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「留学生のルイ・ラサートルです。一ヶ月間、わずかな時間ですが、よろしくお願いします。」
教室は少しざわついていた。担任が空いてる席はないかと探し始めた時、はいはーい!と、声が上がった。
「ルイ、俺の隣空いてるぜ!」
コウだ。担任は、うむ、という感じで頷いた。
「コウ、君と同じクラスで良かったよ。」
「何言ってんだー?クラスが2つも存在する学校ってあんの?」
どうやら、桜坂養成学校は、クラスが複数あるハリエス養成学校と違い、1クラスしかないらしい。でも、当然かもしれない。比良ノ邦の中でも、桜坂地区は人口がかなり少ない。そう、ここ桜坂養成学校は、全校生徒100人前後の、こじんまりとした学校だ。時間割は、午前は訓練、午後は座学、と言った感じで、長めの昼休憩を挟み5限まであり、3年制だ。
「今日は水上訓練だ。皆、月ノ宮浜まで全力で走れ。5分後には浜辺に整列しておくように!」
生徒は一斉に立ち上がり、椅子も揃えず教室を飛び出した。地図を広げ道を調べた僕は、目を疑った。とても、5分で行く事が可能な距離とは思えなかったからだ。ゼェゼェと息を切らしながら、全力で走り、やっと月ノ宮浜に到着した。今から水上訓練が始まるというのが、信じられないほど、生徒達は疲れていた。でも、僕は少し自信があった。何故なら、ハリエス養成学校で、あの地獄の水上訓練を夏場はずっとやらされてきたからだ。でも、その時僕の頭の中に一つのハテナが浮かんだ。ちょっと待て、今、比良ノ邦は冬だ。僕は、そんなのあり得ない!と思い、思わず声に出した。
「え、えええーー⁉︎」
「皆、海に入れーー!海水浴場の、端から端まで泳ぎ切れ!」
躊躇なく海に飛び込んでいく桜坂の生徒達をみて、僕はそのタフさに目を見開いた。ハリエスで受けた地獄の水上訓練、あれは地獄なんかじゃなかった。本当の地獄はこれだ、と僕は思った。もはや、地獄以上だ。僕は、その日、留学初日にして学校を早退した。
1週間授業を受けてみて思ったが、射撃訓練、飛行訓練、水上訓練、陸上訓練、サバイバル、桜坂での訓練は、どれもハリエスと比べ物にならないほど過酷だ。そこで、少し疑問に思ったことがあったのでコウに聞いてみた。
「コウ、戦争の気配が全くない比良ノ邦で、あたかも明日戦いが始まることを想定したような、過酷な訓練をする理由ってなんだ?」
そう、言い終わらないうちに、コウはハッキリと答えた。
「知らない。」
あまりに即答だったので、僕は少し違和感を感じた。
「……そんな事、どうでもいいじゃないか。それよりさ!今日、夜何食べよっかなー!」
気のせいだろうか、コウが何か誤魔化しているように見えたのは。それと、今、物陰から僕達を覗いていた、ロングヘアの少女は、もしかして愛子だろうか。
次の日、出席をとっている時の事だった。担任がある生徒の名前を呼んだ時、教室に重たい空気が流れた。
──柳谷オサム。
シーンと静まり返った生徒達をみて、担任は呼び間違いに気付き焦り始めた。
「おっと……すまない。呼び間違えてしまった。次、ルイ・ラサートル-。」
「ねえ、柳谷オサムって、誰?転校してしまったの?」
食堂にて、4人がいるテーブルに、カチャカチャと食器の音だけが響いた。僕は何か、言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれない。シーンとした空気の中、愛子が口を開いた。
「……オサムくんは、行方不明なの。きっと、彼は死んだわ。ここ、桜坂養成学校のエースパイロットだった。かつて、あなたの席に座っていた生徒よ。」
僕は恐る恐る聞いた。
「……何故、死んだの?」
愛子は、少し黙ってから、答えた。
「神隠しに、あったの。オサムくんの事件があってから、ここの訓練は強固になったわ。」
「愛子、それは言っちゃダメだ!」
コウが大声を出した。喧嘩が起きそうな予感を察知した他のテーブルの人達が、チラチラとこちらの様子を伺っている。コウはテーブルを両手でバンと叩き、強くこう言った。
「オサムは、死んでなんかいないっ‼︎きっと、どこかで生きてる……」
「ちょっとちょっと、ここ食堂だよ!」
古春はコウを落ち着かせようとした。愛子は、俯いていた。
「……ごめん、大声出して。ご馳走様。俺、部屋へ戻るよ。」
──コウ、またいじめられたのか?俺がそいつらこらしてめやる!
