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思った以上にリーシャの到着は早かった。
出迎えたニコルは、オリビアが午睡中だと告げる。
「寝顔でもいいの、顔を見たいわ」
半年前、娘の瞳には何も映さないほどに暗かった。その瞳を今は閉じていても顔色はわかるはず、リーシャは娘の無事を確かめたかった。
そっと部屋に入りベッドに近寄る。
すやすやと寝入ってるオリビアの頬は、ほんのりピンク色に見える。
「良かった、ちゃんと生きてるわ」
アレクサンドルもアンヌも一緒で、そんな事になるはずはなくても、あの頃のオリビアは何かの拍子に“自死”しかねないと、リーシャは思っていた。リーシャは子を亡くしたわけではないけれど、オリビアを産んだ途端、夫の愛が失くなったのを知った。
あの時、リーシャが思い留まったのはオリビアの存在と、自分を命懸けで産んでくれた母を思ったからだ。
オリビアが旅に出ていたこの半年間、そんな報せが来たらと常に怯えていた。
ただ無事で、生きていてくれてさえいればいい。
リーシャは、オリビアの寝顔を見つめながら、規則正しく上下に動く体を、無意識に掛布の上から撫でていた。
目覚めたオリビアは、リーシャが既に到着したことを知り、慌てて起き上がったが、話は夕食後にするから、それまでゆっくりするようにと侍女から伝えられる。
リーシャには、たくさん話しをしたかった。
旅の間の事やメロウ伯爵家の事、そしてアレクサンドルと思いが通じ合ったこと。
特にアレクサンドルとの事では、おそらく今後色々と迷惑をかけることになるかもしれない。
それでも、オリビアはアレクサンドルを待つ。待ちたかった。
今自身の体は、子を持てるか分からない。
リーテンベルク侯爵家を次代に繋がなければならないが、オリビアの子供だとは限らないと覚悟をしなければいけない。
リーシャは、アレクサンドルとの事をどう思うだろうか?
はじめにアレクサンドルとの再会をお膳立てしてくれたのは母だ。
マリウスの事で悩むだろうオリビアの相談役にと連絡をしてくれた。
今はその事に感謝している。
兄妹のような関係だと思っていたのに、アレクサンドルはずっと自分を女性として見てくれていた。その事を知らされて自分が如何に鈍いのかを思い知らされた。
マリウスの裏切りを擁護するつもりはないけれど、彼を親戚から守っていたつもりでいたけれど、オリビアのフォローは空回りしていたのではないだろうか?
ちゃんとマリウスの辛さに寄り添って上げていなかったのではないかと、ここに来て反省し始めてもいた。
「マリウスともっと話せば良かった」
結婚して、直ぐに爵位を継がなければならなかった。慣れてるはずの家の仕事は、ほんの一部しかしたことのないものばかりだった。
オリビアに余裕がなかったのは否めない。
それでも夫婦だったのに、彼の苦しさを離婚が決まってから知る事になった事が、オリビアを苦しめた。
追い打ちをかけるように子を亡くした。
その辛さをアレクサンドルはその愛で包んでくれた。
亡くした痛みを癒やされたわけではないけれど、いつでも一緒に寄り添ってくれると信じられるほどに、大きな愛でアレクサンドルはオリビアの心を包んだ。
今更ながら、そんな愛でマリウスを包んであげられなかったし、包んでもらえなかった。
マリウスと自分は夫婦であって夫婦でなかったのだと過去を振り返り思う。
過去の過ちを繰り返さないように、オリビアはもっと自分はちゃんと人を見なければいけないと思った。
リーシャもいつもオリビアを気にかけてくれていたのだと、クッキーの一齧りが教えてくれた。
わかりやすい愛もあれば、気付けない愛もあることをオリビアは学んだ。
外を見るとオレンジ色に染まる夕焼けにピンク色の線が混じり始めた。
夕暮れに差し掛かる時刻だ。
オリビアは立ち上がる。
床にしっかりと足をつけた時『はじめの一歩』だと感じた。
アリスンの眠るルモン山の空気を吸った時のように、思いっきり深呼吸をした。
「さぁ着替えましょう!」
