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25 復讐②
『ソフィア様に見られていたみたい、応援してくださるって言ってもらえた嬉しい』
娘の日記は、いつもこまめに日常を綴っていた。その日記を涙にくれながら読み進めたニコロディオの目に、その下りが飛び込んできた。
日々の綴に頻繁に出てきていたのは、カッツェ・ルドアという子爵家の男性の名だった。
どうやらニコロディオの娘リナリーは彼に恋をしていたようだった。
今日はすれ違った。
今日は目があった。
今日は⋯⋯。
日常の他愛もない恋心が書かれていて、微笑ましくも思うが今読めば胸が詰まる。
いくつかデートを重ねた事が書かれていた、そのあとにその頁を見つけた。
ソフィア・ラゼオート公爵令嬢。
その名はニコロディオはよく知っている。
ニコロディオの父に男爵位を与え、代官として領地の一部を任せてくれている主家の娘だ。
誰よりも敬うべき相手で、リナリーが学園入学前には、一番の注意事項として、粗相のなきようにと口を酸っぱくして言い聞かせた相手だった。
ニコロディオの任せられた男爵領は、学園に通うには遠い為、リナリーは寮に入れた。
タウンハウスもなく、纏まった休みの時しか帰ってこれない娘が心配で、入学前に話した注意事項は10項目にも及んだ。
何よりも身分を重んじるようにと言う父に、リナリーは何度も頷いて「分かった」と素直に受け入れるとても聞き分けの良い娘だった。
その娘が亡き後、その日記のその行がとても重要な物に思えた。
それが書かれた数日は、何事もなく代わり映えのない日常だったようだ。
『カッツェがソフィア様のお気に入りだったなんて知らなかった』
『どうしてそんな事を要求するの?』
『家族は関係ない!』
『酷い、それはカッツェに死ねと言ってるようなものじゃない』
どんどん切実になっていくリナリーの日記。
そして安堵した言葉とともに不安な心も書かれていて、それが最後となっていた。
『明日、カッツェと自首をする。大丈夫と、ソフィア様が助けると言ったけど、信じていいのかしら?それはおそらく嘘だと思うし。でももういい、もう疲れた。あの方がいずれ王妃になるのならば、私達には幸せなんて来ない。だったらもういいかな、カッツェもそう言っていたし。ここで終われるならそれが幸せかもしれない。彼女の奴隷になるのなら、家族のためにもここで諦めよう。
私は今からカッツェに全てを捧げに行くわ。きっとそれが最後の幸せかも。お父様やお母様、兄弟に最後に一目会いたかったなぁ』
体が震えて日記を持つ手が震えた。
ニコロディオも会いたかった、リナリーすまない。
お前の命と家族の命を天秤にかけるなんてとんでもない事をした。
後悔しか湧き出てこないニコロディオの胸の内を思って妻が寄り添う。
妻もまた娘を守れなかったと一緒に泣いた。
二人の慟哭はいつまでも続いた。
日記の内容を纏めると、リナリーとカッツェは学園で知り合い恋人になった。
だが、見目の良いカッツェにどうやら随分前からソフィアが自分に侍るようにと命じていたが、学業を理由にカッツェは断っていたらしい。それをリナリーは知らなかった。
はじめはただの嫌がらせだった、それが虐めに変わり始める。
そして徐々にエスカレートしていき、言うことを聞かなければ、公爵に言ってニコロディオの男爵位を返上させると言い出した。
マリエンナの拉致と脅迫も元はソフィアの命じたものだった。
内容は、リナリーに破落戸を雇わせて、マリエンナを学園で攫った後、彼女を穢して道端に放置しろというものだった。
命じられた時の心情は、身分の事をニコロディオに言われていたのに、そんな高貴な方を穢すなんて自分には無理だと書いている。
そして、カッツェがリナリー一人にそんな事はさせられないとソフィアに内緒で、それを実行した。
マリエンナに手を出すことはとんでもない。
だが穏便に済ませられてしまうと、それ以上をさせられるか、他の確実にできる者にソフィアが命じるかもしれない。
だから、脅迫した。
“学園に来るな”
それが二人の精一杯だった。
畏れ多くてそれ以上はリナリーには言えなかった。
少しでも恐怖を与えたのだから、罰を与えられるのは当たり前だ。
だが家族が逃げる時間を稼がなければならない。
だからソフィアの事は自供しない。
カッツェの家族やニコロディオ達への謝罪が何頁にも及んでいた。
リナリーが、日記に書くことで何とか勇気を振り絞っているのが分かる。
「リナリー、怖かっただろう」
娘を思うとニコロディオは許せない気持ちが湧き上がる。
だが、復讐なんて今の自分にできるのか?
