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新生活4
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「僕には、クシュマルレミクスの血が混じっているんです…」
場が和み、僕を拒絶する空気も視線も和らいだので改めて自分の秘密を口にする。
「……ほう」
「「へぇ!」」
「クシュマルレミクスだったのか!」
「……成る程。どうりで」
僕の告白にヤフクは少し目を見開き、ザイクとラウンは息がぴったり合った驚きを見せ、ナウンは得心を得た様に呟き、ハーヴは僕を見て頷いた。
「曾祖父がクシュマルレミクスで、その血と力が僕に現れたのだそうです」
「あぁ、竜の血は何世代か後に出るって言うものな。それで、その外見と魔力なのか」
ナウンは、初めて僕に会った時に僕が子供のサーヴラーとは思えない程の魔力を保有している事に気付き、内心驚いていた。と話す。
「保有魔力を知る事が出来るのですか?」
「あぁ。ミドゥフィスに上がると、自分の魔力保有量と相手の保有量を知る術を教わる授業があるんだ」
「へぇ!」
「俺は、その肌の白さと髪と目の色の違いはサーヴラーの古種だと思っていたよ」
「あぁ、それは俺も思った」
ザイクの言葉にヤフクも頷く。
今でこそ、サーヴラー人の殆んどは褐色の肌をしているけれど、遥か昔は皆肌が白かったらしい。
「じゃあ、ナウン達はその古種なの?」
「あぁ、そうだ。初代からずっとだ」
「もう王族ですら古種の血は殆んど現れないのにずっと、とは凄いなっ!」
「……そうなの?」
「あぁ」
ナウンの言葉に驚くヤフクは、ピンと来ていない僕に頷く。
とても離れた地域のサーヴラー同士が婚姻したり、古種の血を多く引き継いでいる王族や貴族には子供や子孫に覚醒遺伝の様に今でも髪と眼の色が違って生まれてくる事もあるけれど、白い肌で生まれてくる事は滅多に無い。と教えてくれた。
「俺は、呪われてんのかと小さい頃は思ったけどね」
ラウンがおかしそうにそう言うと、ナウンが至極真面目な顔付きで「いや、事実そうらしいぞ」と話す。
「え!?……またぁ!兄ちゃん、俺をからかうのも1日1回だけにしてよ~っ!」
「1日1回って、なんかのくじ引きじゃないんだから」
ラウンはナウンの言葉に「俺、そんな子供騙しにはもう引っ掛からないって!」と笑い出し、ザイクはラウンの言った言葉が面白く感じた様で、プッと吹き出す。
「いや、冗談でもお前をからかっている訳でもない。……じい様が、うちの一族で直系だけがずっと肌が白く同色の髪と目だろう?若い頃、一時期初代まで遡って調べたんだそうだ。そうしたら、3代目か4代目の辺りでどうやら末代まで続く魔術による呪いを掛けられた事が判ったんだ」
ただ、呪いと言ってもフェルンダリンス家に生まれてくる直系の男子の肌が白くて黒髪黒眼なだけで、他には全く何も無い。むしろ丈夫で病気や怪我に強いので、他の親族よりも長生き出来て大変良いらしい。
「一体どの様な理由が有ってこんな魔術を掛けられたのか不明だが、不都合は何も起きていない。だからコレを呪いと呼んで良いのか判らない。だが、謎は解きたい。魔術による呪いを解く方法が年々解明されてきているし、俺が文官か武官に就いて王宮勤務になればじい様では入る事が叶わなかった王宮図書館へ入れる様になるから、更に深く事実を突き止められるかも知れないんだ」
「何故、王宮図書館に入りたいんだ?」
ヤフクは首を傾げる。
何故なら、一般開放されているイルツヴェーグ内の国立図書館と王宮敷地内の王宮図書館の所蔵本は殆んど同じ物を揃えており、わざわざ王宮勤めを目指さなくても調べ事は国立図書館で済むはずだ。
