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途中休憩を挿みながら義祖父の邸へと向かうオリビア達。
早朝の出発だったのに、太陽はもうすぐ真上に掛かるとこだった。
もうすぐ春が訪れる陽の光は暖かく、厚着していたオリビア達は上着を一枚脱いでいた。
「おや?ひょっとしてオリビア様ですか?」
休憩の度に気の良い領民達が、休んでいるオリビア達に温かい飲み物やお菓子を差し入れてくれていた。
毎年王家の肖像画を、教会の一室に飾られるのだが、王都からこんなにも離れているメロウ伯爵領では、掛け替えが追いついていない。
王太子夫妻の肖像画ならともかく、第三王子であるアレクサンドルの肖像画は、幼い頃の物だけを領民達は目にしていた。
だからまさか王都からこんなに離れた領地に第三王子が来るなんて、皆は思っていないから気安く差し入れを持ってくる。
本来なら不敬で裁かれる所だが、お忍びのアレクサンドルにそんな気はない。それに一応レオナールがさり気なく毒味はしていた。
そんな休憩を繰り返して、最後の休憩に立ち寄った所で、その声はかけられた。
因みにここに来るまでの休憩した二ヶ所では、オリビアさえ誰にも気付かれていない。
「えぇ、私をご存じですか?」
素性を隠してるつもりがなかったオリビアは、声をかけてきた領民に頷きながら応える。
彼の身なりからそれなりに裕福である事も窺える。
「すれ違わなくて良かった、お迎えに来たのです」
そう言ってその男性は、胸に手を当て臣下の礼をする。どうやら私服ではあるけれど騎士のようだった。
彼の名はトマソール、オリビアの義祖父の従者ということだった。
この先の道が三叉になっていて、かなりの頻度で迷う人が多いそうだ。通り慣れている領民はともかく、初めて訪れるというオリビアは、きっと迷ってしまうかもしれないと、危惧して彼を迎えに寄越してくれていた。
後ほど、長い旅に付き合わせている馭者に聞くと「あの三叉はややこしいですよ、お迎えが来てくれて良かったです」と安堵する声で教えてくれた。
トマソールのおかげで迷い無く伯爵家の別邸に到着したオリビア達を、義祖父のキリジアがにこやかに迎えてくれた。
「オリビア!良く来た!大きくなったな」
「お義祖父様!」
挨拶のハグをしたオリビアは、キリジアから漂う甘い香りが、懐かしい匂いだと思った。
その後、別邸の中に案内された一行は、キリジアから漂う匂いが、別邸全体に広がっている事を不思議に思った。
丁度昼食の時間に到着したので、誘われるまま食事を一緒にする事になった。
どうやら、庭に昼食を用意してくれたようだ。
「王子殿下に構わないとご返答頂きましたので、庭に用意しています。この季節は朝晩は寒いですが、昼はいい風が心地よいのですよ」
アレクサンドルに恐縮しながら、案内をするキリジアは、かなりの歳なのに足腰はしっかりとしていて、背筋もピンと伸びている。
(お義祖父様、とってもお元気そう)
身内が殆ど側にいることがないオリビアにとって、義祖父と会うのは物心ついてからは、数えるほどしかなかった。
近況も母経由であるし、その母とも長年心の隔たりがあった。
オリビアは義祖父が元気なことが、不思議でそしてとても嬉しかった。
本当の祖父は、もう鬼籍に入っているから、キリジアには、いつまでも元気でいて欲しかった。
昼食を終えて部屋で、少しだけ休んでから再び顔を合わせたキリジアに、お茶を薦められたとき、甘い匂いの正体が判明した。
その見た目と匂いにオリビアは見覚えがあった。モグッと口にして咀嚼する。甘い香りが口いっぱいに広がる。
「マイナのクッキー」
「「えっ?」」
オリビアの呟きに、キリジアとアレクサンドルが同時に驚きの声を上げる。
「オリビア、これはリーシャ様のクッキーだよ」
「えっ?」
アレクサンドルの指摘にキリジアも頷いている。オリビアは自分の手にある、齧りかけのクッキーを見つめて目を見開いた。