オリビアの新たな生活が幕を開けた。
出迎えたニコルは、オリビアが午睡中だと告げる。
「寝顔でもいいの、顔を見たいわ」
半年前、娘の瞳には何も映さないほどに暗かった。その瞳を今は閉じていても顔色はわかるはず、リーシャは娘の無事を確かめたかった。
そっと部屋に入りベッドに近寄る。
すやすやと寝入ってるオリビアの頬は、ほんのりピンク色に見える。
「良かった、ちゃんと生きてるわ」
アレクサンドルもアンヌも一緒で、そんな事になるはずはなくても、あの頃のオリビアは何かの拍子に“自死”しかねないと、リーシャは思っていた。リーシャは子を亡くしたわけではないけれど、オリビアを産んだ途端、夫の愛が失くなったのを知った。
あの時、リーシャが思い留まったのはオリビアの存在と、自分を命懸けで産んでくれた母を思ったからだ。
オリビアが旅に出ていたこの半年間、そんな報せが来たらと常に怯えていた。
ただ無事で、生きていてくれてさえいればいい。
リーシャは、オリビアの寝顔を見つめながら、規則正しく上下に動く体を、無意識に掛布の上から撫でていた。
目覚めたオリビアは、リーシャが既に到着したことを知り、慌てて起き上がったが、話は夕食後にするから、それまでゆっくりするようにと侍女から伝えられる。
リーシャには、たくさん話しをしたかった。
旅の間の事やメロウ伯爵家の事、そしてアレクサンドルと思いが通じ合ったこと。
特にアレクサンドルとの事では、おそらく今後色々と迷惑をかけることになるかもしれない。
それでも、オリビアはアレクサンドルを待つ。待ちたかった。
今自身の体は、子を持てるか分からない。
リーテンベルク侯爵家を次代に繋がなければならないが、オリビアの子供だとは限らないと覚悟をしなければいけない。
リーシャは、アレクサンドルとの事をどう思うだろうか?
はじめにアレクサンドルとの再会をお膳立てしてくれたのは母だ。
マリウスの事で悩むだろうオリビアの相談役にと連絡をしてくれた。
今はその事に感謝している。
兄妹のような関係だと思っていたのに、アレクサンドルはずっと自分を女性として見てくれていた。その事を知らされて自分が如何に鈍いのかを思い知らされた。
マリウスの裏切りを擁護するつもりはないけれど、彼を親戚から守っていたつもりでいたけれど、オリビアのフォローは空回りしていたのではないだろうか?
ちゃんとマリウスの辛さに寄り添って上げていなかったのではないかと、ここに来て反省し始めてもいた。
「マリウスともっと話せば良かった」
結婚して、直ぐに爵位を継がなければならなかった。慣れてるはずの家の仕事は、ほんの一部しかしたことのないものばかりだった。
オリビアに余裕がなかったのは否めない。
それでも夫婦だったのに、彼の苦しさを離婚が決まってから知る事になった事が、オリビアを苦しめた。
追い打ちをかけるように子を亡くした。
その辛さをアレクサンドルはその愛で包んでくれた。
亡くした痛みを癒やされたわけではないけれど、いつでも一緒に寄り添ってくれると信じられるほどに、大きな愛でアレクサンドルはオリビアの心を包んだ。
今更ながら、そんな愛でマリウスを包んであげられなかったし、包んでもらえなかった。
マリウスと自分は夫婦であって夫婦でなかったのだと過去を振り返り思う。
過去の過ちを繰り返さないように、オリビアはもっと自分はちゃんと人を見なければいけないと思った。
リーシャもいつもオリビアを気にかけてくれていたのだと、クッキーの一齧りが教えてくれた。
わかりやすい愛もあれば、気付けない愛もあることをオリビアは学んだ。
外を見るとオレンジ色に染まる夕焼けにピンク色の線が混じり始めた。
夕暮れに差し掛かる時刻だ。
オリビアは立ち上がる。
床にしっかりと足をつけた時『はじめの一歩』だと感じた。
アリスンの眠るルモン山の空気を吸った時のように、思いっきり深呼吸をした。
「さぁ着替えましょう!」
オリビアの新たな生活が幕を開けた。
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