「それが、どうやら5代目が当時フェルンダリンス家が所蔵していた書物を全て王宮図書館に寄贈した様なんだ。何故その様な事をしたのか判らないが、希少な寄贈本だったら表には出さないで大切に保管されてしまうだろう?じい様が調べて見つけた5代目の手記にその様な事が書かれていた。恐らく寄贈本達は希少な部類だったのだろう。だから、俺はその閲覧制限区域に入れる立場になりたい。きっと、そこに手がかりがあるはずだからな」
「成る程」
「……うわ~。まさか俺本当に呪われていたんか~。ビックリだわ~」
ラウンは、ソファーに仰け反り右手で顔を覆う。
「俺って言うかフェルンダリンス家がだろう?」
ハーヴは苦笑しながら訂正してお茶を飲む。
「まあ、そうなんだけどさ。……そっか。だから、兄ちゃんは医者は継げないって言ったのか」
姿勢を戻したラウンは兄を見つめ、小さく溜め息を吐いた。
「それもあるが、俺は愛想笑いや気が利いた言葉を言うなんて苦手なんだ。あと、知りたくなったらとことん追求して周りが見えなくなってしまうだろう?患者を放ったらかしにする様な奴は医者には向かないさ」
その点、昔から世話好きで優しくて手先が器用なお前なら親父達の後を立派に継いで行けると思うぞ。とナウンは弟に微笑んだ。
「まあ、確かに俺はじい様や親父達みたいな医者になりたくてここに入った訳だけど。……あっ!ごめん、グヴァイ!話がめちゃくちゃそれちゃったね」
ラウンが隣の僕を見て頭を下げる。
「いえ!……その、僕は皆さんの話を聞けて嬉しいです」
他人と関わるのが嫌になっていたけれど、聞かれるばかりではなく、相手も自身の事を明かしてくれると、ちゃんと知り合いたい・付き合いたい、と思ってくれていると判り、僕は嬉しいと感じていた。
「ところで、その竜の血が関係していて風の守護が弱いのか?」
ハーヴがそうナウンに問うと、ナウンは首を横に振る。
「いや、恐らく魔術による呪いの所為だ」
「「「呪い!?」」」
ヤフクとラウンと僕は同時に声を上げ驚く。
「お前ら、息ぴったり過ぎ」
ザイクとハーヴはくくくっと笑い声をあげる。
「女史の下で生活をしているのに、事態を女史が知らなかったんだ。学舎の中ならいざ知らずこの寮の中で、だぞ?……普通は有り得ないだろう?」
何故ミフサハラーナさんの事が今出てくるのか僕には良く解らなかったけれど、彼女が設立当初からずっと寮母だから、それが関係しているのだろうか?
だけど、僕以外のみんなはナウンの言葉を理解し納得した様で「確かに」と呟いて頷いている。
入寮したばかりのヤフクまで頷いている。
……そう言えば、彼はミフサハラーナさんの事を良く知っている様な感じだった。
元々、ここソイルヴェイユは12代目の王様が創られたから、王家が深く関わっているのかも知れないな。
「だが、安心しろグヴァイ。明日には全て片付いてもう嫌な思いはしなくて済むからな」
「そうだね。呪いなんて掛けた愚か者は、今頃死ぬ程後悔している事態になっていると思うよ」
ナウンとザイクは、とても嬉しそうににっこりと満面の笑顔を僕に向ける。
『楽し気で優しい笑顔なのに、背筋が寒く感じるのは何故だろう?』
2人の良い笑顔(?)に僕がゾッとしていたら、隣のラウンが小さな声で「うっわ~、兄ちゃん達が本気で怒るとか久しぶりに見たわ。マジ怖っ!」と呟いた。
あれが彼等の本気怒りなんだ…。笑顔で怒る人程怖いものはない。と僕は実感する。
「……ナウン、ザイク。グヴァイが怯えているぞ」
ハーヴの一言に、一瞬で2人の雰囲気が和らぎ、僕はホッと小さく息を吐く。
「つまり僕は先程の人からの誹謗中傷だけでなく、更にもう1人別の誰かからも虐めを受けていたんですか?」
「あぁそうだ。その呪いの所為で、寮生を巻き込んだ異常な状況になってしまっていたんだ」
