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26 暗躍
「分かった」
リヒトールの宮の一室。
豪奢なその部屋はとても客室とは思えない家具が並んでいる。
部屋のバルコニーからの秘めた声に、ラムヒルドは、この部屋へ唯一持ち込んだ自身のロッキングチェアーを揺らしながら返事をした。
マリエンナを、拉致脅迫した犯人の家族の行方は簡単に見つかった。調べれば痕跡を残す出立と移動の仕方に、ソフィア側の口封じを懸念したラムヒルドは、自国の影に命じその身を自身の庇護下に置くことにした。
今の報告はニコロディオとアイゼンが、無事にカイラスク王国に到着して、家族と再会したとの報告だった。
アイゼンはカッツェの兄で、今回のソフィアの拉致は二人で行っていた。
「オッドウェイ、ありがとう」
コンコン
返事の代わりにバルコニーの窓が鳴った。
そしてその気配が消えるとラムヒルドは大きく息を吐いた。
ラムヒルドの従者オッドウェイは、彼の影である。面影がどことなく似ているのは、血縁を思わせるが、彼の身分は元は伯爵家でその辺の事情は詮索無用と、ラムヒルドは父である国王に釘を刺された。
常日頃、彼の姿は侍ることはない。
だが、ラムヒルドが必要とするこういう時には
彼の方から近寄ってくる。
オッドウェイはラムヒルドの影の手足なのだ。
それにしても、ソフィアの思いつきや感情だけの、行きあたりばったりな行動を、見事に後始末できるラゼオート家に、ラムヒルドは昔の俊敏さを感じた。
ラゼオート家の祖先は前世のカリムトロだ。
当然妹のイシュエルにもその記憶はあるだろう。
「因果だな」
かつてラゼオート家の爵位が子爵だった頃、二人はその家に生まれている。
あの時もラムヒルドの前世はイシュエルの婚約者だった。
あの時の名前は、イシュエルがサフィアでラムヒルドがデロリスだった。
カリムトロは何だったかな?
咄嗟に出てこなくて記憶を辿る。
サム?サム⋯何だったか。
ずっとサムと愛称で呼んでいたので、名が出てこなくなった。
顎を掌で支えながら考える⋯それでもやはり出てこなかった。
サムの婚約者が馬車に轢かれそうになったのが最初だった。それを庇ってサムが前に出たのだが、サフィアがその二人を突き飛ばし馬車に轢かれた。
血塗れのサフィアを抱いて名を呼んだ時、前世の記憶が流れ込んできた。
あの恐怖がラムヒルドは忘れられない。
それまでもラムヒルドことデロリスはサフィアを愛していた。
ただ婚約者というだけではなく政略でもデロリスは確かに愛していたのだ。
その彼女が目の前で事切れるのを見つめることしかできない、自分の嘆きだけではなく、同じことが何度となく前世でもあった事に、驚愕と恐れと怒りとそして不甲斐ない自分を嘆く。
「またみすみす死なせてしまった」
何度も思う時は“つがい”はすでに亡くなった後
その絶望をラムヒルドはいつも抱える事になる。
「今世のソフィアが何もしなければ、見逃してやるつもりだったのにな。運が良ければ助かるだろう」
ラムヒルドは椅子から立ち上がり、窓から外の暗闇を眺めた。
リヒトールの宮の一室。
豪奢なその部屋はとても客室とは思えない家具が並んでいる。
部屋のバルコニーからの秘めた声に、ラムヒルドは、この部屋へ唯一持ち込んだ自身のロッキングチェアーを揺らしながら返事をした。
マリエンナを、拉致脅迫した犯人の家族の行方は簡単に見つかった。調べれば痕跡を残す出立と移動の仕方に、ソフィア側の口封じを懸念したラムヒルドは、自国の影に命じその身を自身の庇護下に置くことにした。
今の報告はニコロディオとアイゼンが、無事にカイラスク王国に到着して、家族と再会したとの報告だった。
アイゼンはカッツェの兄で、今回のソフィアの拉致は二人で行っていた。
「オッドウェイ、ありがとう」
コンコン
返事の代わりにバルコニーの窓が鳴った。
そしてその気配が消えるとラムヒルドは大きく息を吐いた。
ラムヒルドの従者オッドウェイは、彼の影である。面影がどことなく似ているのは、血縁を思わせるが、彼の身分は元は伯爵家でその辺の事情は詮索無用と、ラムヒルドは父である国王に釘を刺された。
常日頃、彼の姿は侍ることはない。
だが、ラムヒルドが必要とするこういう時には
彼の方から近寄ってくる。
オッドウェイはラムヒルドの影の手足なのだ。
それにしても、ソフィアの思いつきや感情だけの、行きあたりばったりな行動を、見事に後始末できるラゼオート家に、ラムヒルドは昔の俊敏さを感じた。
ラゼオート家の祖先は前世のカリムトロだ。
当然妹のイシュエルにもその記憶はあるだろう。
「因果だな」
かつてラゼオート家の爵位が子爵だった頃、二人はその家に生まれている。
あの時もラムヒルドの前世はイシュエルの婚約者だった。
あの時の名前は、イシュエルがサフィアでラムヒルドがデロリスだった。
カリムトロは何だったかな?
咄嗟に出てこなくて記憶を辿る。
サム?サム⋯何だったか。
ずっとサムと愛称で呼んでいたので、名が出てこなくなった。
顎を掌で支えながら考える⋯それでもやはり出てこなかった。
サムの婚約者が馬車に轢かれそうになったのが最初だった。それを庇ってサムが前に出たのだが、サフィアがその二人を突き飛ばし馬車に轢かれた。
血塗れのサフィアを抱いて名を呼んだ時、前世の記憶が流れ込んできた。
あの恐怖がラムヒルドは忘れられない。
それまでもラムヒルドことデロリスはサフィアを愛していた。
ただ婚約者というだけではなく政略でもデロリスは確かに愛していたのだ。
その彼女が目の前で事切れるのを見つめることしかできない、自分の嘆きだけではなく、同じことが何度となく前世でもあった事に、驚愕と恐れと怒りとそして不甲斐ない自分を嘆く。
「またみすみす死なせてしまった」
何度も思う時は“つがい”はすでに亡くなった後
その絶望をラムヒルドはいつも抱える事になる。
「今世のソフィアが何もしなければ、見逃してやるつもりだったのにな。運が良ければ助かるだろう」
ラムヒルドは椅子から立ち上がり、窓から外の暗闇を眺めた。
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