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明るい話題ではなかったが、久しぶりに話すことができたアレクサンドルとの会話はオリビアには心地よいものだった。
オリビアが婚約した事で、アレクサンドルはこのリーテンベルク侯爵家に来ることはなくなった。
王宮で行われる夜会では見かけたことはあっても、王子に対する挨拶のみで親しく言葉など交わせていない。
かと言ってそれは、少しだけ寂しいという気持ちは持てても、心が焦れるものでもなかった。
「兄様ごめんなさい。お待ちいただける?」
夫が来た。
それで一担アレクサンドルにはお帰りいただくのが筋だった。
相手は王族だから待たすなど有り得ない。
でもオリビアはこのままアレクサンドルとは別れ難かった。
まだ話していたかった。
「いいよ、行っておいで」
右手をサロンの入り口に向けてアレクサンドルはオリビアを促した。
それに安堵しながら立ち上がり、リバーに案内するようにと言うつもりで彼に目を向けた。
「オリビア様、マリウス様は一人ではございません」
「⋯⋯⋯まさか、連れてきてるの?子供も?」
リバーの目は怒りに満ちていた。
それをオリビアには見せないように気を使ってるつもりだろうが、目が充血して血走って見えるのだから大失敗だ。
まだまだニコルにはほど遠い。
「どこに?」
「まだエントランスで」
そう、という言葉は発せなかった。
オリビアはリバーを伴い急いでエントランスへと向かった。マリウスは愛人と子供を連れてきたらしいが、中に入れたくはない。
彼等が押し入る前に、とオリビアの足は自然と早足になっていた。
エントランスではマリウスが、リーテンベルク家の門を守る騎士数人と揉めていた。
どうやら、自分がまだこの家の者だと思っているらしい。
あれほどマリウスが厚顔だと、オリビアは思っていなかった。
「オリビア!」
エントランスへと向かう廊下の途中で、マリウスがオリビアに気付いたらしく、大きく声をかけてきた。
歩きながら上目で見た久しぶりの夫は、姿は全く変わっていないのに、オリビアにはすえた匂いを纏うように感じた。
「お久しぶりですね、マリウス」
「これはどういう事だ!私が戻ったのに、なぜ中に入れないんだ!」
「戻った?先触れなしで勝手に来た、の間違いでは?」
「なっ!オリビア、君は⋯⋯」
その先は赤子の泣き声で消されてオリビアには聞こえなかった。
彼はまだ自分がオリビアの夫として、この家に迎えられると信じている事にオリビアは驚いた。
マリウスの後ろにいた赤子を抱く女は、これみよがしに赤子をあやす様子をオリビアに見せつけていた。
「貴方、その後ろの方々外に出して」
騎士の一人に扇子で女を指し示して伝えた。
「オリビア、話し合おうと思ってるんだ。サミル達のことも。だから連れてきたんだ」
「何を話し合うのですか?貴方がサインすれば終わる事です。カセラ伯爵家との話は終わりました」
オリビアの取り付くしまのない様子にマリウスは呆然としていた。
彼はここに来るまでオリビアはこの事態を許すとそう信じていた。
彼が話し合おうと思ったのは、サミルを認めてもらうことと、子供をオリビアに育ててもらう事を話し合う為だった。
マリウスを愛しているオリビアが、彼を切り捨てるなど思ってもいなかった。
「あなた、マリウスを愛してるんじゃないの!」
追い出そうにも赤子を抱いていては、無理に引きずるわけにもいかず、手を拱いていた騎士たちをすり抜ける様に、マリウスの愛人サミルがオリビアに向かって叫んだ。腕に抱く赤子が驚いて泣いてもお構いなしのその様子にオリビアは呆れる。
いつまでも出ていかないサミルにうんざりしたオリビアは、マリウスごと追い出すことに決めた。
「全員追い出して」
「待ってくれオリビア」
「話したいと思うなら連れてくるべきではなかったわ、あなた何がしたいの?」
オリビアの冷たい言葉にマリウスはようやく自分がした事が、取り返しのつかない事だと気付いた。
そして二人を連れて項垂れながら出て行った。
マリウスの出ていく姿を見つめながら、オリビアは心の中では叫んでいた。
『私だってちゃんと話したかった!どうしてその人を連れてきたの?私達の話し合いに何故その人が必要なの?どうして私の気持ちを考えないの?必要ないの?私はあなたにとってそんなに軽いものだったの?!』
声に出さずに叫ぶオリビアは、追い出したあとの扉が閉まる音と同時にその場で崩れ落ちた。
それを支えるように背中から抱き起こしてくれたのは、心配して様子を見る為に後を追って来たアレクサンドルだった。
背中に感じるアレクサンドルの匂いは、以前と変わらないシトラスの香りだった。