「だけど、その呪いを掛けてきた奴は何でグヴァイを標的にしたんだろうな?」
「大方、グヴァイの見た目の良さと周りから次々と話し掛けられている人気ぶりに嫉妬したんだろう」
ラウンの問いに、お茶を飲み焼き菓子を口に放り込んだヤフクがそう呟く。
「そんな所だろうねぇ。どちらもグヴァイの所為じゃないのにねぇ?」
ザイクは肩をすくめ、焼き菓子に手を伸ばして口に入れる。一連の動作が凄く優雅で、僕はつい見惚れてしまう。
「だけど、皆もそこに惹き付けられて構っていたのは事実だよな」
ヤフクの一言に、僕の心は沈む。
「……こんな見た目じゃなかったら、良かったのに」
「それは違うぞ」
思わず口から出てしまった僕の呟きに、ナウンは強い眼差しを向けて否定する。
「その見た目は、グヴァイの魅力であって何も悪い事は無い。嫉妬を覚える器の小さい奴が間違えているんだ」
「まあ、恐らくこの先もグヴァイに嫉妬する輩は出てくるだろう。けれど、君自身が見た目だけでなく中身も伴っていたら、君の味方の方が多くてそんな連中は君に近付く所か害を与えてくる事すら出来ないさ」
ザイクは、ナウンの言葉を引き継ぐ様に優しく言葉を続け、僕に微笑む。
『中身…。つまりは性格や頭脳って事だよね。性格は、良いのか悪いのかは自分自身だとよく判らないなぁ。でもナウン達が僕を友達に選んでくれたって事は、少しは自信を持って良いのかな?頭脳は……、勉強を頑張るしかないよね。寮内の図書室の本、みんな街の学舎には無かった物でどれを読んでも面白くて、早く授業が始まって欲しいって思っていたんだった』
実際に授業が始まってみない事には、自分自身がどれ程勉強が出来るのか判らないけれど、中身も伴うって意味は充分に理解出来る。
「はい!僕、所詮見た目だけの奴って言われない様に頑張ります!」
色々考えてしまったけれど、ザイクの言葉の通りだなと思う。僕はギュッと両手に握りこぶしを作り、笑顔で強く頷いた。
「……この素直さと健気さが、選ばれた理由なんだろうな」
「?」
「そうでしょうねぇ。貴族とか豪商の子は見栄張る事ばっかりで、性格に素直さや可愛い気がある者って今までいませんでしたからねぇ」
「??」
「つ~か、セユナンテさんとかおやっさんとかメロメロだよね」
「!?」
「あぁ。俺と言う本当の従弟がいるのに、グヴァイが弟だったら良かったのにって本人を目の前にして言いやがったぐらいだからな」
「!?!?」
「極めつけは絶対公平・平等の女史に名で呼んで良いって言わせた所だな」
ハーヴ、ザイク、ラウン、ヤフクそしてナウンの順に、みんなが僕をじいっと見つめながら一言呟いていく。その言葉の意味を今一つ掴めず、僕はどう返事をしたら良いのか判らなくて戸惑うばかりだった。
そして、オロオロしている僕を見て、みんなはニヤリと笑い合い、声を揃える。
「「「「「すばり、年上キラーっ!」」」」」
「よし!これからはグヴァイを年上キラーと呼ぼう♪」
ラウンの変な提案に5人全員が同時に頷く。
「は?……えぇっ!?」
「グヴァイ、間違っても知らない人からお菓子を貰ったら駄目だからな?」
「いやいや、お菓子ぐらいならまだ大丈夫だよ。むしろ花束とか手紙を受け取っちゃ駄目だよ?確実に下心ありだからね?」
「そうだな。あと、ご飯を奢ってくれるとか一緒に散歩してくれたらお小遣いをくれるって奴には絶対付いて行くなよ?」
「……ハーヴのは偉い具体的だな。経験者か?」
ラウンとザイクとハーヴから次々と良く解らない “一人になった時の為の注意事項” を言われて、また僕は口を挟めないでいると、ヤフクがハーヴの言葉に反応をする。
「……いや、一般論だ」