なんにも力を持たない自分だから、娘は犠牲になったのに。
すると日記を持ってきたその人が言った。
「怒りは長くは続かないんですよ、大事なものが多ければ多いほどね。だから私が手を貸しましょう、命なんて奪わずとも同じ恐怖は味合わせる事はできますよ。逆に命を奪うなんて一瞬の苦しみでしかない、それにその手を血で汚してしまったら、娘さんも浮かばれませんよ。どうですか?やってみませんか?」
ニコロディオは少し考えて男の提案に乗った。
目の前には両手足を後ろ手に縛られたソフィアがいる。
声を振り絞ってニコロディオはソフィアに告げた。
「俺はお前の命なんか奪わない、お前の血でこの手を染めるわけにはいかない。そんな事をしたら、俺達を守ろうとしたリナリーやカッツェ殿に申し訳が立たない。このままお前を放置する。この場所は一年に何回か調査に来る者がいるから運が良ければ助かるよ。いつになるかは分からないけどな」
そう言ってニコロディオはその場所をあとにした。
彼女が助かればニコロディオは直ぐに手配されてしまう。
それまでに逃げなければならない。
ニコロディオが捕まって死罪になればリナリーの命が無駄になる。
あの人が逃げ場所を提示してくれた。
カッツェの兄とともに、ニコロディオは家族を先に逃したカイラスク王国に向かった。
娘の日記は、いつもこまめに日常を綴っていた。その日記を涙にくれながら読み進めたニコロディオの目に、その下りが飛び込んできた。
日々の綴に頻繁に出てきていたのは、カッツェ・ルドアという子爵家の男性の名だった。
どうやらニコロディオの娘リナリーは彼に恋をしていたようだった。
今日はすれ違った。
今日は目があった。
今日は⋯⋯。
日常の他愛もない恋心が書かれていて、微笑ましくも思うが今読めば胸が詰まる。
いくつかデートを重ねた事が書かれていた、そのあとにその頁を見つけた。
ソフィア・ラゼオート公爵令嬢。
その名はニコロディオはよく知っている。
ニコロディオの父に男爵位を与え、代官として領地の一部を任せてくれている主家の娘だ。
誰よりも敬うべき相手で、リナリーが学園入学前には、一番の注意事項として、粗相のなきようにと口を酸っぱくして言い聞かせた相手だった。
ニコロディオの任せられた男爵領は、学園に通うには遠い為、リナリーは寮に入れた。
タウンハウスもなく、纏まった休みの時しか帰ってこれない娘が心配で、入学前に話した注意事項は10項目にも及んだ。
何よりも身分を重んじるようにと言う父に、リナリーは何度も頷いて「分かった」と素直に受け入れるとても聞き分けの良い娘だった。
その娘が亡き後、その日記のその行がとても重要な物に思えた。
それが書かれた数日は、何事もなく代わり映えのない日常だったようだ。
『カッツェがソフィア様のお気に入りだったなんて知らなかった』
『どうしてそんな事を要求するの?』
『家族は関係ない!』
『酷い、それはカッツェに死ねと言ってるようなものじゃない』
どんどん切実になっていくリナリーの日記。
そして安堵した言葉とともに不安な心も書かれていて、それが最後となっていた。
『明日、カッツェと自首をする。大丈夫と、ソフィア様が助けると言ったけど、信じていいのかしら?それはおそらく嘘だと思うし。でももういい、もう疲れた。あの方がいずれ王妃になるのならば、私達には幸せなんて来ない。だったらもういいかな、カッツェもそう言っていたし。ここで終われるならそれが幸せかもしれない。彼女の奴隷になるのなら、家族のためにもここで諦めよう。
