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第32話 ピコハン、村での一時を過ごし再度ダンジョンへ挑む!

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ピコハンが村の入り口まで戻ると数名が武装して準備を整えていた。
と言ってもこの世界での武装だ、見方によっては旅に出る準備をしている護衛の様にも見える。
その中に帰った時に居なかったヒロネスの姿を見付けてピコハンは歩きながら片手を上げて挨拶をする。

「ぴっピコハン!無事だったか?!」

ヒロネスがピコハンの顔を見て声を上げると近くに居た男達もこちらを次々と見て目を疑う。
ピコハンにではなく、後ろに居る獣人の子供達に驚いてるのだ。

「ぴ、ピコハンさん、無事で良かった…がその後ろの獣人達は?」
「あぁ、盗賊を壊滅させたらこの子達が居たんで連れてきました。」
「つ、連れてきましたって獣人ですよ…」

ヒロネスの言葉も仕方在るまい。
元々人間と獣人は互いを良く思ってない、しかも盗賊に捕まってたとなると獣人は人を恨んでいる。
普通に人間よりも獣人は身体能力が高いのだから警戒の対象になるのは当たりまえだろう。

「聞いたら帰る場所無いって言うんで村の孤児院で一緒に暮らそうかと思って」

その言葉に一同は固まる。
獣人を人間の子供と同じ扱いをするとピコハンは言っているのだ。
それは村に永住したいと考える男達も反対と考えていた。
だがヒロネスはピコハンの目を見て一言。

「分かりました」

とだけ告げ直ぐにルージュの元へ駈けていった。

その後の対応は早かった。
特に村の責任者となってるルージュも含めピコハンがそうしたいと言えば出来る限りの協力を惜しまない、結果困惑する大人達の前で…

「この村は戸籍のない者がピコハンと家族となり暮らす村だ!そこに獣人だから拒否するなんてあり得ない!」

とハッキリ宣言したことで子供達はこの村で共に暮らせる事となった。
まぁ獣人が強くて危険とは言ってもピコハンからすれば大した事無いと言うのが現実だが。
こうして孤児院で子供達は寝泊りをおして生活する日々が始まった。
特に子供でも力が強く仕事に非情に協力的だったのが村の職人達に受け入れられ徐々にだが訳隔てなく会話が出来るようになっていった。
特に今回ピコハンが持ち帰ったデモンズウォールの素材と百足の素材は硬い物が多く獣人の子供達の力が非情に役立ったのも良かった。
そうして獣人の子供達と共に生活をして1週間が過ぎた。

「ピコハン、今回の分で金貨が2万枚を超えたんだけど・・・どう使おうか?」

ルージュとヒロネスがピコハンと話し合いでこの儲けの使い道を相談していた。
村の周りを囲う柵をしっかりとした壁にすると言う案もあったが鉱山から鉄等が大量に取れないと難しいという話が出てそれも悩みの一つであった。
これが発展途上の城下町等なら話は早かったのだがこの村の住人は基本的に戸籍を持たない、其の為大量の金属に関する売買はルージュの伝手でも非情に難しかったのだ。

「でも今回の盗賊もそうだけど何か村を守る為の物が必要なのは間違いないな」
「分かった。そっちの方は私とヒロネスで色々計画を練ってみるよ」

ルージュ、非情に働き者でピコハンの為にこの村を発展させるのに非情に積極的であった。
それもそうだろう、商人としてこの村の発展は遣り甲斐があり過ぎて非情に楽しいし何より頑張った分だけピコハンが喜んでくれるのだ。
惚れた弱みとは言ったものの互いにメリットしかないのでウィンウィンである。

「それと、食料の方の買い付けに関しては定期便で町と町を往復する商人達にこの村に営業に出てもらう方向で話が付いてます」

ヒロネスの報告でルージュも嬉しそうに頷く。
これがヒロネスが帰宅した時に居なかった理由であった。
幾らお金が稼げる村でも食料難では成長が望めない、だが人口が増えて商人が移動ついでに寄った時にこの村での売買が行なえるのであれば互いに非情にメリットがある。
ピコハンの知らない間に村は非情に急成長を遂げていた。

「二人共ありがとう」
「例を言うのはこちらですよ」

ピコハンが素直に頭を下げる。
ピコハン本人も自分には魔物を倒す力はあるがそれ以外の事は誰かの協力が無いと困るというのを理解している。
だからこそ互いに足りない部分を補え合える仲間、いや家族として二人の事を信頼していた。

「ピコハンさん、まだお話中?」
「アイか?大丈夫だよ」

会議は終わっていたのでピコハンはアイを招き入れる。
と言っても場所がピコハンの家の一室なので特別な事は特に無い。

「おぉっ」

ヒロネスが声を上げピコハンもそれを見て頬を赤く染める。
そこには着飾ったアイが立っていたのだ。

「へ、変じゃないかな?」
「か、可愛いよ」
「えへへ・・・嬉しい・・・」

そう言いながら涙ぐむアイ、ピコハンが持ち帰った薬でアイの左腕と右目は元通りになっており何処も不自由のない体として生活を送れる様になっていた。
その為、この村に来ている職人達がアイに似合いそうな服やアクセサリーをプレゼントしていたりしていたのだ。
片腕だった頃から非情に頑張りやさんなアイにまるで親の様な気持ちで接していた職人も気付けばこの村の家族の様な関係になっていたのである。
そして、アイ自身も夢の様な元の生活・・・いや、あの時よりも裕福で植える事の無い幸せな毎日が続く事に感謝をしていた。
それを叶えてくれたピコハンが褒めてくれた、これ程嬉しい事は無いだろう。

