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11 杭
学園の1年間は流されるままに過ぎていった。
一つ上にカリムトロの婚約者がいて、彼女の身分は公爵令嬢である。
それなのにソフィアは学園で女王の様に振る舞っていた。
イシュエルに廊下ですれ違う時も堂々とすれ違い軽い会釈でさえもしない。
そしてそれを誰かが咎めても“学園内では平等”などとほざいていた。
自分が他生徒から同じ事をされれば相手の家を執拗に追い詰めるのに。
そんなソフィアの所業は必ず王家に報告されていたにも関わらずカリムトロは動かなかった。
それはソフィアの行いが取るに足らないと思っているからなのか、それとも他に何か理由があるのか、リヒトールには理解できなかった。
その頃からしばしばカリムトロとリヒトールの間に冷たい空気が流れるようになっていった。
それのすべてがイシュエルの心を激しく動かすものではなかった。
見ていないわけではない。
その瞳にはすべてが映っていたけれど、ただイシュエルの心が動かなかっただけだ。
ソフィアの行動もどうでも良かった。
侮るなら侮れば良い、イシュエルの立場を慮った生徒の行動もどうでも良かったし、その後の彼の生家が立ち行かなくなるのもどうでも良かった。だがこれに関してはイシュエルの周りが動いて、彼の生家は何とか無事であった。そんな事を知らないイシュエルに彼が感謝することもイシュエルにはどうでも良かった。
王宮で長兄と次兄の関係が不穏な空気になってしまっていた事はどうでも良くはなかったが、それをイシュエルが動いてまでどうにかしようとは思わなかった。
ただカリムトロは、やはりイシュエルを番と意識してはくれないのかといつもと同じように胸が苦しくなるばかりだった。
そんなふうに流れる様に一年を過ごしたイシュエルは次の学年でも同じだろうと、ただ刻一刻と命の限りを感じ始めるようにもなっていた。
いつもと同じならばあと3年ほどでイシュエルの命は尽きる。
抗った2度目、3度目、4度目の人生と違ってイシュエルは今世はすでに生後3ヶ月で何もかもを諦めていた。
そのまま過ごした16年の月日の中でも、兄以上に胸を焦がすものに出会えなかった。ただ寄るべないイシュエルの思いはやはり前の人生と同じで消えてくれはしなかった。
そんな時、彼は現れた。
『ラムヒルド・シャル・カイラスク』
隣国カイラスク王国の王太子でイシュエルの婚約者だ。
彼の年齢はイシュエルの一つ上で兄の婚約者ソフィアと同い年であった。
彼とは婚約が決まってから月に一度、手紙で交流を続けていた。
実は最初に婚約が決まったと父から知らされたときは本当はまだ“仮の婚約者”であって、決定してはいなかったのだ。
ブレイド王国がカリムトロの立太子を慎重に進めているのと同じ様にカイラスクもラムヒルドとイシュエルの婚約を慎重に吟味していた。
だからラムヒルドから半年前の手紙で婚約が確定した事を知らされて、イシュエルは常から何にも関心を持たなかったのにその時ばかりは驚きの表情を浮かべて、侍女達から心配と喜びを伝えられた。
父から教えられていたとおりラムヒルドはこちらに留学してきた。
本来なら3学年に編入されるはずのラムヒルドはイシュエルと同じ2学年を希望してくれた。
それをイシュエルが知ったのは新学年になる一週間前だった。
王家預かりになった彼はリヒトールの宮を滞在先に指名してやってきた。
それだけでもブレイド王国には軽く激震が走ったのに、何故か指名されていた学園の案内係のソフィアの存在も拒否してイシュエルの学年に編入すると言った。
ラムヒルドの行動をカイラスク王国からは王太子に任せると言って干渉するものではなく、全てが彼の強い希望だという。
全てがどうでもいいと過ごしてきたイシュエルの心に1本の杭が打ち込まれた。
それは諦めきったイシュエルの心に風穴を開けようとするものだった。
