Summer Vacation

セリーネス

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目覚め6

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言われていた通り、柔らかな光を出していた半月が強く輝き魔方陣を覆う様に照らし出した。
輝きに包まれ確かに痛みは感じない光だが、瞬きをしてはならない事に乾きそうな目を守る為に本能で目が瞬こうと瞼がピクピク動き、それを阻止しなければならないのが非常に辛い。

眉間に力を入れ、徐々に薄目になりつつも決して瞬きをしない様に必死に目に力を入れていた所で、身体が浮遊し始めた。
知らない内に両手は胸の前で組み、まるで月を祈る様な姿になった。

かなり高く上がり、半月との距離が近くなった所で、自分を照らし包んでいた光が段々と狭まり丸い空間を形作ってきた。
それに合わせるかの様に腕が膝を抱え丸くなった。
目もいつの間にか閉じていたが、きっと自然と閉じたので問題は無いだろう。

『今の状態がきっと繭の中にいるって事なんだろうな』

そう呑気に思っていたら、前にテレビで観た宇宙飛行士がくるんと前回りしたのと同じ様に、自分の体もくるんと回った。
すると、突然お腹の中心部分が熱くなり、熱が全体に行き渡る様に通って行き、それに合わせて身体が真っ直ぐに伸びた。
そしてそのまま後ろから誰かに抱き締められる様に温かいものに包まれた。



その瞬間、全てが繋がった。



10年間足りなかった半身。
封印されていたとは言え、その身体はアキュミーラの街をそしてファルリーアパファルの世界を見て育った。

を襲ったサーヴラーの姿も視えた。
闇の種族と呼ばれてはいるけれど、色白で背中に蜻蛉の様な美しい羽根を持ち、見目も皆整っていた。
何故そんなにも力を欲するのだろう?
彼等が住まう郷里も日の光が降り注ぎちゃんと美しい所。外にばかり目を向けてしまって自分が立っている場所の素晴らしさに気付けていないのね。
もし、また彼等と出会えたらどんなに素晴らしい所か伝えてあげたい。他人の力なんて得なくても充分満ち足りる生き方が出来るわって教えてあげたい。


あぁ、私。大丈夫、どうか泣かないで。
忘れないから……。
覚えているから…………。
私達は彰で佳夜。
もう離ればなれにはならないから。

だから、もう泣かないで …………………。


足がひんやりと硬い感触を感じ、ふと目を開けると、そこは屋上で、私は夜空を見上げていた。もう半月は沈みかけ、まだ夜明けの届かない闇に消えようとしていた。
顔を下げ周りを見ると、消え行く魔方陣の外側に久志が立っていた。
あぁ、逢いたかった。会っていたけど、逢えてなかった。ずっと探していて、ずっと触れたかった私の全て。

「ひ~君♪」

私がそう呼ぶと、じっとこちらを心配気に見つめていた久志は目を見開き、ピクッと動いた。
完全に魔方陣が消え、私はそっと足を踏み出す。
途端に身体が揺らぎ意識が暗闇に飲み込まれて行った。

「彰!!」

ち が う……

「   って…」

ちゃんと呼んで。貴方にだけ伝えられる私の名前。
お願い、今はちょっと眠るけど、目が覚めたらちゃんと私を呼んで。




※※※※※※※※※※※※※※




「「佳夜!!」」

目を開けると、目の前に両親がいた。
2人共、とても泣きそうな顔をしている。
そして、良く見ればここは借りている自室。

一体どうしたのだろうか?
父さん達はいつの間に着いたんだろう?
屋上で沈み行く半月を見た所までは覚えているけれど、その後どうなったのか記憶が無い。

「佳夜、大丈夫?良かったらコレを少し飲んでちょうだい」

2人は私の背中に大きなクッションを当てて、体を起こしてくれた。
そして、母が口に添えてくれたのはガラスのコップ。含んでみるとそれはお水だったが、とても美味しくて私は自分でコップを持ち一気に飲み干した。