だけど、言われている内容が僕が街の学舎に通い出した頃に先生方や両親達から言われていた事に近いものだったので、僕は今更!?と思って少しだけ怒りが込み上げる。
「僕、知らない人には付いて行きませんって!小さい子扱いしないで下さいよ!」
「小さい子扱いではなく、菊花の危き……「は~い!ナウンっ!それ以上は8才児のグヴァイにはまだ必要無い知識だと俺は思うなぁ♪」」
「あぁ」
「ぐあぁっ!」
何か大切な事を言おうとしていたナウンの口を、ザイクが素早く両手で塞ぎ、ハーヴがナウンの左足を強く踏みつけた。
『……キッカのキキ?』
言われた単語の意味が理解出来なくて、僕は首を傾げる。
そんな様子の僕を見て、ラウンはうんうん。と頷いて、よしよしと優しく頭を撫でる。
「兄ちゃんの言った事は忘れて良いよ~。グヴァイ」
「そうだな。お前はまだ知らなくて良い事だな」
「理解しているヤフクはどうなの?って俺思っちゃうんだけど…?君、グヴァイと同じ年だよね?」
「オレの周りは妙齢の侍女ばかりだったからな。様々な事が耳に入ってくる。むしろ、一つしか違わないラウンも何故理解しているんだ?」
「うち、病院だからさ。色んな患者さんが来るんだよね~」
「……あぁ、成る程」
妙に納得し合っている2人に、僕は蚊帳の外に出された感じがして内心むくれそうになる。
「2人は、ナウンの言った意味が解っているんだよね?ズルいよっ!ちゃんと僕にも解る様に説明してよ!」
「「「「グヴァイは知らない方が良い」」」」
「!? ……はい」
痛む足に悶え苦しんでいるナウン以外の4人が、真剣な眼差しを僕に向けて同時に言ってきたものだから、僕はその迫力に押されてうっかり頷いてしまった。
場が和み、僕を拒絶する空気も視線も和らいだので改めて自分の秘密を口にする。
「……ほう」
「「へぇ!」」
「クシュマルレミクスだったのか!」
「……成る程。どうりで」
僕の告白にヤフクは少し目を見開き、ザイクとラウンは息がぴったり合った驚きを見せ、ナウンは得心を得た様に呟き、ハーヴは僕を見て頷いた。
「曾祖父がクシュマルレミクスで、その血と力が僕に現れたのだそうです」
「あぁ、竜の血は何世代か後に出るって言うものな。それで、その外見と魔力なのか」
ナウンは、初めて僕に会った時に僕が子供のサーヴラーとは思えない程の魔力を保有している事に気付き、内心驚いていた。と話す。
「保有魔力を知る事が出来るのですか?」
「あぁ。ミドゥフィスに上がると、自分の魔力保有量と相手の保有量を知る術を教わる授業があるんだ」
「へぇ!」
「俺は、その肌の白さと髪と目の色の違いはサーヴラーの古種だと思っていたよ」
「あぁ、それは俺も思った」
ザイクの言葉にヤフクも頷く。
今でこそ、サーヴラー人の殆んどは褐色の肌をしているけれど、遥か昔は皆肌が白かったらしい。
「じゃあ、ナウン達はその古種なの?」
「あぁ、そうだ。初代からずっとだ」
「もう王族ですら古種の血は殆んど現れないのにずっと、とは凄いなっ!」
「……そうなの?」
「あぁ」
ナウンの言葉に驚くヤフクは、ピンと来ていない僕に頷く。
とても離れた地域のサーヴラー同士が婚姻したり、古種の血を多く引き継いでいる王族や貴族には子供や子孫に覚醒遺伝の様に今でも髪と眼の色が違って生まれてくる事もあるけれど、白い肌で生まれてくる事は滅多に無い。と教えてくれた。
「俺は、呪われてんのかと小さい頃は思ったけどね」
ラウンがおかしそうにそう言うと、ナウンが至極真面目な顔付きで「いや、事実そうらしいぞ」と話す。
「え!?……またぁ!兄ちゃん、俺をからかうのも1日1回だけにしてよ~っ!」
「1日1回って、なんかのくじ引きじゃないんだから」
ラウンはナウンの言葉に「俺、そんな子供騙しにはもう引っ掛からないって!」と笑い出し、ザイクはラウンの言った言葉が面白く感じた様で、プッと吹き出す。
