永遠の若さと永遠の命と永遠の地獄

昆布海胆

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最終話 永遠の終焉・・・

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薄暗い部屋の中央に描かれた魔法陣、それは何日も掛けて幾度も書き直した自分の血で描かれた魔法陣。
その中央に未だそいつは居た。
そう、私を不老不死にした悪魔だ。

『どうした?やっと我を解放する気になったか?』

脳内に響いてくる悪魔の声、相変わらず表情は変わらず漆黒の獣をイメージした石造にも見えるそいつは目だけこちらを向けて語り始める・・・

「その件なんだけど、一つ取引をしない?」
『取引?』

私は焦らず悪魔に優位な状況を作らせない為に考えながら話を続ける・・・
とてつもない長い年月を生き抜いたからこそ人ならざる存在を相手にしても落ち着いていたのだろう。

「やっぱり不老不死は止めておく事にしたいの」
『ほぅ・・・』
「でも種を飲んじゃったから私はもう不老不死でしょ?」
『うむ・・・』
「だったら私が死んだら魂を貰うって約束は叶わないよね?」
『・・・』
「だって死ななきゃ魂は上げられないけど、死んだら不老不死じゃないから契約は嘘ってことになるでしょ?」
『・・・』
「だから提案、私はアナタをそこから解放する代わりに願いを無かった事にしてほしいの」
『・・・』
「でなきゃ私は未来永劫アナタをそこから解放しないわ」

一つの賭けでもあった。
パラドックスを逆手にとった提案、死なない私が永遠に開放しないと宣言すれば悪魔は永遠にここから出られない。
だからここから出るには私の不老不死を解除しなければならない、そうすると契約は無かった事になるから悪魔は私の魂を奪えない。
それを踏まえて私は目の前の悪魔を強請ったのだ。

『なるほど・・・分かった。どうやらお前の方が一枚上手だったようだ』
「だったら」
『動くなよ』

そう言って悪魔の片腕が上がり私の方を向く・・・
すると私の体内から何かが飛び出した。
一瞬針に刺されたような痛みが走ったが、地獄の苦痛を体験した私にとっては蚊に刺されたようなものである。
唯一着ている服に小さな穴が開いただけであった。

そして、それは悪魔の手の中に飛び込んだ。
あの豆である。

『これでお前の願いは叶えられた。さぁ我を解放せよ』
「分かったわ」

そう言い私は魔法陣の端を少し消した。
もしもの時の為に悪魔が手を出してきても対処できるように用意は万全、様々な書籍で調べ上げた悪魔対策をしていたのだが・・・

『それでは我は帰らせてもらう、人間よそれでいいな?』
「え・・・えぇ・・・もういいわ」

何かされるかもしれないと考えていたが、悪魔はそれだけ告げて影の中に沈んで消えた。
特に何事も無かった事に拍子抜けしたが、私は助かったのだ。

「これで・・・本当に・・・戻ったのかな?」

こうして私の人生最大の地獄は終わりを迎えた。



果たして本当に不老不死では無くなったのか?
それが分かったのは数年後であった。
老化を少しでも感じる度に嬉しくなった私を見て旦那は気味悪がっていた。
歴史は繰り返すのか何となく私は今の旦那と離婚する気がする・・・
それでもいい、子供よりも先に老いて死ねるのだから・・・
終わりがある・・・
それが今の私にとって救いになるなんて誰にも分からないだろう・・・
















全てが闇よりも暗い世界に佇む一つの姿があった。

「美味いな・・・」

手にした豆を何度も口に含んで味わう悪魔、その豆は彼女の体内から飛び出た豆であった。
豆の名前は『悪夢の種石』、そして悪魔の名前は『夢魔』と言う。

「人の絶望がしみ込んだこの味・・・たまらん」

歓喜する夢魔、真相はこうであった。
人間の望みを叶えた場合に起こりえる地獄のような悪夢、それを見せて絶望を蓄積する悪夢の種石。
願いを聞き、その願いを叶えた場合に訪れるであろう悪夢を本人の意思で飲み込む事で見せる物である。
それを口にした人間にとって夢と現実の差などあって無いようなものである。
そして、夢の終着点を迎えると最初のスタート地点へと戻される。
それを永遠に繰り返し、ループから脱出する為に人間は夢魔に願う・・・

『願いを取り消して』

そこで初めて魂の契約は成される。
夢魔はその願いを叶え、その者が死んだ時に魂を譲り受ける契約を交わす・・・
願いの対価として死んだ時に魂を奪われる契約は既に最初の時点で行われているのだ。
つまり・・・

「おや?もういらっしゃいましたか?」

そこへやって来たのは一つの魂。
悪魔との契約により呪詛の鎖に縛られた魂はあの人間のモノである。

「ふふふ・・・悪夢の種石が前菜でメインディッシュがこれと言う感じですね」

小さくそう呟き魂は悪魔の口の中へ吸い込まれる・・・
魂はきっと死んだその時にこの事実を知る・・・
だが逃れる事が出来ない契約により魂の行き先は地獄よりも恐ろしい魂滅。
悪魔と契約した人間の行く末は一つなのだ・・・

「ごちそうさまでした」



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