「もう一杯いるかい?」

母の隣には父が座っていて、不安気な瞳が揺れていた。

「ううん。大丈夫。それよりも私、どうしたの?」

私からコップを受け取り、父はそっと頬に右手を当てた。

「3日間、眠り続けていたんだ。私達も昨日こちらに着いたのだが、目覚めないお前を見て。……とても心配したよ」

3日間も…。
自分の中ではそんなに寝ていたとは思えなくて、本当に驚いた。

「佳夜、目が覚めたんだ!良かった!」

開いていたドアから顔を覗かせたのは煌夜だった。

「何よ、結局お姉ちゃんって呼んでくれないの?」

起きている私を見ると、直ぐに駆け寄りベッドに上がってきてぎゅっと抱き締めて胸に顔を沈めた。

「だって、ずっと呼び捨てだったじゃん?何か今さら?って思ってさ~」

はぁ~、柔らけぇ~。やっぱ姉ちゃんって良いわ~。と、抱き締めたまま私の事を呼び捨てにしたいのか敬称で呼びたいのかよく解らない弟だっだ。

「私、貴美ちゃん達に知らせてくるわね」

そう言って母が立ち上がると、私も一緒に行くよ。と父は母の腕を優しく取り部屋を出た。

「あ~、ホント、佳夜が目を覚ましてくれて良かったよ。親父達のあのラブラブっぷりを1人で見なくちゃならんとかマジ辛かった」

弟は更に私をぎゅ~っと抱き締めて「癒される~」と呟き、10日前3人で樹海に行った時の事を話してくれた。

「樹海に行ってたの!?」

何故かやたらと胸に顔を擦り寄せる弟の頭を撫でながら、私は3人がいた場所に驚いた。

国内だとは思っていたけど……。

一般人が立ち入れる所までは車で行き、その先の母が求める場所までは弟が目眩ましの魔法を使って徒歩で向かったのだそうだ。(乗って来た車も藪に隠し更に目眩ましの魔法もかけて隠したのだそうだ)

「俺には良く判らなかったんだけど、母さんは魔力が高められる場所を感じられるみたいで、どんどん進んで行くんだ。でも、あそこってさマジで居るんだな」

コレが。と弟は私から少し離れて両手を前にだらん、と下げた。

つまり、幽霊……。

「…………………」

私がその手の話が大ッ嫌いだって知っているはずなのに、弟は余程面白いと思ったのか嬉々として昼夜問わず出てきてさ、俺と母さんの魔力に惹かれてぞろぞろ憑いてこようとしちゃうから大変だったんだぜ♪と、得意気。

まだまだ話が続きそうだったので、私はさり気無く両手で耳をふさいで目を閉じた。

「イダッ!いだだだだだ!!」

突然の弟の涙声に驚いて目を開けると、久志がその大きな手で弟の頭を掴み手に力を込めていた。

「久志!」

随分久しぶりに逢った気がして、私は思わず体を起こして立ち上がろうとした。
しかし、寝過ぎていた所為で足元がおぼつかなかった。久志は無言でそんな私をサッと支え、優しくベッドサイドに座らせてくれた。

「目が覚めたみたいで安心した。もう、大丈夫なのか?」

相変わらず無表情だが、隣に座りさり気無く背中に腕を回して支えてくれる優しさに私は嬉しくて笑顔になった。

「私は3日間も寝ていたって自覚が無いから何ともない気がするけど、どうなんだろう?」

「そうか。……それよりも、何か覚えている事はあるか?」

覚えている事?……一体何の話???

意味が判らなくて首を傾げていると

「彰だった時の事と、魔方陣が消えた後の事だ」

と久志は教えてくれた。

「彰だった時の事は勿論覚えているよ♪……もしかして、口調が変わっちゃったから嫌だった?」

覚えているけど、何故か自然と今の口調になってしまうので、久志には嫌だったんだろうか?
そう思うと不安になり、久志を見上げた。

「いや、そうじゃない。あき……、お前の様子を何度か見に行った時にお前が「待って」とうわ言を言っていたんだ」

「そうだったんだ。ごめん、夢の中の事は私も覚えてないや」

「じゃあ、魔方陣が消えた後の事は?」

「う~ん、そっちも全く思い出せないのよ~。何か凄く大切な事だった気がするのに~!ヴ~、もやもやする~!」

思い出せないのがスッキリしなくて、思わず両手で頭を抱えると、久志はヨシヨシと撫でてくれた。

「えへへへ♪」

その優しい手付きに私は嬉しくなり、自分の両手を頭から外し久志の腕に絡めた。

「………お2人の世界にいる所大変申し訳ないんだけど。佳夜~、久志兄ちゃんにそろそろ脚を退けてくれる様に言ってくんない?」

ちょっと涙声な弟の声が下から聞こえてきたので驚いて足元を見ると、なんと久志に頭を踏まれて横に倒れている弟がいた。

「……チッ」

「煌夜!?」

一瞬小さく舌打ちが聞こえた気がしたが、とても小さな音だったので、気にせず私は慌てベッドを降り、久志の脚を退けた。

「ヤダ、何で踏まれているの!?大丈夫?」

抱き起こし、そのまま胡座をかいて座る弟の頭にケガが、無いか撫でて回った。

「…ん、俺は大丈夫。ってか、久志兄ちゃん!舌打ち聞こえたかんな!」

「何の事だ?」

弟がそのまま私を自分の胡座の上に座らせ様と抱き寄せる一瞬前に久志が私を抱き寄せて膝の上に座らせた。

「ちょっ!?久志!離して!私1人で座れるから!」

膝の上とか恋人同士じゃないんだから恥ずかしいから止めて!と言いながら私が暴れると、ピクッと腕を震わせた久志は腕の力を抜いて解放してくれた。
私は久志のたまに来る過剰なスキンシップに、彰だった時の様な嫌悪感こそ感じないが、やはり恥ずかしいので止めて欲しいと思い、顔も赤くなった。

「佳~夜、ずっと寝ていたからお腹空いてない?一緒に下に降りてご飯食べようよ♪」

久志から離れ、1人顔が熱くて手でパタパタと扇いでいたら、笑顔の弟がそう提案し手を握ってきた。

「そうね。お父さん達も戻って来ないし、貴美恵さん達に心配かけちゃったから下に行きたいかも」

私はそのまま弟と手を繋いで部屋を出た。
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