「いや、冗談でもお前をからかっている訳でもない。……じい様が、うちの一族で直系だけがずっと肌が白く同色の髪と目だろう?若い頃、一時期初代まで遡って調べたんだそうだ。そうしたら、3代目か4代目の辺りでどうやら末代まで続く魔術による呪いを掛けられた事が判ったんだ」
ただ、呪いと言ってもフェルンダリンス家に生まれてくる直系の男子の肌が白くて黒髪黒眼なだけで、他には全く何も無い。むしろ丈夫で病気や怪我に強いので、他の親族よりも長生き出来て大変良いらしい。
「一体どの様な理由が有ってこんな魔術を掛けられたのか不明だが、不都合は何も起きていない。だからコレを呪いと呼んで良いのか判らない。だが、謎は解きたい。魔術による呪いを解く方法が年々解明されてきているし、俺が文官か武官に就いて王宮勤務になればじい様では入る事が叶わなかった王宮図書館へ入れる様になるから、更に深く事実を突き止められるかも知れないんだ」
「何故、王宮図書館に入りたいんだ?」
ヤフクは首を傾げる。
何故なら、一般開放されているイルツヴェーグ内の国立図書館と王宮敷地内の王宮図書館の所蔵本は殆んど同じ物を揃えており、わざわざ王宮勤めを目指さなくても調べ事は国立図書館で済むはずだ。
「それが、どうやら5代目が当時フェルンダリンス家が所蔵していた書物を全て王宮図書館に寄贈した様なんだ。何故その様な事をしたのか判らないが、希少な寄贈本だったら表には出さないで大切に保管されてしまうだろう?じい様が調べて見つけた5代目の手記にその様な事が書かれていた。恐らく寄贈本達は希少な部類だったのだろう。だから、俺はその閲覧制限区域に入れる立場になりたい。きっと、そこに手がかりがあるはずだからな」
「成る程」
「……うわ~。まさか俺本当に呪われていたんか~。ビックリだわ~」
ラウンは、ソファーに仰け反り右手で顔を覆う。
「俺って言うかフェルンダリンス家がだろう?」
ハーヴは苦笑しながら訂正してお茶を飲む。
「まあ、そうなんだけどさ。……そっか。だから、兄ちゃんは医者は継げないって言ったのか」
姿勢を戻したラウンは兄を見つめ、小さく溜め息を吐いた。
「それもあるが、俺は愛想笑いや気が利いた言葉を言うなんて苦手なんだ。あと、知りたくなったらとことん追求して周りが見えなくなってしまうだろう?患者を放ったらかしにする様な奴は医者には向かないさ」
その点、昔から世話好きで優しくて手先が器用なお前なら親父達の後を立派に継いで行けると思うぞ。とナウンは弟に微笑んだ。
「まあ、確かに俺はじい様や親父達みたいな医者になりたくてここに入った訳だけど。……あっ!ごめん、グヴァイ!話がめちゃくちゃそれちゃったね」
ラウンが隣の僕を見て頭を下げる。
「いえ!……その、僕は皆さんの話を聞けて嬉しいです」
他人と関わるのが嫌になっていたけれど、聞かれるばかりではなく、相手も自身の事を明かしてくれると、ちゃんと知り合いたい・付き合いたい、と思ってくれていると判り、僕は嬉しいと感じていた。
「ところで、その竜の血が関係していて風の守護が弱いのか?」
ハーヴがそうナウンに問うと、ナウンは首を横に振る。
「いや、恐らく魔術による呪いの所為だ」
「「「呪い!?」」」
ヤフクとラウンと僕は同時に声を上げ驚く。
「お前ら、息ぴったり過ぎ」
ザイクとハーヴはくくくっと笑い声をあげる。
「女史の下で生活をしているのに、事態を女史が知らなかったんだ。学舎の中ならいざ知らずこの寮の中で、だぞ?……普通は有り得ないだろう?」
何故ミフサハラーナさんの事が今出てくるのか僕には良く解らなかったけれど、彼女が設立当初からずっと寮母だから、それが関係しているのだろうか?
