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オリビアは少しずつ回復していった。
それは針に糸を通す程に繊細だった。
アレクサンドルはそれを注意深く見守りながら旅を続けた。
まだ王都には帰れない、まだオリビアは心を開放し始めたばかりだと慎重にならざるを得なかった。
アンヌは嬉しかった。
毎日髪を梳いて差し上げても、鏡越しに見るオリビアの表情は暗かった。どこを見てるのかわからない主は、もう二度と自分を目に映してくれないのではないか、そんな恐怖を毎日感じていた。
最近は髪を梳くとオリビアが、鏡越しにアンヌを見ているのが分かる。話しかけることもあった。
そしてオリビアが回復し始めて10日ほど経った時、彼女が髪型の希望を言った。
「今日は、少し纏めようかしら?」
言われた途端、アンヌは櫛を落としてしまった。「申し訳ありません」そう言いながら心は踊る。
別の櫛で再び梳き始めるとオリビアが不安げに見ている事に気付いた。
「オリビア様?」
「髪留めなかったかしら?」
オリビアはアンヌが髪をまとめる髪留めを、用意してなかったから動揺したのではないか?そう思ったようだ。
「いえ、ございます。アレク様より頂いておりますから。そういえば始めて使いますね」
アンヌはこの旅でアレクサンドルから、愛称呼びを許されていた。それまでは王子殿下と呼んでいたが、身分を隠しながら旅をする為、許されたのだった。
アレクサンドルからと言ったが選んだのはアンヌだ。
無機質になったオリビアが、元気になったらその時に着けようと思って購入していた。
5つの薔薇をモチーフにアメジストで作られたその髪留めには、アンヌのオリビアへの思いもあった。
サイドを編み込みにして少し下の方で後ろに纏めて、パチンと髪を留める。
久しぶりに髪留めの感触を感じたのか、オリビアは直ぐに髪留めに手を当てて、体を少し斜めに向けた。
鏡に映るオリビアの横顔を見ながらアンヌは涙が溢れて、慌ててポケットからハンカチを取り出して拭った。
お嬢様には笑顔を見せないと!
いつもお嬢様は笑っていて欲しい
アンヌの小さな望みは、やっと叶ったのかもしれない。
◇◇◇
リーテンベルク侯爵家では、事の真相が明らかになった。
執務室ではリーシャがマイナに動機を聞いた。
すでに調査で、ロミス伯爵の愛人となっていることは分かっていたが、そもそもそれを彼女はリーシャに気取らせていない。
どちらが近づいたのかはわからないが、マイナ本人にも何かしらの動機があったのではないかとリーシャは考えていた。
マイナは元々、子爵家の4女だった。
男を期待して子爵は奥方に沢山の子種を注いだ。
だが今度こそと期待した子はマイナだった。
がっくりと項垂れた子爵は、妻をマイナとともに追い出した。
マイナが女であった為に追い出されたのだと、逆恨みした母は、追い出されたその足でマイナをメロウ伯爵家に“売った”。
前メロウ伯爵は、引き取った赤子を当時の侍女長に預け夫妻で養育してもらった。それは偏にマイナの境遇を不憫に思っての事だった。
マイナには争いの種となってはいけない為、真実を隠して、侍女長夫妻の実子と話してあった。
リーシャはリーテンベルク侯爵家に嫁ぐ時に、父より聞かされた。マイナに話すかはリーシャに一任されていた。
それを利用されたのだとリーシャが感じたのは、彼女の動機を聞かされた時だった。
「私もメロウ家の子供なのに、母親が侍女ということでリーシャ様に仕えることになったのは、あまりにも理不尽だとは思いませんか?貴方は私の妹なのですよ。貴方の幸せを壊す事で、私は溜飲が下りるのです」
「どこを勘違いしたらそうなるの?」
「伯爵家のリーマにちゃんと聞きました!」
リーマはかつてマイナの養い親の侍女長と、仲の悪かった侍女だ。
彼女はとうに鬼籍に入っており聞くことは出来ないが、おそらく侍女長に嫉妬して嫌がらせをしたかったのだろうと思えた。
「貴方の親は貴方を捨てたことに間違いはないわ。でもそれはお父様ではないわ!」
リーシャが吐き捨てるように言うと、マイナは狂ったように髪を振り乱して叫んだ。
「うそよ!嘘ウソ嘘ウソ。貴方達は本音を上手に隠すもの!私もそう教育を受けたわ!私はメロウ伯爵の娘よ!」
目の前で叫び続けるマイナを見て、リーシャは感じた。
マイナはもう思い込まされた事が嘘だと気付いているのではないか?いつの段階で気付いたかは知らないが、その頃にはもうロミス伯爵にいいように取り込まれ、溺れさせられて抜け出せなくなったのではないかと感じた。
彼女の叫びには悲壮感が漂っていた。
かつて父がマイナに対して感じた憐れをリーシャも感じる事になった。
だが、それはそれだ。
娘に対してした事をリーシャが許せるはずもなく、彼女をリーテンベルク家の地下牢に繋いだ。
処遇は現リーテンベルク侯爵のオリビアがしなければならない。
オリビアが帰ってくるまで、マイナを生かす事がリーシャの仕事だった。