このクッキーは幼い頃から良く口にしていたクッキーだった。
いつもマイナが持ってきてくれていたから、てっきりマイナが作っていたと思っていた。
それに彼女はそれを否定したことなどなかった。
「どうして?」
疑問が口を吐く。
だが、その答えはこの場の誰も知らない。
アンヌもそれはマイナのクッキーだと思っていたからだ。
オリビアの疑問には答えられなくても、彼女には言っておかなければならない事が、キリジアにはあった。
目線で人払いをして、お茶をしていた応接室は三人だけになった。
「オリビア、それはアリスンのレシピなんだ。彼女が野菜嫌いな私の為に考案したんだ。それを私がリーシャに教えた。マイナには教えていないよ。元よりあの子には我が家の秘密は何一つ教えていない」
「そう、なのですか⋯お祖母様のレシピ」
オリビアは母の出自の秘密を、お忍びでリーテンベルク侯爵家に訪れた現陛下に教えられた。ただその時は、リーシャが王家の血を継いでいること、訳あってそれを公にはできないことだけを伝えられ、どうしてそうなったのかなど詳細は教えられなかった。
だから知っていても現実のもののようには感じることはなかった。
王家とは別に生きる母と父だったから、特別オリビアに関係はないように思えたからだ。
でも、オリビアがマリウスと結婚して父の愚行のあと、メロウ伯爵家に帰ることになったリーシャに真実を教えられた。
だから今回メロウ伯爵家にきて、祖母の墓前にきちんとお祈りがしたくなったのだ。
マイナがどうしてクッキーが母からだと言ってくれなかったのか、もしも幼い頃に言ってくれたら、母との溝も早くに埋まっていただろう。
だってこのクッキーが出される時は、必ずオリビアが落ち込んだり悲しくなったりした時に、マイナが持ってきてくれて、元気づけられたからだ。
「マイナどうして言ってくれなかったのかしら?」
オリビアの疑問は王都に戻ってから解決する事になる。
早朝の出発だったのに、太陽はもうすぐ真上に掛かるとこだった。
もうすぐ春が訪れる陽の光は暖かく、厚着していたオリビア達は上着を一枚脱いでいた。
「おや?ひょっとしてオリビア様ですか?」
休憩の度に気の良い領民達が、休んでいるオリビア達に温かい飲み物やお菓子を差し入れてくれていた。
毎年王家の肖像画を、教会の一室に飾られるのだが、王都からこんなにも離れているメロウ伯爵領では、掛け替えが追いついていない。
王太子夫妻の肖像画ならともかく、第三王子であるアレクサンドルの肖像画は、幼い頃の物だけを領民達は目にしていた。
だからまさか王都からこんなに離れた領地に第三王子が来るなんて、皆は思っていないから気安く差し入れを持ってくる。
本来なら不敬で裁かれる所だが、お忍びのアレクサンドルにそんな気はない。それに一応レオナールがさり気なく毒味はしていた。
そんな休憩を繰り返して、最後の休憩に立ち寄った所で、その声はかけられた。
因みにここに来るまでの休憩した二ヶ所では、オリビアさえ誰にも気付かれていない。
「えぇ、私をご存じですか?」
素性を隠してるつもりがなかったオリビアは、声をかけてきた領民に頷きながら応える。
彼の身なりからそれなりに裕福である事も窺える。
「すれ違わなくて良かった、お迎えに来たのです」
そう言ってその男性は、胸に手を当て臣下の礼をする。どうやら私服ではあるけれど騎士のようだった。
彼の名はトマソール、オリビアの義祖父の従者ということだった。
この先の道が三叉になっていて、かなりの頻度で迷う人が多いそうだ。通り慣れている領民はともかく、初めて訪れるというオリビアは、きっと迷ってしまうかもしれないと、危惧して彼を迎えに寄越してくれていた。
後ほど、長い旅に付き合わせている馭者に聞くと「あの三叉はややこしいですよ、お迎えが来てくれて良かったです」と安堵する声で教えてくれた。
