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翌朝、馬車の前で別れの挨拶をするオリビア。彼女の吐く息が白く、早朝の寒さを物語っていた。
傍らにはアレクサンドルの姿、後ろには休日明けのアンヌとレオナールが控えていた。
「伯父様、ありがとうございました。心も体も、とてもゆっくりする事ができました。伯父様達のおかげですわ」
「オリビア、侯爵というのは途轍もなく忙しいと思うが、休みを見つけるのも仕事のうちだ。また遊びにおいで、待ってるぞ」
伯父とハグを交わし挨拶を終えると、次に伯母に向き合う。すると伯母がファサっとオリビアにレースのショールをかけてくれた。このレースの色にオリビアは見覚えがあった。
昨日の馬車の中で伯母が編んでいた色のレースだ。
「オリビアは厚手とシルクのショールは持っているみたいだったけど、日中はそんなに寒くはないのよ。レースでも十分だから。でもこんなに早く出発するなんて、昨日の朝聞かされたんだもの。フフ、私夜鍋が苦手なの、本人の前で用意するなんてね、無作法を許して。リーシャと色違いよ」
オリビアは伯母に抱きついた。
この世で一番暖かなショールをもらった。
急いで作ったとは思えない繊細な編み目を見て、伯母が懸命に編んでいた馬車の中の光景を思い出す。
「⋯⋯っ伯母様、ありがとう、ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
嗚咽混じりの声は、周りにはよく聞こえなかったが、伯母にはしっかり届けられる。
「貴方が元気ならそれでいいのよ。そうだお義父様に伝言お願いできる?」
体を離して、伯母がオリビアに言った。
「えぇ、お義祖父様にちゃんと伝えるわ。何を伝えればいいの?」
「フフッ、たまには下界にも降りて来てって伝えて!」
茶目っ気のある伯母のその言葉に、周りの皆が笑う。やはり伯母は太陽だとオリビアは思う。
憧れの人と優しい伯父に別れを告げて、重要な伝言を胸に、義祖父の元へと向かった。
◇◇◇
リーシャの義父になる前メロウ伯爵は、伯父達の住む領主邸からよく見える、領内にあるもう一つの山、ルモン山の麓に別邸を建てて住んでいる。
何故そこに居を構えたか、理由は一つだった。
そこに最愛の妹が眠っているからだ。
メロウ伯爵家はこのトルサー王国でも長い歴史を誇る名門だ。
その歴史の始まりはトルサー王国の建国の時に遡るほどだ。それにも関わらず尽く陞爵を拒んだのは、この領地の地の利を活かす為にもこれ以上領地を広げたくなかった、それだけだった。
他の名門と言われる貴族家は、上位になるほどこの事をよく知っていた。
そしてメロウ伯爵家は忠臣でもあった。
必ず二人以上子供を儲け、一人は王家に仕えさせる事を家の決まりとしていた。
先代で王家に仕えたのは、メロウ伯爵家の次女アリスンだった。
アリスンは王妃付の侍女に配属された。
日々自身の役割を懸命に熟していると家族は皆信じていた。
そんなアリスンがほぼ臨月で戻ってきた時、何があったのかと兄であるキリジアは驚愕した。
共に着いてきた近衛騎士より、王家からの書簡を受け取った父は、それを拝読して咽び泣いていた。
キリジアも拝読させてもらった。
そこには陛下より、事の経緯とメロウ伯爵家への謝罪、アリスンの王家への忠義に対しての感謝が込められていた。
そしてその2週間後、アリスンは金髪でロイヤルブルーの瞳を持つ娘を産んだ。
だが、妊娠中にも関わらず、王都からメロウ伯爵家の領地までの長い馬車の旅は、アリスンの体にかなりの負担を強いていた。
出産の出血に弱ったアリスンは耐えられなかった。
彼女の最期の言葉をキリジアは今でもその声とともに耳に残っている。
「お父様、お兄様、子供をお願いします。ふぅ、私は王家の秘密を守れましたか?」
そう言って永遠に瞳を閉じた。
キリジアは妹アリスンの王家への忠義に脱帽した。
だから彼は、爵位を継承しても両親が亡くなっても、息子に爵位を譲っても、アリスンの眠る墓だけは自分が守るのだと決めている。
アリスンは領地が、特にこちらのルモン山の景色が好きだった。
ルモン山の麓では牧羊が盛んで、他にも牛や山羊を飼育している。
ここには幼い頃に兄妹でよく遊びにも来ていた。小さな湖に来る渡り鳥を眺めたり、森で虫取りをしたり、ルモン山には兄妹の沢山の想い出がそこかしこから覗いている。
今日はアリスンの孫になるオリビアが訪ねてくる予定だ。
