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第45話 カインの由来

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昔々、干魃であちこちの村が水不足に陥り沢山の人が死んだ。
そんな中、一人の男が神のお告げを聞いたと発言した。
その内容はとても信じられるものではなかった。

『弱った者に自らの血を与えよ』

男はそれを実行に移そうとしたが周囲の者はそれを止めた。
それはそうだろう、とても正気の沙汰ではないからだ。
だが男はそれでも神のお告げだと夜に人目を盗んで動いた。
弱って死にかけている子供に男は自らの血を飲ませたのだ。

驚くことにその子供は翌日には回復に向かい始めた。
それを知った男は毎夜出歩き弱った者に自らの血を与え続けた。
翌月には他の村とは大きく違いその村の人間だけが健康体で餓死者が出ていないと言うこととなった。
それを聞き付けた貴族の一人が痩せ細った娘を連れてその村へやって来て村人に懇願した。

「頼む!娘を助けてくれ!」

そして、その夜…
男はその娘の元にやって来て娘に血を飲ませたのだが…

「貴様!そこで何をしている!」

その現場を貴族に見付かってしまったのだ。
男はその場で捕らえられ翌日磔にされた。
娘に不信なことを行おうとした大罪人として公開処刑が行われそのまま火炙りにされてしまったのだ。
だがその時には貴族の娘は回復に向かっておりその現場に飛び出した。

「この人は私を助けてくれたのに!」

そしてそのまま焼かれる男の元へ飛び込んだ。
その夜、半年振りに降りだした雨は男が降らせてくれたのだと誰もが口々に残した。
その男の名前が…

「カインって訳なのさ」

隣町へ向かう途中の夜営でロッツォの母、カミラの昔話は終わりを告げた。
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