続・億万長者への道

昆布海胆

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後編 そして和井は消える

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俺の名は桑原、地元では少々名のある名家の人間だ。
済んでいる地域は田舎ではあるが不便という程もないくらいには栄えている、そこで俺は洋食屋を経営していた。
と言っても俺自身が働く必要は無く地元の人間を雇って働かせている形だ、所謂オーナーというやつだな。
そんな俺の元に一通の手紙が届いた。

「あん?法律事務所から内容証明が届いただ?」

洋食屋の店長を任せている男から差し出された手紙を無造作に破いて中を開いた。
そこに書かれていた内容に俺は不快感を覚えた。

「警告書だぁ?俺の店の名前がこの会社の商標権を侵害しているだって?」

慌ててネットでその会社の事を調べた俺は大いに笑った。
そこの会社の代表取締役の名前に見覚えが有ったからだ。
そう、俺が学生の頃に虐めていた雑魚だったからだ。
そして、そのページを見て俺は勝ち誇ったかのように爆笑した。

「オイオイマジかよこいつ、世間知らずもここまで落ちて俺に逆らったつもりなんだな」

そう、俺が爆笑するのも仕方ないだろう・・・
何故ならばこの会社・・・僅か2年半前に設立されたばかりの会社だったからだ。
俺がこの洋食屋を始めたのは6年前、つまり俺の方が先に名前を使っているからだ。
しかもここに書かれている商標の名前が微妙に違うのだ。

「下らねぇ・・・だが俺ももう大人だ、こんな雑魚相手にするまでもねぇよ」

そう言って俺はその警告書を破り捨てた。
この会社相手にイチイチ絡んでやるより無視してやるほうが効果的だと考えたからだ。
だが・・・






「あん?またかよ」

3か月程経って再び俺の店に手紙が届いた。
適当に燃やしても良かったんだが店長の心配そうな表情が妙に気になった・・・

「ん?どうしたってんだ?」
「いえ、それが・・・」
「おいおい、ハッキリ言えよ」
「ちょっと気になって調べてみたんですが・・・これ不味いかもしれませんよ」

店長のその言葉に俺は不快感を露わにして怒鳴り返した!
あんな雑魚相手に俺の部下が怯えるって事が気に入らなかったからだ。
だが、一応と考えて親に頼んで弁護士に相談を持ち掛けた。
法律の専門家にハッキリと言って貰えればあいつ等も安心すると思ったからだ。
だが返ってきたのは驚く内容であった・・・

「確かに同名の商標が登録されてますね、約2年と9か月前に第43類『飲食物の提供』で登録されています」
「っでそれはどういう事なんですか?」
「商標権というのは指定商品やサービスが違っていれば同名を使用していても問題は無いのですが、この場合は桑原さんのお店の営業はその商標権の範囲に入ってしまうのです」
「だ・・・だがこの商標の名前と俺の店の名前は微妙に違うじゃないですか!」
「商標権は類似範囲にも権利が及ぶのです。この場合はその類似範囲に含まれると思いますね」

※例えば「ティ」と「ティー」、「美の友」と「美の母」、「A・R・C」と「R・C・A」、「正三郎」と「正太郎」、「CHEST」と「CHESTER」、「SKF」と「SKI」等が過去の判決で類似範囲と判決を受けています。

「そ、そうだ!俺の店は株式会社だ!だから俺の店の方が・・・」
「商標権は商号とは関係ないんです、基本的には商標権の方が勝ちます」
「な、ならこの店とはかなり離れている!他府県なんだから問題は・・・」
「商標権は日本全国に及びます。それこそ北海道と沖縄であったとしても関係無いんです」
「じ、じゃあここの商標登録は3年前よりも短いだろ?俺の店はもう6年以上経営しているぞ!」
「特許の場合でしたらそれ以前に使っている人が居る場合は特許にならない場合がありますが、商標は先に出願した人が勝つのです・・・一応確認なのですがお店の方は何か大きなCM等はされていますか?」
「い、いや・・・」
「でしょうね、相手もそれを確認した上で警告書を送付してきたのだとは思いましたので・・・」

※先使用権:周知性が行われていた場合はこの権利が認められる場合がある、過去の裁判でも『ケンちゃん餃子』と言う商標が過去にラジオCMで全国に周知されていたと言う事例もある。

「な、なんとかならないんですか?」
「一応無効審判とか取消審判で商標権を消滅させる方法がありますが・・・」
「じゃ・・・じゃあ!」
「ただ今回の場合・・・弁護士から警告書が来ているのでその辺りは考えているでしょう・・・」

深いため息が出た。
なんで・・・俺がここまで苦しめられないとダメなのか・・・
あんな雑魚に・・・

「どうすればいいんですか・・・」
「お店の名前を変えるか商標権の買い取りですかね・・・」
「・・・・・・・」
「一応申し上げますと、放置されますと損害賠償額が膨らみ、民事訴訟だけなのが刑事告訴される恐れも出てきます」

ただでさえ最初の警告書から3ヶ月が経過しており、そこに記載されている慰謝料も前回よりも増額されていた。
家の名前に泥を塗るわけにもいかず、また店を任せている人間に負けを悟らせないために俺は買い取りを決意するのであった・・・










「はい、田辺です」
『どうです?今回は上手くいきましたか?』
「和井さん!」

あれから和井は宣言通りの期間が過ぎてから再び俺の前に顔を出した。
そして彼の指示通りに動いた結果、見事桑原から新車が2台は買える程の金が振り込まれたのだ。

「この度は本当ありがとうございました」
『いえいえ、俺を信じて動いて下さった田辺さんの成果ですよ』
「なんとお礼を言っていいか、それで一応確認なのですが・・・この振込先名前が違いますが本当に宜しかったので?」
『えぇ、僕の世話になった友人なので彼に振り込んであげて下さい』

彼の友人、きっと和井さんのお陰で救われた人なのだろう。
俺は彼にお礼の言葉を述べて電話を切った。
そして、お金を振り込んだ翌日であった・・・

『緊急ニュースをお送りします。底なし沼で大量の遺体が発見された事件の首謀者と思われる犯人が死亡していたとの警察からの発表が行われました・・・』

俺はそのニュースを見て唖然とした。
そこに映し出された写真と名前・・・
それは先日電話で話した筈の和井そのものであった・・・

「えっ・・・」

絶句、だが彼は俺と電話で話した。
つまり・・・
俺は考えるのを止めた、復讐に協力をしてもらった事で彼が敵に回ると恐ろしい人間だという事を理解したからだ。
この件は墓まで持っていこうと決意し、俺は彼の最後の言葉を思い出していた。

『商標権の存続期間は5年にしてありますので、それ以降は継続するか会社名を変更する事をお勧めしますよ』

俺は彼を裏切らない・・・いや裏切れない・・・


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