本の森 THE LEGEND OF 奈村

昆布海胆

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第1話 本日も通常営業

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これは滋賀県にある小さな古本屋の『本の森』店長「奈村」のお話し。
滋賀県栗東駅の駅前にあるビルの2階に店舗を構えるその店は地域に密着したお店で、笑顔の耐えない店員「安居」と店長の「奈村」によって本と人の出会いを大切にしまさに現代のオアシスと呼ばれる空間作りに成功していた。

「奈村さんこんちわー」
「あぁ昆布さんいらっしゃい」

筆者初登場である(笑)

「奈村さんなんか酷いゲーム探してるんだけど良いの無い?」
「酷いのですか?」

ここ本の森は古本に限らずゲーム各種やCDも取り扱っている。
特に店の在庫をしっかりと把握している店員にお薦めを聞けるというのは量販店ばかりになっている現代では中々無い貴重なお店であったので筆者も御贔屓にしていた。

「これなんてどうです?」

奈村が差し出したゲームは海外のアニメをゲーム化したミニゲームが沢山入った初代ソニーステーションのゲームだった。
パッケージの裏を見るともうそれだけでこのゲームがどれだけ駄目なクソゲーか分かるくらい酷いゲーム画面に説明が書かれていた。
特にビルの屋上から地上を歩いている人に向かって唾を落とすだけのゲームとかどこに需要があるのか皆目検討がつかない。
これだよ、世間の目に晒されること無く闇に葬り去られるだけのクソゲーがまた筆者の思い出の一ページを埋めてくれる!
こんな素敵な出会い他では絶対にあり得ない!
筆者は迷わず会計を済ませ奈村さんにお礼を言う

「奈村さん、いつもありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ昆布さんにはいつもお世話になってますから」

人付き合いも良く優しい店長の笑顔に救われる為にこの店を訪れるお客さんもいると言われても納得するくらい居心地のいい空間を堪能し筆者はウキウキで店を後にする。

「安居さんまたねー」
「昆布さん、ありがとうございました。」

入り口で商品整理をしていた店員の安居さんにも挨拶をして筆者は車で自宅へ帰る。
数時間後に不機嫌な顔をしてコントローラー投げ付けてキレる妹と爆笑する筆者の話は今回は差し控えようと思う。

「昆布さんっていつも珍しい物を欲しがるお客さんですね」
「果てなき探求者なんですよ、漢と言う生き物はね」

奈村さんの名言がまた生まれて賑わう店内に笑顔を向ける。
眼鏡に反射した光で視線が何処を見ているのか分からないが風情を感じる佇まいに一瞬ドキッとする安居は慌てて陳列棚の整頓に向かう。
立ち読みが出来るため読んだ本が元の場所に戻って無い物があるのでそれを並べ直すのだ。
その間にレジ裏にある買取りした本などを整理する奈村。
ふとその中に見覚えの無い本が一冊あるのに気が付いた。

「はて?こんな本買取りしたっけかな?」

その本は表紙に何も書かれておらず裏に出版社の記載すらない。
明らかにおかしい…
奈村は気になったがレジにお客さんが来たのでそちらの対応に周り頭からその本の事を忘れてしまったのだ。
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