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第50話 走馬灯に残る真実の欠片

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「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

ピコハンはひたすら荒野を走っていた。
酒呑童子から受けたダメージが深刻すぎて今にも意識を失って倒れそうになっている。
腹は内出血し内臓をいくつも痛めている、顎は完全に砕かれ閉じない口からは血が延々と流れる、両腕は間接が逆に曲がり一歩走るたびに走る衝撃で激痛が駆け巡る!
だがその激痛が逆に気付けになり意識を失うのを阻止していたのだ。

「ぶはぁ・・・」

口の中に貯まった血を吹き出すピコハン。
酒呑童子が動けるようになって追い掛けてくる時に方向を悟らせない為に自身の血を出来る限り血に残さないように走っていた為い胃の中は自身の血で一杯、体の前面も血まみれになっていた。
普通なら確実に出血多量で死んでいる出血量である。
だがピコハンには地の加護が在った。
それは地面から大地の気を吸収し自身を回復させる、出血しながらも体内で血を作りだしていた。
だがそれも限界が近かった。
大地から気を得て回復しながらとは言え出血量が多すぎる、その上全身はガタガタ、生きているのが不思議な状態で在るが死に物狂いの気力だけで足を前に出していた。

「あっ・・・」

ピコハンは何も無い地面に躓き前に倒れる。
足が上がらなかったのだ。
だがそれでもピコハンは諦めない。
膝を使って折れた両腕を引きずり前へと進む。
後には血の道が残るが気にせずにそのまま進む・・・

「こ・・・こ・・・ま・・・・・・で・・・・・な・・・・・」

そして、そのまま動かなくなるピコハン。
朦朧とする意識の中、瀕死の状態であるピコハンは今にも消えそうな呼吸をしながらなにかを見るのであった。









「それじゃさよなら」

目の前に両親が居た。
自分を見る目がまるで人間を見ているとは思えない程覚めた視線であるのを理解した俺は叫ぶ!

「死んでたまるか!」

両親との別れにそう叫びダンジョンの方を向いて後ろは決して見ない。
そして、俺は左手に力を入れて前へ進む。

「※※※※※※※※」

何かが聞こえた気がした。
だがそこには自分しか居ない筈、気のせいだろうとダンジョンの中へ足を踏み入れる。
入って直ぐにダンジョン内が真っ暗でない事実に驚きながらも慎重に前へ進む。

「大丈夫だ。」

口から出た言葉に疑問を感じる・・・
そして、左手の握るそれから音が聞こえる・・・

「※※※※※※※※」

俺は心に誓う、何があっても守り抜くと・・・
守る?
なにから何を?
ここには自分一人しか居ない筈・・・

「※※※※※※※※」

それに驚き振り向く、そして左手が離れる・・・
何かを叫ぶが声にならない・・・
そして、無くした。
とても大切な何かを無くしたという想いだけが心を埋め尽くす・・・
それも直ぐに頭の中から消えて入り口を見詰めているばかりでは駄目だと反転しピコハンはダンジョンの奥へと進む・・・
既にピコハンの脳内にはそれは残っていなかった。
左手で握っていたそれ・・・
とても大切な・・・
愛する・・・










「お兄ちゃん・・・」










「あぐぁっ?!」
「きみっ!目が覚めたかい!」

全身から発せられる激痛に意識が覚醒し飛び起きそうになったのを数名の女性に押さえられる。
動きたいが両腕が全く動かないのを思い出し視線だけ動かす。

「本当・・・無事、とは言えないけど生きてて良かった」

そこはピコハンが倒れた荒野のど真ん中であった。
そして、自分の周りに居る女性達はピコハンが鬼達から助けた人達であった。

「私の言葉が分かる?」
「うん・・・どう・・・して・・・」

そこまで話して口が痛むが動かせる事に驚く。
顎を完全に砕かれていた筈なのに言葉が発せられるのだ。

「半分に分かれて脱出経路確保組は先行して私達は君が戻るのを待ってたのよ」

その言葉にピコハンは涙を流した。
自分は確実に死を覚悟していた。
だが彼女達のお陰で助けられたのだ。
見てみると自身が着ていた衣類を破いてピコハンの傷口を塞いだりしているのに気付いた。
人捨てにあってからたった一人でダンジョンに潜り今まで戦ってきたのだ。
そのピコハンがこれほど安らいだのは自宅以外で始めてであった。

「あ・・り・・・・が・・・と・・・」
「それはこっちの台詞だよ、それじゃちょっと揺れるかもしれないけど行くよ」

そう言ってピコハンは仰向けのまま4人に持ち上げられ運ばれていく・・・
年上の女性に囲まれて運ばれると言う何とも言いがたい状況にちょっと恥ずかしいのだがそのまま身動きをせずに回復に努める・・・
そして・・・

「そ、そんな・・・」

一人が声を発しピコハンは下へ降ろされる。
そして、見た・・・いや、見てしまった。
先行していたと想われる女性達が赤鬼に犯されていたのだ。
そこには抵抗した様子が見て取れて何人か見せしめに殺されているのも確認できた。

「ちっきしょう、もうちょっとだったのに・・・」

そう言うピコハンを介抱していた女性に気付いた赤鬼達の1匹がこちらを見てニヤリと顔を歪ませる。
犯されている女性も自身が酷い目に遭っているにも関わらずこっちに向かって逃げるように叫んでいる。
だがピコハンを助けていた女性達は逃げない。
素手でも鬼となんとか戦うつもりのようだった。

「ごめんね、君に助けられてこのまま逃げ切れるつもりだったんだけどね・・・」

そう言う女性の優しい瞳を見てピコハンの中に熱いものが込み上げる。
それこそが火の加護の真の力であった。
今現在も土の加護で大地から気を吸収しピコハンは徐々に回復しているがそれでもまともに動ける程は回復していなかった。
だがピコハンは折れた両腕を下げたまま立ち上がる。
火事場の馬鹿力とも言える火の加護の力で一時的に体を無理やり動かせるようになったのだ。

「俺に・・・任せろ・・・」
「えっ?」

ピコハンの言葉に気付き振り返った女性の横を目にも止まらぬ速さで突撃したピコハンはこちらへ向かっていた赤鬼の方へ飛び上がり横回転してそのまま回し蹴りを叩き込む!

ゴキュンッ!
「ごがぁあああ?!」

赤鬼には視界からピコハン達が消えて仲間が人間の女を犯している姿が視界に入り疑問を持つ。
だが直ぐに呼吸も出来ず全身が動かないのに気付く。
ピコハンの空中回し蹴りは赤鬼の首を破壊して頭部を1回転半させていたのだ。
そして、そのまま赤鬼は白目を向いて倒れ絶命する。
その光景を見て赤鬼なのに顔を真っ青にした鬼に向かってピコハンは言い放つ!

「1匹残らず殺す!」

その言葉が届くと共にピコハンは赤鬼達の中へ突っ込んでいたのであった。
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