一つ上にカリムトロの婚約者がいて、彼女の身分は公爵令嬢である。
それなのにソフィアは学園で女王の様に振る舞っていた。
イシュエルに廊下ですれ違う時も堂々とすれ違い軽い会釈でさえもしない。
そしてそれを誰かが咎めても“学園内では平等”などとほざいていた。
自分が他生徒から同じ事をされれば相手の家を執拗に追い詰めるのに。
そんなソフィアの所業は必ず王家に報告されていたにも関わらずカリムトロは動かなかった。
それはソフィアの行いが取るに足らないと思っているからなのか、それとも他に何か理由があるのか、リヒトールには理解できなかった。
その頃からしばしばカリムトロとリヒトールの間に冷たい空気が流れるようになっていった。
それのすべてがイシュエルの心を激しく動かすものではなかった。
見ていないわけではない。
その瞳にはすべてが映っていたけれど、ただイシュエルの心が動かなかっただけだ。
ソフィアの行動もどうでも良かった。
侮るなら侮れば良い、イシュエルの立場を慮った生徒の行動もどうでも良かったし、その後の彼の生家が立ち行かなくなるのもどうでも良かった。だがこれに関してはイシュエルの周りが動いて、彼の生家は何とか無事であった。そんな事を知らないイシュエルに彼が感謝することもイシュエルにはどうでも良かった。
王宮で長兄と次兄の関係が不穏な空気になってしまっていた事はどうでも良くはなかったが、それをイシュエルが動いてまでどうにかしようとは思わなかった。
ただカリムトロは、やはりイシュエルを番と意識してはくれないのかといつもと同じように胸が苦しくなるばかりだった。
そんなふうに流れる様に一年を過ごしたイシュエルは次の学年でも同じだろうと、ただ刻一刻と命の限りを感じ始めるようにもなっていた。
いつもと同じならばあと3年ほどでイシュエルの命は尽きる。
抗った2度目、3度目、4度目の人生と違ってイシュエルは今世はすでに生後3ヶ月で何もかもを諦めていた。
そのまま過ごした16年の月日の中でも、兄以上に胸を焦がすものに出会えなかった。ただ寄るべないイシュエルの思いはやはり前の人生と同じで消えてくれはしなかった。
そんな時、彼は現れた。
『ラムヒルド・シャル・カイラスク』
隣国カイラスク王国の王太子でイシュエルの婚約者だ。
彼の年齢はイシュエルの一つ上で兄の婚約者ソフィアと同い年であった。
彼とは婚約が決まってから月に一度、手紙で交流を続けていた。
実は最初に婚約が決まったと父から知らされたときは本当はまだ“仮の婚約者”であって、決定してはいなかったのだ。
ブレイド王国がカリムトロの立太子を慎重に進めているのと同じ様にカイラスクもラムヒルドとイシュエルの婚約を慎重に吟味していた。
だからラムヒルドから半年前の手紙で婚約が確定した事を知らされて、イシュエルは常から何にも関心を持たなかったのにその時ばかりは驚きの表情を浮かべて、侍女達から心配と喜びを伝えられた。
父から教えられていたとおりラムヒルドはこちらに留学してきた。
本来なら3学年に編入されるはずのラムヒルドはイシュエルと同じ2学年を希望してくれた。
それをイシュエルが知ったのは新学年になる一週間前だった。
王家預かりになった彼はリヒトールの宮を滞在先に指名してやってきた。
それだけでもブレイド王国には軽く激震が走ったのに、何故か指名されていた学園の案内係のソフィアの存在も拒否してイシュエルの学年に編入すると言った。
ラムヒルドの行動をカイラスク王国からは王太子に任せると言って干渉するものではなく、全てが彼の強い希望だという。
全てがどうでもいいと過ごしてきたイシュエルの心に1本の杭が打ち込まれた。
それは諦めきったイシュエルの心に風穴を開けようとするものだった。
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