トマソールのおかげで迷い無く伯爵家の別邸に到着したオリビア達を、義祖父のキリジアがにこやかに迎えてくれた。
「オリビア!良く来た!大きくなったな」
「お義祖父様!」
挨拶のハグをしたオリビアは、キリジアから漂う甘い香りが、懐かしい匂いだと思った。
その後、別邸の中に案内された一行は、キリジアから漂う匂いが、別邸全体に広がっている事を不思議に思った。
丁度昼食の時間に到着したので、誘われるまま食事を一緒にする事になった。
どうやら、庭に昼食を用意してくれたようだ。
「王子殿下に構わないとご返答頂きましたので、庭に用意しています。この季節は朝晩は寒いですが、昼はいい風が心地よいのですよ」
アレクサンドルに恐縮しながら、案内をするキリジアは、かなりの歳なのに足腰はしっかりとしていて、背筋もピンと伸びている。
(お義祖父様、とってもお元気そう)
身内が殆ど側にいることがないオリビアにとって、義祖父と会うのは物心ついてからは、数えるほどしかなかった。
近況も母経由であるし、その母とも長年心の隔たりがあった。
オリビアは義祖父が元気なことが、不思議でそしてとても嬉しかった。
本当の祖父は、もう鬼籍に入っているから、キリジアには、いつまでも元気でいて欲しかった。
昼食を終えて部屋で、少しだけ休んでから再び顔を合わせたキリジアに、お茶を薦められたとき、甘い匂いの正体が判明した。
その見た目と匂いにオリビアは見覚えがあった。モグッと口にして咀嚼する。甘い香りが口いっぱいに広がる。
「マイナのクッキー」
「「えっ?」」
オリビアの呟きに、キリジアとアレクサンドルが同時に驚きの声を上げる。
「オリビア、これはリーシャ様のクッキーだよ」
「えっ?」
アレクサンドルの指摘にキリジアも頷いている。オリビアは自分の手にある、齧りかけのクッキーを見つめて目を見開いた。
このクッキーは幼い頃から良く口にしていたクッキーだった。
いつもマイナが持ってきてくれていたから、てっきりマイナが作っていたと思っていた。
それに彼女はそれを否定したことなどなかった。
「どうして?」
疑問が口を吐く。
だが、その答えはこの場の誰も知らない。
アンヌもそれはマイナのクッキーだと思っていたからだ。
オリビアの疑問には答えられなくても、彼女には言っておかなければならない事が、キリジアにはあった。
目線で人払いをして、お茶をしていた応接室は三人だけになった。
「オリビア、それはアリスンのレシピなんだ。彼女が野菜嫌いな私の為に考案したんだ。それを私がリーシャに教えた。マイナには教えていないよ。元よりあの子には我が家の秘密は何一つ教えていない」
「そう、なのですか⋯お祖母様のレシピ」
オリビアは母の出自の秘密を、お忍びでリーテンベルク侯爵家に訪れた現陛下に教えられた。ただその時は、リーシャが王家の血を継いでいること、訳あってそれを公にはできないことだけを伝えられ、どうしてそうなったのかなど詳細は教えられなかった。
だから知っていても現実のもののようには感じることはなかった。
王家とは別に生きる母と父だったから、特別オリビアに関係はないように思えたからだ。
でも、オリビアがマリウスと結婚して父の愚行のあと、メロウ伯爵家に帰ることになったリーシャに真実を教えられた。
だから今回メロウ伯爵家にきて、祖母の墓前にきちんとお祈りがしたくなったのだ。
マイナがどうしてクッキーが母からだと言ってくれなかったのか、もしも幼い頃に言ってくれたら、母との溝も早くに埋まっていただろう。
だってこのクッキーが出される時は、必ずオリビアが落ち込んだり悲しくなったりした時に、マイナが持ってきてくれて、元気づけられたからだ。
「マイナどうして言ってくれなかったのかしら?」
オリビアの疑問は王都に戻ってから解決する事になる。
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