最後の人生は⋯。

maruko

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12 到着

 その日、イシュエルは庭園の花を眺めて呼ばれるのを待っていた。
 
 かつてその庭園はカリムトロとイシュエルの為に作られた庭園だった。
 幼い王子と王女のためにと庭師が可愛らしい花を選んで、花が一年中絶える事のないように長く咲く花達が並んでいた。

 その庭園がいつの間にかソフィアの好きな花で埋め尽くされるようになったのはいつからだっただろうか?

 もうその頃にはイシュエルの瞳にこの庭園の花達を映すことは殆どなくなっていた。
 久しぶりに見る花達にイシュエルは感動を覚えなかった。
 花に罪がないことは分かっている。それでも愛でてあげようなどとは思わない。
 もうここはイシュエルの憩える場所ではなくなっているのだから。
 寂しいという感覚もイシュエルには湧かなかった。
 王妃の庭にも負けじと大輪の薔薇が懸命に咲いている。
 思わず「お気の毒に」と言葉を発してしまい、リノが後ろで息をのむのが気配で分かった。

「姫様、ご到着されました」

「⋯⋯そう」

「あっ、ですが。姫様は宮でお待ちくださいとの事です」

「⋯⋯」

 キャロルが伝達して王宮の方へ向かおうと1歩前に進んだイシュエルだったが、行く必要がなくなってしまった。どういうつもりで王太子が宮で待つように言ったかわからなかったが、大人数のいる場に行く必要がないならイシュエルにとっては僥倖であった。
 そのまま自分の宮へと帰った。


 ◇◇◇


 王太子ラムヒルドが案内されてブレイド国王に謁見したのは、高い玉座のある謁見の間ではなかった。
 国王のプライベートの応接室の方でその場にいたのは数人の重鎮と王妃と王子二人だけだった。
 事前にイシュエルは呼ばないで欲しいとのカイラスク側の要望はしっかり通っていて、部屋に入る時ラムヒルドはご満悦であった。

「よくお越しくださった。長旅でお疲れであろう」

「ブレイド国王、お久しぶりです。お気遣い痛み入ります、カイラスク王国王太子ラムヒルドだ」

 ラムヒルドは、はじめに国王に挨拶をしてその場の皆を見回して名乗った。
 堂々とした王太子の姿に威圧を感じた面々は、そのオーラに怯んだ。
 その後ブレイド国王がそれぞれの紹介をラムヒルドにすると、彼は一人一人に「よろしく」とだけ挨拶をした。
 紹介が終わると国王はラムヒルドに尋ねた。

「我が国の第一王女イシュエルは、ご要望どおり宮で待たせておりますが⋯何故でしょうか?」

 事前にラムヒルドからの要望で謁見の際の紹介は女人は王妃のみと言われていた。通常ならばこの場にはイシュエルとソフィア、マリエンナも呼ぶのが慣例であった。
 それをラムヒルドが拒否したのだった。

「私は今から愛しの婚約者殿に、甘く請わなければならないのに親がいるのは気まずいでしょう」

 ブレイド国王の前でラムヒルドは怯むこともなく飄々とそう言ってのけた。

「では、リヒトール殿。私の婚約者殿に会わせていただけますか?」

 ラムヒルドは立ち上がり唖然とする皆のことなどお構いなしに、案内を第一王子カリムトロではなく第二王子リヒトールを指名した。

 部屋を出るラムヒルドに、カリムトロは悔しさから拳を握って睨みつけたのだが、その時に目が合った。ラムヒルドは初対面にもかかわらずカリムトロを射殺しそうに一瞥した。
 そこに憎しみを感じたカリムトロは、自身も睨みつけたのも忘れ呆然とした。

 (私は睨まれるほど彼に恨まれているのだろうか?)

 カリムトロには過去の禍根しか原因が思い至らない。だがカリムトロにとってあの件は、自分の預かり知らぬところで起こったものだし、自分は被害者でもある。

 今回のラムヒルドの留学に至っては悉くカリムトロは蚊帳の外に置かれている。全てカイラスク側の要望だった。

 それだけでもカリムトロは苦々しく思っていた。それでもラムヒルド本人と友情を育む事ができればと彼の到着を心待ちにしていたのに。

カリムトロは納得がいかなかった。




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