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「こで、あげりゅ~」
小さな男の子が、クタクタになった小さな花をオリビアの手に乗せた。
「ありがとう」
オリビアが受け取ると男の子がニカッと笑顔を彼女に向けた。その時オリビアの胸に熱いものが込み上げた。彼女は、広い野原にシートを敷いてアレクサンドルと二人で座っていた。
(元気がないわね)
オリビアはそう思って、水筒に入っていた水を手のひらの上でその花にかけた。
その時、風が吹いたのをオリビアは肌で感じた。
(アレッ?私、どうして?)
マリウスに裏切られ、やっと授かった子は天に召された。
そこまではちゃんと覚えている。
否、それ以降も日々の出来事は覚えているけれど、オリビアの頭の中では何の感情も起きず、ただ全てがすり抜けていく感覚だった。
だから今日も、今日も、今日は?
そこでオリビアは確かめるように隣のアレクサンドルを見た。
下を向いて自分の掌に水をかけていたオリビアの様子を、見守っていたアレクサンドルは、突然彼女が顔を上げた事に驚いた。
アレクサンドルの驚きは、オリビアが顔を上げたことではなかった、暗く混沌としていたオリビアの瞳に光が見える。
いつもの虚ろな瞳ではなく、そこに光が映っているように感じる。
「オリビア?」
「⋯⋯⋯私、兄様と。旅行?」
そう言って再び目を伏せたオリビアだったが、直ぐに顔を上げてアレクサンドルを見つめた。
「兄様、ありがとう」
「オリビア!分かるか?私が分かるのか?」
その途端オリビアが涙を流して何度も頷く。
彼女の瞳にやっと涙が戻った。
その顔を見て、アレクサンドルはオリビアを抱きしめた。
アレクサンドルの従者とアンヌは、この日訪れた孤児院の子達と野原で遊んでいた。
だがお互い主の姿は、目の端にちゃんと捉えるようにはしていた。
抱き合う二人を見て、こちらの二人も一斉に走り出した。
一度オリビアを抱きしめてしまったアレクサンドルが、ずっと我慢していたのは二人とも知っていた。
それを解禁しているのだ。
何かあったに違いないと動かす足にも気合が入った。
「オリビア様」
「アレク様」
アンヌと従者がそれぞれの主人を同時に呼ぶ。
すると二人がこちらを向いた。
二人がこちらを向いた
「オリビア様!」
アンヌが堪らずオリビアの横に座り込む。
そして手で体を支えながら嗚咽し始めた。
オリビア様が声掛けに振り向いた!たったそれだけのことだったが、それだけの事をこの数カ月オリビアはしていなかった、出来なかった。
嗚咽するアンヌの体をオリビアは抱きしめた。
「ごめんねアンヌ。とても心配をかけたわね」
オリビアは勿論アンヌの献身を見ていた。ただそこに感情を乗せることが出来なかっただけだった。
オリビアの突然の回復に驚きを隠せない、アレクサンドルの従者レオナールは、その場に立ち尽くしていた。
彼もまた、幼い頃からオリビアを知っている。
ふとレオナールはアレクサンドルを見る。
すると主が俯いて肩を震わせているのが分かった。彼は泣いているのだろうと近付くと「来るな!」と恥ずかしがって、アレクサンドルは距離を置こうとする。
それでも近付くレオナールから、またもやアレクサンドルは逃げる。
それを繰り返していたら、そんなに広くなかったシートからアレクサンドルがはみ出てしまった。
その二人のやり取りを、抱き合っていたオリビアとアンヌは目にしていた。
とうとうはみ出たアレクサンドルが可笑しくてオリビアは「ふふふっ」と笑った。
─オリビアが笑っている─
三人は、胸に熱いものが込み上げた。
とうとうレオナールまで泣いてしまった。
孤児院の子どもたちが、泣いている四人を心配して集まってくる。
「だいじょうぶ?」
「どこかいたいの?」
「いちゃいの?」
「とんでけ~とんでけ~」
痛みをとるおまじないを、口々に唱える子供達の合唱、その声を風が優しく包むように広い野原に響かせていた。
小さな男の子が、クタクタになった小さな花をオリビアの手に乗せた。
「ありがとう」
オリビアが受け取ると男の子がニカッと笑顔を彼女に向けた。その時オリビアの胸に熱いものが込み上げた。彼女は、広い野原にシートを敷いてアレクサンドルと二人で座っていた。
(元気がないわね)
オリビアはそう思って、水筒に入っていた水を手のひらの上でその花にかけた。
その時、風が吹いたのをオリビアは肌で感じた。
(アレッ?私、どうして?)
