分に顔を売った。
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