あなたならどうなさいますか?

maruko

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 マリウスとの離婚は瞬く間に広がった。
 そうなるだろうと予想していた以上に早く、それは本当に異常だった。

 広まる最初の噂は離婚の理由がオリビアの“石女”だったというものだ。
 他の噂ではいつの間にかマリウスとサミルは随分前からの恋人同士だったらしく、そこにオリビアが強引に横槍を入れたのだと聞かされた。

 王国の議会に出席を許されているリーテンベルク侯爵家だから、女侯爵のオリビアは噂の渦中にあっても引き籠もる事が出来ずにいた。
 この状態でお茶会に出席などしたら、根掘り葉掘り聞かれるか、扇で口元を隠した者達に密やかに遠巻きにされるかだ。
 だが分かっていても全てを欠席は出来ない。

 見兼ねたリーシャが茶会の同席を申し出てくれたが、いつまでも母に甘えるわけにはいかないし、オリビアの立場がそれを許さなかった。

 あのあとマリウスは沈痛な面持ちで、カセラ伯爵と二人でリーテンベルク家へとやってきた。
 何度も離婚を留まるように説得を試みるマリウスを見るたびに、オリビアの心は疲弊していった。
 やらかした本人の説得がこの世で一番無駄なものだと知り、今後の自身の戒めにしようとも思えた。

 彼の言い分の一部はオリビアにも理解はできた。だけど納得は出来なかった。

 きっかけはオリビアの親戚縁者かもしれない。
 でも実際に裏切りがありそして子ども結果がある。
 彼は従者に口止めもし忘れていなかった。
 朝の散歩などと小賢しい言い訳を作り毎日サミル恋人に会いに行っていた。
 それだけ冷静に事を進められていたのだから、もはやきっかけなどオリビアには関係ないと思えた。

「オリビア、リュシールを二人で育てていこう」

 マリウスの言葉はオリビアの尊厳を踏み躙る物だった。
 最も愛した彼こそがオリビアを“石女”と決めつけていた。

 だから離婚に納得しない者の説得など諦め、半ばカセラ伯爵を脅すように促しに無理やりサインをさせた。



 社交界の噂は毎日のように更新される。
 一ヶ月前にあちらこちらで囁かれていた噂が、今は全く話題に上らない事などしょっちゅうあるのに、離婚して二ヶ月経ってもオリビアの噂は消えなかった。
 母やアレクサンドル、王太子妃までが乗り出しても消えるどころか新たな噂で更新されていった。

 今の噂はオリビアが二人の仲を引き裂くために、身重だったサミルを突き飛ばし流産させようとしたが、マリウスとサミル二人はそれを乗り越え、サミルは無事出産できたというものだった。一つの尊い命が、悋気を起こした石女に奪われなくて良かったなどと、聞えよがしな声がどこからともなくオリビアの耳に入った。

 最近のオリビアは殆ど寝付くことができず、議会でも議題に集中できないでいた。

 誰がオリビアを追い詰めているのか全く分からない状況で、その日も茶会に出席しなければならなかった。

 体も心も擦り減って、それでも毅然とそこに座るオリビアにもちゃんと味方は居てくれる。

 その茶会は同格の侯爵家のお茶会だった。
 案内されたのは主催者よりも少し離された席で、それすらも屈辱的ではあったが、同じ席に座る面々は夫人ではなく令嬢達ばかりだった事に主催者側の悪意を感じた。

 オリビアよりも若い令嬢達は好奇心という名の悪意で、オリビアに明け透けに口撃質問してくる。年若い令嬢達の粗相になど、ある程度は目を瞑るのも年長者としての度量の深さなどと、オリビアが席に着く前に他の席の夫人が大きく聞えよがしに言っていた。
 最近はそんな事も慣れていて戯言と一蹴する事もあったが、その日はいつもにも増して体調が悪かったから、オリビアは無言で席に着いた。
 その日だけではなくこの一週間ほど、寝不足による頭痛だけではなく、たまに腹部に痛みが走る事があった。

 横に座る令嬢からマリウスとの出会いを聞かれる。あんまりな質問に釘を刺そうと、曖昧な笑顔で彼女の方へと視線を向けた時、向かい側に座る令嬢が声を荒げてオリビアに質問した令嬢に食ってかかった。

 その声で視線を向かいの彼女に移動した時、オリビアの視界が不意にぐにゃりと捩れた。その時腹部にジクリと何かがせり上がる様な感覚をオリビアは感じた。
(寝不足が祟ったのかも)目の前が暗くなり意識を手放す寸前にも関わらず、不思議とそんな事を思える余裕がオリビアにはあった。

ゆっくりとオリビアの体は斜めに傾げ、テーブルクロスごと茶器や菓子を無惨にバラ撒きながら床に倒れていった。






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