マリウスに裏切られ、やっと授かった子は天に召された。
そこまではちゃんと覚えている。
否、それ以降も日々の出来事は覚えているけれど、オリビアの頭の中では何の感情も起きず、ただ全てがすり抜けていく感覚だった。
だから今日も、今日も、今日は?
そこでオリビアは確かめるように隣のアレクサンドルを見た。
下を向いて自分の掌に水をかけていたオリビアの様子を、見守っていたアレクサンドルは、突然彼女が顔を上げた事に驚いた。
アレクサンドルの驚きは、オリビアが顔を上げたことではなかった、暗く混沌としていたオリビアの瞳に光が見える。
いつもの虚ろな瞳ではなく、そこに光が映っているように感じる。
「オリビア?」
「⋯⋯⋯私、兄様と。旅行?」
そう言って再び目を伏せたオリビアだったが、直ぐに顔を上げてアレクサンドルを見つめた。
「兄様、ありがとう」
「オリビア!分かるか?私が分かるのか?」
その途端オリビアが涙を流して何度も頷く。
彼女の瞳にやっと涙が戻った。
その顔を見て、アレクサンドルはオリビアを抱きしめた。
アレクサンドルの従者とアンヌは、この日訪れた孤児院の子達と野原で遊んでいた。
だがお互い主の姿は、目の端にちゃんと捉えるようにはしていた。
抱き合う二人を見て、こちらの二人も一斉に走り出した。
一度オリビアを抱きしめてしまったアレクサンドルが、ずっと我慢していたのは二人とも知っていた。
それを解禁しているのだ。
何かあったに違いないと動かす足にも気合が入った。
「オリビア様」
「アレク様」
アンヌと従者がそれぞれの主人を同時に呼ぶ。
すると二人がこちらを向いた。
二人がこちらを向いた
「オリビア様!」
アンヌが堪らずオリビアの横に座り込む。
そして手で体を支えながら嗚咽し始めた。
オリビア様が声掛けに振り向いた!たったそれだけのことだったが、それだけの事をこの数カ月オリビアはしていなかった、出来なかった。
嗚咽するアンヌの体をオリビアは抱きしめた。
「ごめんねアンヌ。とても心配をかけたわね」
オリビアは勿論アンヌの献身を見ていた。ただそこに感情を乗せることが出来なかっただけだった。
オリビアの突然の回復に驚きを隠せない、アレクサンドルの従者レオナールは、その場に立ち尽くしていた。
彼もまた、幼い頃からオリビアを知っている。
ふとレオナールはアレクサンドルを見る。
すると主が俯いて肩を震わせているのが分かった。彼は泣いているのだろうと近付くと「来るな!」と恥ずかしがって、アレクサンドルは距離を置こうとする。
それでも近付くレオナールから、またもやアレクサンドルは逃げる。
それを繰り返していたら、そんなに広くなかったシートからアレクサンドルがはみ出てしまった。
その二人のやり取りを、抱き合っていたオリビアとアンヌは目にしていた。
とうとうはみ出たアレクサンドルが可笑しくてオリビアは「ふふふっ」と笑った。
─オリビアが笑っている─
三人は、胸に熱いものが込み上げた。
とうとうレオナールまで泣いてしまった。
孤児院の子どもたちが、泣いている四人を心配して集まってくる。
「だいじょうぶ?」
「どこかいたいの?」
「いちゃいの?」
「とんでけ~とんでけ~」
痛みをとるおまじないを、口々に唱える子供達の合唱、その声を風が優しく包むように広い野原に響かせていた。
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