25 / 46
ナーチェ編
24
しおりを挟む
ナーチェが物心ついた時には、ナーチェの母はいなかった。いつも側にいたのは父のセルディストで、ナーチェは教育も父から施された。
ナーチェの世界はカールトン公爵家のカントリーハウスの敷地内だけが全てだった。
屋敷にいるのは数名の使用人と父と祖母。
その祖母は体が弱く、いつも何処か遠くを見ているような目をしていた。
そして何故かナーチェの名を呼んでくれなかった。
ナーチェを呼ぶ時は必ず『サーフ』と優しく呼びかけていた。
そんな祖母がある日居なくなった。
屋敷中を探しても居なくて滔々皆で外を探しに行くことになり、人少ななカントリーハウスでナーチェは侍女と二人取り残された。
庭のガゼボから先には行ってはいけないと常から言われていたけれど、その日は祖母が心配のあまりナーチェは侍女の目を盗んでその先へと進んだ。
するとその先にあったのは湖だった。
そこに膝を抱えて蹲っている子を見かけた。その子は湖に向け何かを投げていた。
よく見るとそれはその子が座っている周りにあった石のようだ。
「なにしてるの?」
ナーチェの呼び掛けにその子の肩がビクッと跳ねた、そして此方に振り向いたのはとても綺麗な顔をした男の子だった。
肩に合わせて切りそろえられている金色の髪は風に揺れていた。少し大きめの瞳は緑色でその目には涙が光っている。
「ないてるの?」
「来るな!」
ナーチェが近づこうとすると大きな声で止められた、大きな声は少し怖いと思ったけれどナーチェは何故か側に居てあげなければと思い、勇気を出して隣に座った。
男の子はナーチェが横に座ると怒鳴りはしなかったけれど、俯いてしまったからナーチェは首を傾げて顔を覗きこんだ。
男の子の涙はまだ止まっていなくて、ナーチェはスカートのポケットからハンカチを取り出して渡した。
驚く男の子はハンカチとナーチェを暫く交互に見ていたが、ハンカチを受け取って涙を拭った。
それを見てナーチェは安心して立ち上がり「またね」と言って屋敷に戻ったのだった。
それがユースティオとの出会いで、その時ナーチェは8歳だった。
その日祖母は公爵家に隣接していた森の中で発見され帰らぬ人となった。
葬儀が行われ今まで会ったことのない人達が数人カントリーハウスを訪れた、その中には王都のタウンハウスを管理していた執事のトールもいた。
バタバタと落ち着かない日々が1週間ほど過ぎた頃、父が王都へと出かけて留守にした日、ナーチェは再び湖に向かった。
どうしてもあの男の子に会いたいと思ったからだ。
その男の子はあの日と同じ様に湖の方に向けて膝を抱えて座っていた。
「またあえたね」
ナーチェが声をかけると男の子は振り返って立ち上がった。
思ったよりも背が高くてナーチェは吃驚してしまった。
ナーチェの世界はカールトン公爵家のカントリーハウスの敷地内だけが全てだった。
屋敷にいるのは数名の使用人と父と祖母。
その祖母は体が弱く、いつも何処か遠くを見ているような目をしていた。
そして何故かナーチェの名を呼んでくれなかった。
ナーチェを呼ぶ時は必ず『サーフ』と優しく呼びかけていた。
そんな祖母がある日居なくなった。
屋敷中を探しても居なくて滔々皆で外を探しに行くことになり、人少ななカントリーハウスでナーチェは侍女と二人取り残された。
庭のガゼボから先には行ってはいけないと常から言われていたけれど、その日は祖母が心配のあまりナーチェは侍女の目を盗んでその先へと進んだ。
するとその先にあったのは湖だった。
そこに膝を抱えて蹲っている子を見かけた。その子は湖に向け何かを投げていた。
よく見るとそれはその子が座っている周りにあった石のようだ。
「なにしてるの?」
ナーチェの呼び掛けにその子の肩がビクッと跳ねた、そして此方に振り向いたのはとても綺麗な顔をした男の子だった。
肩に合わせて切りそろえられている金色の髪は風に揺れていた。少し大きめの瞳は緑色でその目には涙が光っている。
「ないてるの?」
「来るな!」
ナーチェが近づこうとすると大きな声で止められた、大きな声は少し怖いと思ったけれどナーチェは何故か側に居てあげなければと思い、勇気を出して隣に座った。
男の子はナーチェが横に座ると怒鳴りはしなかったけれど、俯いてしまったからナーチェは首を傾げて顔を覗きこんだ。
男の子の涙はまだ止まっていなくて、ナーチェはスカートのポケットからハンカチを取り出して渡した。
驚く男の子はハンカチとナーチェを暫く交互に見ていたが、ハンカチを受け取って涙を拭った。
それを見てナーチェは安心して立ち上がり「またね」と言って屋敷に戻ったのだった。
それがユースティオとの出会いで、その時ナーチェは8歳だった。
その日祖母は公爵家に隣接していた森の中で発見され帰らぬ人となった。
葬儀が行われ今まで会ったことのない人達が数人カントリーハウスを訪れた、その中には王都のタウンハウスを管理していた執事のトールもいた。
バタバタと落ち着かない日々が1週間ほど過ぎた頃、父が王都へと出かけて留守にした日、ナーチェは再び湖に向かった。
どうしてもあの男の子に会いたいと思ったからだ。
その男の子はあの日と同じ様に湖の方に向けて膝を抱えて座っていた。
「またあえたね」
ナーチェが声をかけると男の子は振り返って立ち上がった。
思ったよりも背が高くてナーチェは吃驚してしまった。
51
あなたにおすすめの小説
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
たのしい わたしの おそうしき
syarin
恋愛
ふわふわのシフォンと綺羅綺羅のビジュー。
彩りあざやかな花をたくさん。
髪は人生で一番のふわふわにして、綺羅綺羅の小さな髪飾りを沢山付けるの。
きっと、仄昏い水底で、月光浴びて天の川の様に見えるのだわ。
辛い日々が報われたと思った私は、挙式の直後に幸せの絶頂から地獄へと叩き落とされる。
けれど、こんな幸せを知ってしまってから元の辛い日々には戻れない。
だから、私は幸せの内に死ぬことを選んだ。
沢山の花と光る硝子珠を周囲に散らし、自由を満喫して幸せなお葬式を自ら執り行いながら……。
ーーーーーーーーーーーー
物語が始まらなかった物語。
ざまぁもハッピーエンドも無いです。
唐突に書きたくなって(*ノ▽ノ*)
こーゆー話が山程あって、その内の幾つかに奇跡が起きて転生令嬢とか、主人公が逞しく乗り越えたり、とかするんだなぁ……と思うような話です(  ̄ー ̄)
19日13時に最終話です。
ホトラン48位((((;゜Д゜)))ありがとうございます*。・+(人*´∀`)+・。*
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
貴方が私を嫌う理由
柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。
その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。
カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。
――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。
幼馴染であり、次期公爵であるクリス。
二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。
長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。
実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。
もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。
クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。
だからリリーは、耐えた。
未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。
しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。
クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。
リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。
――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。
――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。
真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした
珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……?
基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる