あなたならどうなさいますか?

maruko

文字の大きさ
20 / 61

20

「こで、あげりゅ~」

 小さな男の子が、クタクタになった小さな花をオリビアの手に乗せた。

「ありがとう」

 オリビアが受け取ると男の子がニカッと笑顔を彼女に向けた。その時オリビアの胸に熱いものが込み上げた。彼女は、広い野原にシートを敷いてアレクサンドルと二人で座っていた。

 (元気がないわね)

 オリビアはそう思って、水筒に入っていた水を手のひらの上でその花にかけた。
 その時、風が吹いたのをオリビアは肌で感じた。

 (アレッ?私、どうして?)

 マリウスに裏切られ、やっと授かった子は天に召された。
 そこまではちゃんと覚えている。
 否、それ以降も日々の出来事は覚えているけれど、オリビアの頭の中では何の感情も起きず、ただ全てがすり抜けていく感覚だった。

 だから今日も、今日も、今日は?

 そこでオリビアは確かめるように隣のアレクサンドルを見た。

 下を向いて自分の掌に水をかけていたオリビアの様子を、見守っていたアレクサンドルは、突然彼女が顔を上げた事に驚いた。
 アレクサンドルの驚きは、オリビアが顔を上げたことではなかった、暗く混沌としていたオリビアの瞳に光が見える。
 いつもの虚ろな瞳ではなく、そこに光がに感じる。

「オリビア?」

「⋯⋯⋯私、兄様と。旅行?」

 そう言って再び目を伏せたオリビアだったが、直ぐに顔を上げてアレクサンドルを見つめた。

「兄様、ありがとう」

「オリビア!分かるか?私が分かるのか?」

 その途端オリビアが涙を流して何度も頷く。
 彼女の瞳にやっと涙が
 その顔を見て、アレクサンドルはオリビアを抱きしめた。


 アレクサンドルの従者とアンヌは、この日訪れた孤児院の子達と野原で遊んでいた。
 だがお互い主の姿は、目の端にちゃんと捉えるようにはしていた。

 抱き合う二人を見て、こちらの二人も一斉に走り出した。

 一度オリビアを抱きしめてしまったアレクサンドルが、ずっと我慢していたのは二人とも知っていた。
 それを解禁しているのだ。
 何かあったに違いないと動かす足にも気合が入った。

「オリビア様」
「アレク様」

 アンヌと従者がそれぞれの主人を同時に呼ぶ。
 すると二人がこちらを向いた。

 こちらを向いた

「オリビア様!」

 アンヌが堪らずオリビアの横に座り込む。
 そして手で体を支えながら嗚咽し始めた。
 オリビア様が声掛けに振り向いた!たったそれだけのことだったが、それだけの事をこの数カ月オリビアはしていなかった、出来なかった。

 嗚咽するアンヌの体をオリビアは抱きしめた。

「ごめんねアンヌ。とても心配をかけたわね」

 オリビアは勿論アンヌの献身を。ただそこに感情を乗せることが出来なかっただけだった。

 オリビアの突然の回復に驚きを隠せない、アレクサンドルの従者レオナールは、その場に立ち尽くしていた。

 彼もまた、幼い頃からオリビアを知っている。

 ふとレオナールはアレクサンドルを見る。
 すると主が俯いて肩を震わせているのが分かった。彼は泣いているのだろうと近付くと「来るな!」と恥ずかしがって、アレクサンドルは距離を置こうとする。
 それでも近付くレオナールから、またもやアレクサンドルは逃げる。
 それを繰り返していたら、そんなに広くなかったシートからアレクサンドルがはみ出てしまった。

 その二人のやり取りを、抱き合っていたオリビアとアンヌは目にしていた。
 とうとうはみ出たアレクサンドルが可笑しくてオリビアは「ふふふっ」と笑った。

 ─オリビアが笑っている─

 三人は、胸に熱いものが込み上げた。
 とうとうレオナールまで泣いてしまった。

 孤児院の子どもたちが、泣いている四人を心配して集まってくる。

「だいじょうぶ?」
「どこかいたいの?」
「いちゃいの?」
「とんでけ~とんでけ~」

 痛みをとるおまじないを、口々に唱える子供達の合唱、その声を風が優しく包むように広い野原に響かせていた。





あなたにおすすめの小説

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

【完結】わたしの欲しい言葉

彩華(あやはな)
恋愛
わたしはいらない子。 双子の妹は聖女。生まれた時から、両親は妹を可愛がった。 はじめての旅行でわたしは置いて行かれた。 わたしは・・・。 数年後、王太子と結婚した聖女たちの前に現れた帝国の使者。彼女は一足の靴を彼らの前にさしだしたー。 *ドロッとしています。 念のためティッシュをご用意ください。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

なぜ、虐げてはいけないのですか?

碧井 汐桜香
恋愛
男爵令嬢を虐げた罪で、婚約者である第一王子に投獄された公爵令嬢。 処刑前日の彼女の獄中記。 そして、それぞれ関係者目線のお話