だけど、僕以外のみんなはナウンの言葉を理解し納得した様で「確かに」と呟いて頷いている。
入寮したばかりのヤフクまで頷いている。
……そう言えば、彼はミフサハラーナさんの事を良く知っている様な感じだった。
元々、ここソイルヴェイユは12代目の王様が創られたから、王家が深く関わっているのかも知れないな。
「だが、安心しろグヴァイ。明日には全て片付いてもう嫌な思いはしなくて済むからな」
「そうだね。呪いなんて掛けた愚か者は、今頃死ぬ程後悔している事態になっていると思うよ」
ナウンとザイクは、とても嬉しそうににっこりと満面の笑顔を僕に向ける。
『楽し気で優しい笑顔なのに、背筋が寒く感じるのは何故だろう?』
2人の良い笑顔(?)に僕がゾッとしていたら、隣のラウンが小さな声で「うっわ~、兄ちゃん達が本気で怒るとか久しぶりに見たわ。マジ怖っ!」と呟いた。
あれが彼等の本気怒りなんだ…。笑顔で怒る人程怖いものはない。と僕は実感する。
「……ナウン、ザイク。グヴァイが怯えているぞ」
ハーヴの一言に、一瞬で2人の雰囲気が和らぎ、僕はホッと小さく息を吐く。
「つまり僕は先程の人からの誹謗中傷だけでなく、更にもう1人別の誰かからも虐めを受けていたんですか?」
「あぁそうだ。その呪いの所為で、寮生を巻き込んだ異常な状況になってしまっていたんだ」
「だけど、その呪いを掛けてきた奴は何でグヴァイを標的にしたんだろうな?」
「大方、グヴァイの見た目の良さと周りから次々と話し掛けられている人気ぶりに嫉妬したんだろう」
ラウンの問いに、お茶を飲み焼き菓子を口に放り込んだヤフクがそう呟く。
「そんな所だろうねぇ。どちらもグヴァイの所為じゃないのにねぇ?」
ザイクは肩をすくめ、焼き菓子に手を伸ばして口に入れる。一連の動作が凄く優雅で、僕はつい見惚れてしまう。
「だけど、皆もそこに惹き付けられて構っていたのは事実だよな」
ヤフクの一言に、僕の心は沈む。
「……こんな見た目じゃなかったら、良かったのに」
「それは違うぞ」
思わず口から出てしまった僕の呟きに、ナウンは強い眼差しを向けて否定する。
「その見た目は、グヴァイの魅力であって何も悪い事は無い。嫉妬を覚える器の小さい奴が間違えているんだ」
「まあ、恐らくこの先もグヴァイに嫉妬する輩は出てくるだろう。けれど、君自身が見た目だけでなく中身も伴っていたら、君の味方の方が多くてそんな連中は君に近付く所か害を与えてくる事すら出来ないさ」
ザイクは、ナウンの言葉を引き継ぐ様に優しく言葉を続け、僕に微笑む。
『中身…。つまりは性格や頭脳って事だよね。性格は、良いのか悪いのかは自分自身だとよく判らないなぁ。でもナウン達が僕を友達に選んでくれたって事は、少しは自信を持って良いのかな?頭脳は……、勉強を頑張るしかないよね。寮内の図書室の本、みんな街の学舎には無かった物でどれを読んでも面白くて、早く授業が始まって欲しいって思っていたんだった』
実際に授業が始まってみない事には、自分自身がどれ程勉強が出来るのか判らないけれど、中身も伴うって意味は充分に理解出来る。
「はい!僕、所詮見た目だけの奴って言われない様に頑張ります!」
色々考えてしまったけれど、ザイクの言葉の通りだなと思う。僕はギュッと両手に握りこぶしを作り、笑顔で強く頷いた。
「……この素直さと健気さが、選ばれた理由なんだろうな」
「?」