少年は土埃にまみれ、体の至る所にコブができ、赤く腫れ上がっている。そんな時、ヒーロのように彼は駆けつける。少年にとって、彼は照明だった。奪われた照明は、今もどこかで誰かを照らしている、そう、少年は信じていた──。
「コウとオサムは幼馴染で、親友だった。いじめられっ子だったコウを、オサムは救ったの。でも、ある日突然、オサムは消えた。」
「それが、神隠しだって言うのか……?」
「ええ。あの日、オサムが消えた時、私達はコウを含めた3人で月ノ宮浜へ出かけていた。後尾を歩くオサムから、少し目を離したら、彼は消えていたわ。ここ、桜坂地区には、大昔から、夜の海では神隠しが起こる、って言い伝えがあるの。でも、比良ノ国は、神隠しのような曖昧な存在を信じて、それと戦うために、過酷な訓練を子供達に受けさせている、なんて事が他国にバレたら、笑い者よ。だから、これは桜坂だけの秘密。古春はもちろん、ルイくんも、私はもう桜坂の一員だと思うから、話したわ。」
「……辛いのに、教えてくれてありがとう。」「私も、神隠しの言い伝えは知っていたが、オサムのことは知らなかった。教えてくれてありがとう。」
一方、その頃、コウは月ノ宮浜に向かっていた。
教室は少しざわついていた。担任が空いてる席はないかと探し始めた時、はいはーい!と、声が上がった。
「ルイ、俺の隣空いてるぜ!」
コウだ。担任は、うむ、という感じで頷いた。
「コウ、君と同じクラスで良かったよ。」
「何言ってんだー?クラスが2つも存在する学校ってあんの?」
どうやら、桜坂養成学校は、クラスが複数あるハリエス養成学校と違い、1クラスしかないらしい。でも、当然かもしれない。比良ノ邦の中でも、桜坂地区は人口がかなり少ない。そう、ここ桜坂養成学校は、全校生徒100人前後の、こじんまりとした学校だ。時間割は、午前は訓練、午後は座学、と言った感じで、長めの昼休憩を挟み5限まであり、3年制だ。
「今日は水上訓練だ。皆、月ノ宮浜まで全力で走れ。5分後には浜辺に整列しておくように!」
生徒は一斉に立ち上がり、椅子も揃えず教室を飛び出した。地図を広げ道を調べた僕は、目を疑った。とても、5分で行く事が可能な距離とは思えなかったからだ。ゼェゼェと息を切らしながら、全力で走り、やっと月ノ宮浜に到着した。今から水上訓練が始まるというのが、信じられないほど、生徒達は疲れていた。でも、僕は少し自信があった。何故なら、ハリエス養成学校で、あの地獄の水上訓練を夏場はずっとやらされてきたからだ。でも、その時僕の頭の中に一つのハテナが浮かんだ。ちょっと待て、今、比良ノ邦は冬だ。僕は、そんなのあり得ない!と思い、思わず声に出した。
「え、えええーー⁉︎」
「皆、海に入れーー!海水浴場の、端から端まで泳ぎ切れ!」
躊躇なく海に飛び込んでいく桜坂の生徒達をみて、僕はそのタフさに目を見開いた。ハリエスで受けた地獄の水上訓練、あれは地獄なんかじゃなかった。本当の地獄はこれだ、と僕は思った。もはや、地獄以上だ。僕は、その日、留学初日にして学校を早退した。
1週間授業を受けてみて思ったが、射撃訓練、飛行訓練、水上訓練、陸上訓練、サバイバル、桜坂での訓練は、どれもハリエスと比べ物にならないほど過酷だ。そこで、少し疑問に思ったことがあったのでコウに聞いてみた。
「コウ、戦争の気配が全くない比良ノ邦で、あたかも明日戦いが始まることを想定したような、過酷な訓練をする理由ってなんだ?」