慣れ親しんだマリウスの匂いがもうオリビアには思い出せない、思い出せるのは先程マリウスから感じたすえた匂いだけだった。
オリビアが婚約した事で、アレクサンドルはこのリーテンベルク侯爵家に来ることはなくなった。
王宮で行われる夜会では見かけたことはあっても、王子に対する挨拶のみで親しく言葉など交わせていない。
かと言ってそれは、少しだけ寂しいという気持ちは持てても、心が焦れるものでもなかった。
「兄様ごめんなさい。お待ちいただける?」
夫が来た。
それで一担アレクサンドルにはお帰りいただくのが筋だった。
相手は王族だから待たすなど有り得ない。
でもオリビアはこのままアレクサンドルとは別れ難かった。
まだ話していたかった。
「いいよ、行っておいで」
右手をサロンの入り口に向けてアレクサンドルはオリビアを促した。
それに安堵しながら立ち上がり、リバーに案内するようにと言うつもりで彼に目を向けた。
「オリビア様、マリウス様は一人ではございません」
「⋯⋯⋯まさか、連れてきてるの?子供も?」
リバーの目は怒りに満ちていた。
それをオリビアには見せないように気を使ってるつもりだろうが、目が充血して血走って見えるのだから大失敗だ。
まだまだニコルにはほど遠い。
「どこに?」
「まだエントランスで」
そう、という言葉は発せなかった。
オリビアはリバーを伴い急いでエントランスへと向かった。マリウスは愛人と子供を連れてきたらしいが、中に入れたくはない。
彼等が押し入る前に、とオリビアの足は自然と早足になっていた。
エントランスではマリウスが、リーテンベルク家の門を守る騎士数人と揉めていた。
どうやら、自分がまだこの家の者だと思っているらしい。
あれほどマリウスが厚顔だと、オリビアは思っていなかった。
「オリビア!」
エントランスへと向かう廊下の途中で、マリウスがオリビアに気付いたらしく、大きく声をかけてきた。
歩きながら上目で見た久しぶりの夫は、姿は全く変わっていないのに、オリビアにはすえた匂いを纏うように感じた。
「お久しぶりですね、マリウス」
「これはどういう事だ!私が戻ったのに、なぜ中に入れないんだ!」
「戻った?先触れなしで勝手に来た、の間違いでは?」
「なっ!オリビア、君は⋯⋯」
その先は赤子の泣き声で消されてオリビアには聞こえなかった。
彼はまだ自分がオリビアの夫として、この家に迎えられると信じている事にオリビアは驚いた。
マリウスの後ろにいた赤子を抱く女は、これみよがしに赤子をあやす様子をオリビアに見せつけていた。
「貴方、その後ろの方々外に出して」
騎士の一人に扇子で女を指し示して伝えた。
「オリビア、話し合おうと思ってるんだ。サミル達のことも。だから連れてきたんだ」
「何を話し合うのですか?貴方がサインすれば終わる事です。カセラ伯爵家との話は終わりました」
オリビアの取り付くしまのない様子にマリウスは呆然としていた。
彼はここに来るまでオリビアはこの事態を許すとそう信じていた。
彼が話し合おうと思ったのは、サミルを認めてもらうことと、子供をオリビアに育ててもらう事を話し合う為だった。
マリウスを愛しているオリビアが、彼を切り捨てるなど思ってもいなかった。
「あなた、マリウスを愛してるんじゃないの!」
追い出そうにも赤子を抱いていては、無理に引きずるわけにもいかず、手を拱いていた騎士たちをすり抜ける様に、マリウスの愛人サミルがオリビアに向かって叫んだ。腕に抱く赤子が驚いて泣いてもお構いなしのその様子にオリビアは呆れる。
いつまでも出ていかないサミルにうんざりしたオリビアは、マリウスごと追い出すことに決めた。
「全員追い出して」
「待ってくれオリビア」
「話したいと思うなら連れてくるべきではなかったわ、あなた何がしたいの?」
オリビアの冷たい言葉にマリウスはようやく自分がした事が、取り返しのつかない事だと気付いた。
そして二人を連れて項垂れながら出て行った。
マリウスの出ていく姿を見つめながら、オリビアは心の中では叫んでいた。
『私だってちゃんと話したかった!どうしてその人を連れてきたの?私達の話し合いに何故その人が必要なの?どうして私の気持ちを考えないの?必要ないの?私はあなたにとってそんなに軽いものだったの?!』
声に出さずに叫ぶオリビアは、追い出したあとの扉が閉まる音と同時にその場で崩れ落ちた。
それを支えるように背中から抱き起こしてくれたのは、心配して様子を見る為に後を追って来たアレクサンドルだった。
背中に感じるアレクサンドルの匂いは、以前と変わらないシトラスの香りだった。
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