それは針に糸を通す程に繊細だった。
アレクサンドルはそれを注意深く見守りながら旅を続けた。
まだ王都には帰れない、まだオリビアは心を開放し始めたばかりだと慎重にならざるを得なかった。
アンヌは嬉しかった。
毎日髪を梳いて差し上げても、鏡越しに見るオリビアの表情は暗かった。どこを見てるのかわからない主は、もう二度と自分を目に映してくれないのではないか、そんな恐怖を毎日感じていた。
最近は髪を梳くとオリビアが、鏡越しにアンヌを見ているのが分かる。話しかけることもあった。
そしてオリビアが回復し始めて10日ほど経った時、彼女が髪型の希望を言った。
「今日は、少し纏めようかしら?」
言われた途端、アンヌは櫛を落としてしまった。「申し訳ありません」そう言いながら心は踊る。
別の櫛で再び梳き始めるとオリビアが不安げに見ている事に気付いた。
「オリビア様?」
「髪留めなかったかしら?」
オリビアはアンヌが髪をまとめる髪留めを、用意してなかったから動揺したのではないか?そう思ったようだ。
「いえ、ございます。アレク様より頂いておりますから。そういえば始めて使いますね」
アンヌはこの旅でアレクサンドルから、愛称呼びを許されていた。それまでは王子殿下と呼んでいたが、身分を隠しながら旅をする為、許されたのだった。
アレクサンドルからと言ったが選んだのはアンヌだ。
無機質になったオリビアが、元気になったらその時に着けようと思って購入していた。
5つの薔薇をモチーフにアメジストで作られたその髪留めには、アンヌのオリビアへの思いもあった。
サイドを編み込みにして少し下の方で後ろに纏めて、パチンと髪を留める。
久しぶりに髪留めの感触を感じたのか、オリビアは直ぐに髪留めに手を当てて、体を少し斜めに向けた。
鏡に映るオリビアの横顔を見ながらアンヌは涙が溢れて、慌ててポケットからハンカチを取り出して拭った。
お嬢様には笑顔を見せないと!
いつもお嬢様は笑っていて欲しい
アンヌの小さな望みは、やっと叶ったのかもしれない。
◇◇◇
リーテンベルク侯爵家では、事の真相が明らかになった。
執務室ではリーシャがマイナに動機を聞いた。
すでに調査で、ロミス伯爵の愛人となっていることは分かっていたが、そもそもそれを彼女はリーシャに気取らせていない。
どちらが近づいたのかはわからないが、マイナ本人にも何かしらの動機があったのではないかとリーシャは考えていた。
マイナは元々、子爵家の4女だった。
男を期待して子爵は奥方に沢山の子種を注いだ。
だが今度こそと期待した子はマイナだった。
がっくりと項垂れた子爵は、妻をマイナとともに追い出した。
マイナが女であった為に追い出されたのだと、逆恨みした母は、追い出されたその足でマイナをメロウ伯爵家に“売った”。
前メロウ伯爵は、引き取った赤子を当時の侍女長に預け夫妻で養育してもらった。それは偏にマイナの境遇を不憫に思っての事だった。
マイナには争いの種となってはいけない為、真実を隠して、侍女長夫妻の実子と話してあった。
リーシャはリーテンベルク侯爵家に嫁ぐ時に、父より聞かされた。マイナに話すかはリーシャに一任されていた。
それを利用されたのだとリーシャが感じたのは、彼女の動機を聞かされた時だった。
「私もメロウ家の子供なのに、母親が侍女ということでリーシャ様に仕えることになったのは、あまりにも理不尽だとは思いませんか?貴方は私の妹なのですよ。貴方の幸せを壊す事で、私は溜飲が下りるのです」
「どこを勘違いしたらそうなるの?」
「伯爵家のリーマにちゃんと聞きました!」
リーマはかつてマイナの養い親の侍女長と、仲の悪かった侍女だ。
彼女はとうに鬼籍に入っており聞くことは出来ないが、おそらく侍女長に嫉妬して嫌がらせをしたかったのだろうと思えた。
「貴方の親は貴方を捨てたことに間違いはないわ。でもそれはお父様ではないわ!」
リーシャが吐き捨てるように言うと、マイナは狂ったように髪を振り乱して叫んだ。
「うそよ!嘘ウソ嘘ウソ。貴方達は本音を上手に隠すもの!私もそう教育を受けたわ!私はメロウ伯爵の娘よ!」
目の前で叫び続けるマイナを見て、リーシャは感じた。
マイナはもう思い込まされた事が嘘だと気付いているのではないか?いつの段階で気付いたかは知らないが、その頃にはもうロミス伯爵にいいように取り込まれ、溺れさせられて抜け出せなくなったのではないかと感じた。
彼女の叫びには悲壮感が漂っていた。
かつて父がマイナに対して感じた憐れをリーシャも感じる事になった。
だが、それはそれだ。
娘に対してした事をリーシャが許せるはずもなく、彼女をリーテンベルク家の地下牢に繋いだ。
処遇は現リーテンベルク侯爵のオリビアがしなければならない。
オリビアが帰ってくるまで、マイナを生かす事がリーシャの仕事だった。
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