私は今からカッツェに全てを捧げに行くわ。きっとそれが最後の幸せかも。お父様やお母様、兄弟に最後に一目会いたかったなぁ』
体が震えて日記を持つ手が震えた。
ニコロディオも会いたかった、リナリーすまない。
お前の命と家族の命を天秤にかけるなんてとんでもない事をした。
後悔しか湧き出てこないニコロディオの胸の内を思って妻が寄り添う。
妻もまた娘を守れなかったと一緒に泣いた。
二人の慟哭はいつまでも続いた。
日記の内容を纏めると、リナリーとカッツェは学園で知り合い恋人になった。
だが、見目の良いカッツェにどうやら随分前からソフィアが自分に侍るようにと命じていたが、学業を理由にカッツェは断っていたらしい。それをリナリーは知らなかった。
はじめはただの嫌がらせだった、それが虐めに変わり始める。
そして徐々にエスカレートしていき、言うことを聞かなければ、公爵に言ってニコロディオの男爵位を返上させると言い出した。
マリエンナの拉致と脅迫も元はソフィアの命じたものだった。
内容は、リナリーに破落戸を雇わせて、マリエンナを学園で攫った後、彼女を穢して道端に放置しろというものだった。
命じられた時の心情は、身分の事をニコロディオに言われていたのに、そんな高貴な方を穢すなんて自分には無理だと書いている。
そして、カッツェがリナリー一人にそんな事はさせられないとソフィアに内緒で、それを実行した。
マリエンナに手を出すことはとんでもない。
だが穏便に済ませられてしまうと、それ以上をさせられるか、他の確実にできる者にソフィアが命じるかもしれない。
だから、脅迫した。
“学園に来るな”
それが二人の精一杯だった。
畏れ多くてそれ以上はリナリーには言えなかった。
少しでも恐怖を与えたのだから、罰を与えられるのは当たり前だ。
だが家族が逃げる時間を稼がなければならない。
だからソフィアの事は自供しない。
カッツェの家族やニコロディオ達への謝罪が何頁にも及んでいた。
リナリーが、日記に書くことで何とか勇気を振り絞っているのが分かる。
「リナリー、怖かっただろう」
娘を思うとニコロディオは許せない気持ちが湧き上がる。
だが、復讐なんて今の自分にできるのか?
なんにも力を持たない自分だから、娘は犠牲になったのに。
すると日記を持ってきたその人が言った。
「怒りは長くは続かないんですよ、大事なものが多ければ多いほどね。だから私が手を貸しましょう、命なんて奪わずとも同じ恐怖は味合わせる事はできますよ。逆に命を奪うなんて一瞬の苦しみでしかない、それにその手を血で汚してしまったら、娘さんも浮かばれませんよ。どうですか?やってみませんか?」
ニコロディオは少し考えて男の提案に乗った。
目の前には両手足を後ろ手に縛られたソフィアがいる。
声を振り絞ってニコロディオはソフィアに告げた。
「俺はお前の命なんか奪わない、お前の血でこの手を染めるわけにはいかない。そんな事をしたら、俺達を守ろうとしたリナリーやカッツェ殿に申し訳が立たない。このままお前を放置する。この場所は一年に何回か調査に来る者がいるから運が良ければ助かるよ。いつになるかは分からないけどな」
そう言ってニコロディオはその場所をあとにした。
彼女が助かればニコロディオは直ぐに手配されてしまう。
それまでに逃げなければならない。
ニコロディオが捕まって死罪になればリナリーの命が無駄になる。
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