「それじゃ、アイも居る事だし・・・俺、明日また行って来るよ」

それはピコハンがまたダンジョンに挑むと言う連絡である。
今回の素材も獣人の子供達が協力してくれたお陰で加工もかなりのペースで進み盗賊から奪った財宝も大した額ではないが換金済みであった。
なので職人さんたちの仕事を無くさない為にもピコハンは再びダンジョンに挑むのを決めていたのだ。

「分かった。今夜は豪勢な夕飯作るから期待しててよ」
「ルージュさん、私も手伝います!」

ルージュとアイが見合って嬉しそうに頷き合う。
その光景を絶やさない為にピコハンは生きて帰る決意をしっかりと固めるのであった。
その夜は職人さんも加えての外でのパーティとなった。
村総出でどんちゃん騒ぎをして獣人の子供達も加わり非情に楽しい一時となった。
そして、その夜・・・ピコハンの部屋にアイ、そしてルージュが順に訪れて無事に帰る指切りと抱擁を行なっていたのをヒロネスは微笑ましく夜の警備をしながら見守っていた。




「ピコハン!これ使ってくれ!」

翌朝、ピコハンが家を出るタイミングで職人達が百足の加工をして作った小さなクナイの様な武器を渡してくれた。
使い捨てだがその威力は折り紙つきで尖った先端を上手くぶつければ遠距離から岩肌に突き刺さる程の威力があった。
それを暗器の様に2本、懐に体に刺さらないように入れて残りを共有箱に入れておく。

「ありがとうございます」
「今回もスゲェお宝期待してるぜ!」
「はいっ!」

ルージュ達とは朝家を出る前に挨拶したので後はそのまま村を出てダンジョンに向かうだけだ。
そう考えていたら獣人の子供達が村の入り口で待っていた。

「ピコハン兄ちゃん、絶対生きて帰ってきてよ」

獣人の中でもダンジョンは非情に危険で絶対に立ち入らない様にと言われていた。
そこへピコハンが一人で毎回入っていると聞いて応援に来たのだ。

「俺たちじゃ一緒に行っても足手まといにしかならないのは分かってる。だから俺たちはこの村を、ピコハン兄ちゃんが帰る場所を守るよ!」
「あぁ、宜しく頼むぞ!」
「「「ハイ!」」」

子供達とも挨拶を済ませピコハンは村の入り口の門番の男に挨拶をしてそのまま出て行く・・・
門番の男はピコハンの背中に頭を下げる。
賃金のアップに自分を高く評価してくれたピコハンに感謝はしているが多くは語らない、それが彼の流儀だ。

そうしてピコハンは再びダンジョンへと向かうのであった。



「さて、今回は何が待ち構えているかな?」

入り口から足を一歩踏み入れた瞬間、その時からピコハンの全てが変わる。
少年の瞳から野生の獣の様な瞳に変わり常に警戒をしたままの狩人の様な気配に変わる。
そして、そのままダンジョンの中へと進み岩壁で出来た通路を少し進んでやはり目を疑う光景が広がっていた。
何度も言うがこのダンジョンは入る度に空間が別の場所へ繋がっているのか違う構造となっているのだ。

「さぁ、やるか!」

ピコハンは気合を入れなおし1回深呼吸をして足を踏み出す。
岩壁だったのがその境界を越えた場所からは5本の鉄骨だけが真っ直ぐに伸びている橋の様な道になっていたのだ。
左右には真っ暗な空間が広がっており天井は岩肌でその場に在るので明るさは確保できている。
鉄骨の間は1センチも無く間に落ちる様な事はないのだがだからこそ不気味であった。
幅15センチ程の鉄骨が5本のみの足場が続くその道をピコハンは警戒しながら歩き続ける。
下は何処まで続いているのかわからないくらい闇に包まれており少し覗いたが何もわからないので気にしない事にした。

そのまま真っ直ぐに伸びた鉄骨を進み続ける事約10分。
特にこれと言った罠も魔物も出てこずただ鉄骨の上を歩き続けたピコハンであった。
そうして正面に見えたのは行き止まりの壁であった・・・
そして、振り返ったピコハンは声を出して慌てて大きく跳躍する!

「うぉっ?!」

音を立てず鉄骨の間から20センチ程の長さの鋭利な刃が出てピコハンの足を物凄い速度で後方から狙ってやってきていたのだ!
当たれば膝下までざっくりと斬られるのは間違いない!
それをかわす為に飛び越えたピコハンは目で追って冷や汗を一つ流す。
通り過ぎて行った刃は岩壁まで進みぶつかる直前で下へと引っ込んで消えた。
だがそれに続くように鉄骨の間を高速で次々とやってくる刃物達が視界に入ったのだ。
ピコハンは鉄骨に着地すると共に次々と襲い掛かる刃物を左右へ動き、無理な場合はジャンプで飛び越えて回避するのであった。
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