最後の人生は⋯。

maruko

文字の大きさ
11 / 32

11 杭

 学園の1年間は流されるままに過ぎていった。
 一つ上にカリムトロの婚約者がいて、彼女の身分は公爵令嬢である。
 それなのにソフィアは学園で女王の様に振る舞っていた。
 イシュエルに廊下ですれ違う時も軽い会釈でさえもしない。
 そしてそれを誰かが咎めても“学園内では平等”などとほざいていた。
 自分が他生徒から同じ事をされれば相手の家を執拗に追い詰めるのに。
 そんなソフィアの所業は必ず王家に報告されていたにも関わらずカリムトロは動かなかった。
 それはソフィアの行いが取るに足らないと思っているからなのか、それとも他に何か理由があるのか、リヒトールには理解できなかった。

 その頃からしばしばカリムトロとリヒトールの間に冷たい空気が流れるようになっていった。

 それのすべてがイシュエルの心を激しく動かすものではなかった。

 見ていないわけではない。
 その瞳にはすべてが映っていたけれど、ただイシュエルの心が動かなかっただけだ。

 ソフィアの行動もどうでも良かった。
 侮るなら侮れば良い、イシュエルの立場を慮った生徒の行動もどうでも良かったし、その後の彼の生家が立ち行かなくなるのもどうでも良かった。だがこれに関してはイシュエルの周りが動いて、彼の生家は何とか無事であった。そんな事を知らないイシュエルに彼が感謝することもイシュエルにはどうでも良かった。

 王宮で長兄と次兄の関係が不穏な空気になってしまっていた事はどうでも良くはなかったが、それをイシュエルが動いてまでどうにかしようとは思わなかった。
 ただカリムトロは、やはりイシュエルを番と意識してはくれないのかといつもと同じように胸が苦しくなるばかりだった。

 そんなふうに流れる様に一年を過ごしたイシュエルは次の学年でも同じだろうと、ただ刻一刻と命の限りを感じ始めるようにもなっていた。
 いつもと同じならばあと3年ほどでイシュエルの命は尽きる。

 抗った2度目、3度目、4度目の人生と違ってイシュエルは今世はすでに生後3ヶ月で何もかもを諦めていた。

 そのまま過ごした16年の月日の中でも、兄以上に胸を焦がすものに出会えなかった。ただ寄るべないイシュエルの思いはやはり前の人生と同じで消えてくれはしなかった。

 そんな時、彼は現れた。

『ラムヒルド・シャル・カイラスク』

 隣国カイラスク王国の王太子でイシュエルの婚約者だ。
 彼の年齢はイシュエルの一つ上で兄の婚約者ソフィアと同い年であった。

 彼とは婚約が決まってから月に一度、手紙で交流を続けていた。

 実は最初に婚約が決まったと父から知らされたときは本当はまだ“仮の婚約者”であって、決定してはいなかったのだ。
 ブレイド王国こちらがカリムトロの立太子を慎重に進めているのと同じ様にカイラスクあちらもラムヒルドとイシュエルの婚約を慎重に吟味していた。

 だからラムヒルドから半年前の手紙で婚約が確定した事を知らされて、イシュエルは常から何にも関心を持たなかったのにその時ばかりは驚きの表情を浮かべて、侍女達から心配と喜びを伝えられた。

 父から教えられていたとおりラムヒルドはこちらに留学してきた。

 本来なら3学年に編入されるはずのラムヒルドはイシュエルと同じ2学年を希望してくれた。

 それをイシュエルが知ったのは新学年になる一週間前だった。
 王家預かりになった彼はリヒトールの宮を滞在先に指名してやってきた。

 それだけでもブレイド王国には軽く激震が走ったのに、何故か指名されていた学園の案内係のソフィアの存在も拒否してイシュエルの学年に編入すると言った。

 ラムヒルドの行動をカイラスク王国からは王太子に任せると言って干渉するものではなく、全てが彼の強い希望だという。

 全てがどうでもいいと過ごしてきたイシュエルの心に1本の杭が打ち込まれた。
 それは諦めきったイシュエルの心に風穴を開けようとするものだった。




あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

嘘の誓いは、あなたの隣で

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。 けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。 噂、沈黙、そして冷たい背中。 そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、 一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。 ――愛を信じたのは、誰だったのか。 カルバンが本当の想いに気づいた時には、 もうミッシェルは別の光のもとにいた。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】ハーレム構成員とその婚約者

里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。 彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。 そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。 異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。 わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。 婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。 なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。 周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。 コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…