キリジアは、オリビアに食べさせようと、アリスンのレシピで、手ずからクッキーを焼く為に、朝から忙しく厨房で大騒ぎをしていた。
傍らにはアレクサンドルの姿、後ろには休日明けのアンヌとレオナールが控えていた。
「伯父様、ありがとうございました。心も体も、とてもゆっくりする事ができました。伯父様達のおかげですわ」
「オリビア、侯爵というのは途轍もなく忙しいと思うが、休みを見つけるのも仕事のうちだ。また遊びにおいで、待ってるぞ」
伯父とハグを交わし挨拶を終えると、次に伯母に向き合う。すると伯母がファサっとオリビアにレースのショールをかけてくれた。このレースの色にオリビアは見覚えがあった。
昨日の馬車の中で伯母が編んでいた色のレースだ。
「オリビアは厚手とシルクのショールは持っているみたいだったけど、日中はそんなに寒くはないのよ。レースでも十分だから。でもこんなに早く出発するなんて、昨日の朝聞かされたんだもの。フフ、私夜鍋が苦手なの、本人の前で用意するなんてね、無作法を許して。リーシャと色違いよ」
オリビアは伯母に抱きついた。
この世で一番暖かなショールをもらった。
急いで作ったとは思えない繊細な編み目を見て、伯母が懸命に編んでいた馬車の中の光景を思い出す。
「⋯⋯っ伯母様、ありがとう、ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
嗚咽混じりの声は、周りにはよく聞こえなかったが、伯母にはしっかり届けられる。
「貴方が元気ならそれでいいのよ。そうだお義父様に伝言お願いできる?」
体を離して、伯母がオリビアに言った。
「えぇ、お義祖父様にちゃんと伝えるわ。何を伝えればいいの?」
「フフッ、たまには下界にも降りて来てって伝えて!」
茶目っ気のある伯母のその言葉に、周りの皆が笑う。やはり伯母は太陽だとオリビアは思う。
憧れの人と優しい伯父に別れを告げて、重要な伝言を胸に、義祖父の元へと向かった。
◇◇◇
リーシャの義父になる前メロウ伯爵は、伯父達の住む領主邸からよく見える、領内にあるもう一つの山、ルモン山の麓に別邸を建てて住んでいる。
何故そこに居を構えたか、理由は一つだった。
そこに最愛の妹が眠っているからだ。
メロウ伯爵家はこのトルサー王国でも長い歴史を誇る名門だ。
その歴史の始まりはトルサー王国の建国の時に遡るほどだ。それにも関わらず尽く陞爵を拒んだのは、この領地の地の利を活かす為にもこれ以上領地を広げたくなかった、それだけだった。
他の名門と言われる貴族家は、上位になるほどこの事をよく知っていた。
そしてメロウ伯爵家は忠臣でもあった。
必ず二人以上子供を儲け、一人は王家に仕えさせる事を家の決まりとしていた。
先代で王家に仕えたのは、メロウ伯爵家の次女アリスンだった。
アリスンは王妃付の侍女に配属された。
日々自身の役割を懸命に熟していると家族は皆信じていた。
そんなアリスンがほぼ臨月で戻ってきた時、何があったのかと兄であるキリジアは驚愕した。
共に着いてきた近衛騎士より、王家からの書簡を受け取った父は、それを拝読して咽び泣いていた。
キリジアも拝読させてもらった。
そこには陛下より、事の経緯とメロウ伯爵家への謝罪、アリスンの王家への忠義に対しての感謝が込められていた。
そしてその2週間後、アリスンは金髪でロイヤルブルーの瞳を持つ娘を産んだ。
だが、妊娠中にも関わらず、王都からメロウ伯爵家の領地までの長い馬車の旅は、アリスンの体にかなりの負担を強いていた。
出産の出血に弱ったアリスンは耐えられなかった。
彼女の最期の言葉をキリジアは今でもその声とともに耳に残っている。
「お父様、お兄様、子供をお願いします。ふぅ、私は王家の秘密を守れましたか?」
そう言って永遠に瞳を閉じた。
キリジアは妹アリスンの王家への忠義に脱帽した。
だから彼は、爵位を継承しても両親が亡くなっても、息子に爵位を譲っても、アリスンの眠る墓だけは自分が守るのだと決めている。
アリスンは領地が、特にこちらのルモン山の景色が好きだった。
ルモン山の麓では牧羊が盛んで、他にも牛や山羊を飼育している。
ここには幼い頃に兄妹でよく遊びにも来ていた。小さな湖に来る渡り鳥を眺めたり、森で虫取りをしたり、ルモン山には兄妹の沢山の想い出がそこかしこから覗いている。
今日はアリスンの孫になるオリビアが訪ねてくる予定だ。
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