「そうでしょうねぇ。貴族とか豪商の子は見栄張る事ばっかりで、性格に素直さや可愛い気がある者って今までいませんでしたからねぇ」
「??」
「つ~か、セユナンテさんとかおやっさんとかメロメロだよね」
「!?」
「あぁ。俺と言う本当の従弟がいるのに、グヴァイが弟だったら良かったのにって本人を目の前にして言いやがったぐらいだからな」
「!?!?」
「極めつけは絶対公平・平等の女史に名で呼んで良いって言わせた所だな」
ハーヴ、ザイク、ラウン、ヤフクそしてナウンの順に、みんなが僕をじいっと見つめながら一言呟いていく。その言葉の意味を今一つ掴めず、僕はどう返事をしたら良いのか判らなくて戸惑うばかりだった。
そして、オロオロしている僕を見て、みんなはニヤリと笑い合い、声を揃える。
「「「「「すばり、年上キラーっ!」」」」」
「よし!これからはグヴァイを年上キラーと呼ぼう♪」
ラウンの変な提案に5人全員が同時に頷く。
「は?……えぇっ!?」
「グヴァイ、間違っても知らない人からお菓子を貰ったら駄目だからな?」
「いやいや、お菓子ぐらいならまだ大丈夫だよ。むしろ花束とか手紙を受け取っちゃ駄目だよ?確実に下心ありだからね?」
「そうだな。あと、ご飯を奢ってくれるとか一緒に散歩してくれたらお小遣いをくれるって奴には絶対付いて行くなよ?」
「……ハーヴのは偉い具体的だな。経験者か?」
ラウンとザイクとハーヴから次々と良く解らない “一人になった時の為の注意事項” を言われて、また僕は口を挟めないでいると、ヤフクがハーヴの言葉に反応をする。
「……いや、一般論だ」
だけど、言われている内容が僕が街の学舎に通い出した頃に先生方や両親達から言われていた事に近いものだったので、僕は今更!?と思って少しだけ怒りが込み上げる。
「僕、知らない人には付いて行きませんって!小さい子扱いしないで下さいよ!」
「小さい子扱いではなく、菊花の危き……「は~い!ナウンっ!それ以上は8才児のグヴァイにはまだ必要無い知識だと俺は思うなぁ♪」」
「あぁ」
「ぐあぁっ!」
何か大切な事を言おうとしていたナウンの口を、ザイクが素早く両手で塞ぎ、ハーヴがナウンの左足を強く踏みつけた。
『……キッカのキキ?』
言われた単語の意味が理解出来なくて、僕は首を傾げる。
そんな様子の僕を見て、ラウンはうんうん。と頷いて、よしよしと優しく頭を撫でる。
「兄ちゃんの言った事は忘れて良いよ~。グヴァイ」
「そうだな。お前はまだ知らなくて良い事だな」
「理解しているヤフクはどうなの?って俺思っちゃうんだけど…?君、グヴァイと同じ年だよね?」
「オレの周りは妙齢の侍女ばかりだったからな。様々な事が耳に入ってくる。むしろ、一つしか違わないラウンも何故理解しているんだ?」
「うち、病院だからさ。色んな患者さんが来るんだよね~」
「……あぁ、成る程」
妙に納得し合っている2人に、僕は蚊帳の外に出された感じがして内心むくれそうになる。
「2人は、ナウンの言った意味が解っているんだよね?ズルいよっ!ちゃんと僕にも解る様に説明してよ!」
「「「「グヴァイは知らない方が良い」」」」
「!? ……はい」
痛む足に悶え苦しんでいるナウン以外の4人が、真剣な眼差しを僕に向けて同時に言ってきたものだから、僕はその迫力に押されてうっかり頷いてしまった。
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