そう、言い終わらないうちに、コウはハッキリと答えた。
「知らない。」
あまりに即答だったので、僕は少し違和感を感じた。
「……そんな事、どうでもいいじゃないか。それよりさ!今日、夜何食べよっかなー!」
気のせいだろうか、コウが何か誤魔化しているように見えたのは。それと、今、物陰から僕達を覗いていた、ロングヘアの少女は、もしかして愛子だろうか。
次の日、出席をとっている時の事だった。担任がある生徒の名前を呼んだ時、教室に重たい空気が流れた。
──柳谷オサム。
シーンと静まり返った生徒達をみて、担任は呼び間違いに気付き焦り始めた。
「おっと……すまない。呼び間違えてしまった。次、ルイ・ラサートル-。」
「ねえ、柳谷オサムって、誰?転校してしまったの?」
食堂にて、4人がいるテーブルに、カチャカチャと食器の音だけが響いた。僕は何か、言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれない。シーンとした空気の中、愛子が口を開いた。
「……オサムくんは、行方不明なの。きっと、彼は死んだわ。ここ、桜坂養成学校のエースパイロットだった。かつて、あなたの席に座っていた生徒よ。」
僕は恐る恐る聞いた。
「……何故、死んだの?」
愛子は、少し黙ってから、答えた。
「神隠しに、あったの。オサムくんの事件があってから、ここの訓練は強固になったわ。」
「愛子、それは言っちゃダメだ!」
コウが大声を出した。喧嘩が起きそうな予感を察知した他のテーブルの人達が、チラチラとこちらの様子を伺っている。コウはテーブルを両手でバンと叩き、強くこう言った。
「オサムは、死んでなんかいないっ‼︎きっと、どこかで生きてる……」
「ちょっとちょっと、ここ食堂だよ!」
古春はコウを落ち着かせようとした。愛子は、俯いていた。
「……ごめん、大声出して。ご馳走様。俺、部屋へ戻るよ。」
──コウ、またいじめられたのか?俺がそいつらこらしてめやる!
少年は土埃にまみれ、体の至る所にコブができ、赤く腫れ上がっている。そんな時、ヒーロのように彼は駆けつける。少年にとって、彼は照明だった。奪われた照明は、今もどこかで誰かを照らしている、そう、少年は信じていた──。
「コウとオサムは幼馴染で、親友だった。いじめられっ子だったコウを、オサムは救ったの。でも、ある日突然、オサムは消えた。」
「それが、神隠しだって言うのか……?」
「ええ。あの日、オサムが消えた時、私達はコウを含めた3人で月ノ宮浜へ出かけていた。後尾を歩くオサムから、少し目を離したら、彼は消えていたわ。ここ、桜坂地区には、大昔から、夜の海では神隠しが起こる、って言い伝えがあるの。でも、比良ノ国は、神隠しのような曖昧な存在を信じて、それと戦うために、過酷な訓練を子供達に受けさせている、なんて事が他国にバレたら、笑い者よ。だから、これは桜坂だけの秘密。古春はもちろん、ルイくんも、私はもう桜坂の一員だと思うから、話したわ。」
「……辛いのに、教えてくれてありがとう。」「私も、神隠しの言い伝えは知っていたが、オサムのことは知らなかった。教えてくれてありがとう。」
一方、その頃、コウは月ノ宮浜に向かっていた。
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